11.不幸なラッキーガール(中)
気がついたときには、ベットのようなものの上だった。
手足は手錠で固定されている。
口も良くわからない何かがかぶされており、息をすることができない。
「おはよう、ゆきしろぉ」
愉快そうな男の声がする。
だれ?
そう思って、何が起きたか思い出す。
最近思い出してばっかだなと、ふと思ったのは言うまい。
響也君を追っかけて、学校の教室に来て、灰堂先生にあって、
送っていくって言われて、部室棟にきて、それから、・・・・・・。
思いだした!
私は声にならない罵声を、灰堂先生にぶつける。
「きこえんなぁー、千代」
にたにた笑いながらこちらを見る。
「なになに、灰堂先生愛してるって、わかってるよ、千代」
この、クソ野郎、言うにこと書いて・・・・・・
怒りのパラメータが一瞬でフルスロットルを突破した私は、思いつく限りの罵詈雑言を口にしようとするが、
口に出すことはかなわない。
「そう興奮するな、これから、優しくしてやる。その前にだ・・・・・・」
口元に手をやり、口元を覆っていた器具を取り外す。
すかさず、私は首をまげ、灰堂の手に噛み付着こうとするが、
前歯が、指にかすっただけだった。
「痛いじゃないか、千代。」
「黙れ、この殺人鬼が。」
「おお、怖い怖い」
ふざけるようにおどける灰堂。
私は、どうにかして逃げ出せないかと手足を思いっきり引っ張るが、
手錠はしっかりとベッドと手足を固定していた。
「まさかアンタが、Jキラーだったとはね」
「いかにも、俺がJキラーだ。正確にはJキラーの一人だ」
こんな近くに居たなんて。
「俺が聞きたいのはな、千代、なぜ荏原が死んだかだ」
「荏原なんて知らないわよ。知ってても言わないわ。死んでもよ」
私は射殺すように、睨みつけるが、
私の強がりが面白いのか。あざけるように嗤う。
「知ってるだろ、お前と架城の高架下で鬼ごっこしてた奴だよ」
あのときのJキラー、ってことは。
後ろから感じていた視線は。
「察しが着いたみたいだな、そうだよ。あの日お前の後ろをつけていたのは俺だよ。まさか、お前が引っかかるとは思わなかった。
お前は気が強く、言葉遣いや態度は悪いが黙っていれば、スタイルも悪くないし美人だからなぁ、まあ、理想を言えばもう少し胸が欲しいところだがね。お前を犯せると思って興奮したよ。まあ、荏原に捕まるってことは、お前の死体を犯すことになっただろうがね」
相変わらずにたにた、嗤っている。
嫌悪しか感じない。
「口を開くな」
「だが、奴は死んだ」
笑みが一瞬で消え、目玉がぎろりとこちらを見て、
私の首を掴む。
とたんに、一気に呼吸ができなくなる。
「困るんだよ、大事なパートナーがいなくなって」
「黙りなさい」
「俺が犯して、あいつが殺す。完璧なパートナーだった。やはりあれだな、持つべきものは趣味がかぶらない友だよ。お前らだってそうだろ。いつもつるんでる千夏と姫野。
お前たちみたいに、趣味や方向性が別々な奴ほどいい友達なれる」
二人を引き合いに出されて、沸騰していた頭が急に冷静になった。
「安心しろ、次はあいつらをたっぷり楽しんでからあの世に送ってやる。」
今までに無いくらい高らかに嗤う。
「二人に手を出してみなさい、ぶっ殺してやる」
私は、少ない空気を使って、必死に声を出す。
「おお、怖い怖い」
そういって、首を絞めていた手をゆっくりと放した。
そのまま後ろに歩き出し、しゃがむ。
見ると、この前私達が灰堂に言われて運ばされた、クーラーボックスがある。
それをゆっくりとあける。
一瞬で生臭い、腐ったような、異臭が鼻を突く。
「お前ももうすぐ、こんなにおとなしくなるから安心しろ」
クーラーボックスの中を見て私は、目を疑った。
少なくない本数の手足が飛び出している。
「なんで、・・・・・・」
「なぁに、簡単なことさ。ニュースになってるのは、死体が見つかった奴だけだ。知ってるか19歳以下の家出少女は全国で八千人はいるんだぜ。そのなかで捜索願が出されているのは6割ほど。つまり、約五千人は家も無く今日もこの寒空をさまよっているんだ。可愛そうだろ」
狂ってる。
コイツも、荏原ってやつも頭おかしい。
どうして、そんなにもこんな簡単に人を踏みにじれるの。
人生これからだという人を、こんなにも簡単に・・・・・・。
「いやー最高だぜ。特に死ぬ瞬間のこいつらを犯している時は、まさに天に昇る気分だ」
焦点の合わない目で、私を見つめる。
「あんたら、頭おかしいわ。狂ってる」
「そうかもしれん。まあいい、おしゃべりもここまでだ。吐け、荏原はなぜ死んだ。
吐いたら、死ぬ瞬間までは優しく扱ってやるよぉ」
「いったはずよ。アンタに教えるなんて無いわ、死んでもい、・・・・・・」
言い切る前に、灰堂の平手が頬に飛び込む。
「言えって言ってるだろ、ゆきしろぉ」
そういって、登山用だろう大きなサバイバルナイフを取り出す。
「人が優しくしていれば、調子に乗りやがって。」
ナイフを振り下ろすと、制服を勢いよく縦に切り裂く。
制服と下着が切断され、上半身が顕になる。
「やっぱりいい体してるじゃないか、うん。やはり問題は胸だな。俺が育ててやるよ。」
そのまま私の体に、無骨な指を這わせる。
「触るな、この変態」
最後の力をこめて、手足や首をばたつかせるが、事態は変わらない。
相変わらず、気持ち悪い指が体を這っている。
「まあいいか、一発やってから、また聞くとしよう。」
手で顎を押さえ、キスを迫る。
これから起こるであろう、最悪の結末を思い浮かべ、私が口から出た言葉は、自分でもびっくりするほど意外なものだった。
「助けて、響也君」
目をつぶり、覚悟した瞬間、あの時聞こえた声が、不意に教室の闇の中から飛び出した。
「あらあら、お姫様からの直接オーダーとは。光栄ね。」
首を倒して、声のほうを見ると、闇を纏った女性が、最初からいたかのようなしぐさで
こちらを見ていた。




