5.自殺志願者
もう死のう、そう思ったのは人生何度目だろうか。村からの引越しが決まった夜、転校先でいじめられてトイレでずっと泣いていた昼休み、父の再婚相手に熱々のフライパンで殴られた朝、他にも思い出したくない位、嫌な思いがたくさんあった。両手では数えられないくらい、そんなことがあったが、あの日の夜私はついに耐えられなくった。
そんな時目にしたのが、自殺サイトだった。
夢のような自殺をあなたに
そんな誰が見ても怪しいサイトに私はまんまと書き込んだ。巷では、こういうサイトで出会った人を誘拐して身代金を請求したり、殺したりと物騒なことが起きていたようだが、私はそんなことどうでも良かった。私を殺してくれるなら、悪魔でも死神でも、殺し屋だってよかった。
その日、伊達市のはずれの雑木林に集まったのは、わずかに6人。メガネをかけた冴えないおじさん、がさがさの金髪の若いお姉さん、眼帯をつけたおじいさん、普通に綺麗な人妻さん、何も喋らない同い年くらいの男、そして私。草木も眠る丑三つ時に、私達は死ぬために集まった。そして、そこには更に一人、全身を黒いスーツを着た背丈は180cmくらいの長身、真っ白い面をつけた不気味な人が、いつの間にか立っていた。まるで、最初からそこにいましたと言わんばかりに、私達の真ん中にひょっこり陣取っていた。
「どうもどうも、皆さん。このたびは私の運営する自殺サイト「逆夢」をごらんいただきありがとうございます。私は案内人の「黄泉路」と申します」
無駄に明るい声にすっかり毒気を抜かれた。周りも不振がるように、じっと仮面を見つめている。後ろに広がる森は風が吹くたびにざわつき、私達を見つめる動物の怪しい目と青白い月だけが怪しく光っていた。
「今夜は皆さんをあの世に誘うため、参りました。まずはそこのバンに乗ってください」
見るとそこにはいつの間にか3台のバンが並んでおり、なんとなく嫌な雰囲気を感じた。それは周りも同じだった。みな死ぬために来ているのにいざ、その瞬間になると怖がるなんて、なんて滑稽なんだろう。自嘲気味に笑いながら、その雰囲気を感じた案内人が、安心させるように説明する。
「ご安心ください。皆様、私は今すぐ皆様を死に誘うわけではありません」
「どういうことじゃ」
しわがれた声で、眼帯をつけたおじいさんが聞く。
「これから私が皆さんを二人ずつ車に乗せ、三回質問をします。それに連続して「ハイ」と答えられた場合のみ、最期までお連れします」
「言えなかったらどうなるのよ」
「別にどうもなりません、ここにお返しするだけです。まあ、本当に死にたいのならば、三回とも「ハイ」と答えるはずですがね」
そういって仮面の下で不気味に笑う案内人。私達は彼に案内されるまま、それぞれ分かれてバンへと連れて行かれた。
私は、隣にいた無口な同い年くらいの男と一緒にバンに乗った。中には同様の仮面をかぶった運転手とさっきの案内人が助手席に乗り込んできた。
前の二台に続いて、ゆっくりと発進する。これから死にに行くというのに、不思議と怖くは無かった。ふと隣を見ると男はうつむいて、ただただ下を向いていた。車内は暗く表情は分からないが、一緒に座っている椅子が震えている気がする。悪路を走っているからか、彼が震えているのか。はたまた、実は私が無意識の内に震えているのか、わからないが、静止していないことは確かだった。
しばらく雑木林を走った後、案内人の男がこちらを振り向いた。
「ではお二人さん。質問をしましょうか」
ついに始まった。三つの質問とやらが、来るらしい。果たして私に答えることができるのか。私は足に力を入れ、身構える。まるでテストが始まった瞬間のような、不思議な感覚だった。死にに来たのに、緊張するとはなんか笑える。私達はその質問を聞き逃すまいと息を呑む。
「質問その一。あなたは今、生きていますか?」
私が口を開く前に、隣に座った男が小さな声でつぶやいた。なぜか聞き覚えのある声に耳を傾け、人生最期の夜になるであろう時間が今始まった。




