12.不幸なラッキーガール(下)
突然の声に私も、灰堂も声に向かって目線を投げる。
ピンク色の髪の毛を黒のヘアバンドで止め、釣り上がった細い碧眼でこっちを見ている。すらっとした白い手足に、長い指先、膝下まである白いロングブーツを履き、黒のスカートスーツにストッキングをはいている。グラマラスな胸を覆い隠すように胸元に灰色のスカーフをつけている。まるで絵画から出ていた人形のような女性がこちらを見ている。
「アンタ誰だ。」
「あらあら、女性に名前を聞くときは男性からっていうマナーも知らないのぉ」
間延びした、この場に似つかわしくない声を室内に響かせる。
まるで、演技をしているように大げさで、子供のように間延びした不思議な声だ。
「答えろ」
「まあ、しょうがないわね。こんないたいけな少女たちを犯して殺して楽しんでるような、変態にそんなマナー言ってもしょうがないわね。馬の耳に念仏、猫に小判、豚に真鍮ってことね。あら、豚には真珠だったかしら。日本語って難しいわね」
まあいいわと。腕を組みながら、ゆっくりとこちらに近づいてくる。
その雰囲気に気おされ、灰堂は一歩足を下げる。
「動くな、それ以上くれば、コイツを殺すぞ」
のど元にナイフを突きつける。
それを見た彼女はにやけながら歩みを止める。
「今度は人質を取るなんて、つくづく、あなたはセンスが無いわね。しかも相手は私よ。あなたのほうがどう考えても有利な気がするけど。見てよこの細い腕」
そういって、腕をまくる。白く華奢な腕を見せる。
「黙れ、本当に殺すぞ」
「・・・・・・」
「お前が荏原を殺したのか」
不敵な笑みをこぼしたかと思うと、何がおかしいのか高らかに笑い声が教室に響く。
「ぶっぶー、ざぁんねん、はずれー。私なわけ無いじゃない。あなた、頭だけじゃなくて、目も勘も悪いのね、趣味も悪いし、もうどうしようもない男ね」
「黙れ黙れ黙れ」
激昂した灰堂が、怒りに任せて私の顔のすぐ横にナイフを突き立てる。
それを見て情けない声と冷や汗がどっとでる。
「せっかちな男ね。まあいいわ。これ以上話すこともないし、一応ね」
そういって、スカートの端をつまみ、足を交差させ貴族のように礼をする。
「始めまして、私の名前はルリル、ルリル・L・ルルリよ。コードネームは「ランプ」。
仕事の前には名乗ることにしてるの。だって、かわいそうでしょ。せめて誰に殺されたのか位は教えてあげないと。」
氷のように冷えた笑みで笑いかける。それを向けられたわけでもない私も背筋が凍りつく。
一気に教室の温度が下がる。
状況は明らかに、灰堂が有利なのに、余裕綽々の態度を崩さない、彼女に対して焦りが見える。
「何言ってるんだ」
灰堂の質問にも、もう言うべき事は無いといわんばかりに話を進める。
「でもね、彼は違うみたい。まったく仕事まじめというか、唐変木というか朴念仁というか、そう、遊びが無いのよ。そうだ、後で、女性の気を引く会話術でも教えてあげようかしら。」
「静かにしろ、この女が!!!」
再び歩き出す彼女。
三日月のように妖しく光る赤い唇を小さく開け、ささやくように語り掛ける。
「だから、代わりに私が教えてア・ゲ・ル、あなたを地獄に送る彼の名前をねぇ」
背筋を、伸ばし灰堂の顔をしっかりと指差しながら、力強く言葉を放つ。
「切り裂け、"ボゥイズエイジ"」
外からの光が一瞬さえぎられたかと思うと、黒い影が窓を割り室内に入ってくる。
そのままそれは、灰堂を突き飛ばす。
壁際まで吹き飛ばされた、灰堂はぐったりとしている。
目の前には、あの日現れた狐の仮面の男/霧咲響也があの日と同じように、何も言わず突如闇から出てきたかのように
静かに、幽遠に立っていた。
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窓を割って、部屋に突入して、目に入ったのは制服を破かれ、
ベッドに固定されている、千代紗夜だった。
俺と目が会うと、恐怖からか驚きからか顔を赤らめ、蛸のようになっている。
それとも、寒さから体を温めようとしているのか。
「こっちを見るんじゃないわよ、このスケベ」
自分が健在だとアピールするためか、固定された手足を力強く動かし、大きな声でわめいている。
安心しろ、お前の命に別状が無いのは、ルリルからの通信でわかっている。
ルリルに目配せをし、笑みを浮かべたのを確認し、軽くうなずく。
「貴様が、荏原をやったのか」
声のほうに視線を戻すと、立ち上がった灰堂が右手にピッケルを持って立っていた。
相変わらず、愚かな奴らだ。
質問をすれば返事があると思っているのか。
「貴様に教えることは無い」
あの日と似た問答を繰り返す。
「なぜ、荏原を殺した」
「あはははは、おっかしいーわ」
なぜか傍観していた、ルリルが手を腹部にあて大笑いをする。
「何が可笑しい!!!」
「だって、可笑しいでしょ。今までいたいけな何の罪も無い少女達を殺してきたあなたが、なぜ仲間を殺すのか聞くなんて。傑作よ。ゴールデンラズベリー賞ものよ。あなたギャグのセンスだけはあるわ」
手を子供のように叩くルリルに、固まる灰堂。
「・・・・・・」
「まあいいわ、あなたはラッキーよ。ここに私がいなかったら、彼は答えないでしょうからね。冥途の土産に教えてあげるわ」
灰堂が覚悟するように、ごくりと唾を飲み込む。
俺としては、とっとと片付けたいのだが、ルリルの邪魔をするもの悪いか・・・・・・。
人差し指で灰堂をさし、悪戯のネタ晴らしをする子供のように答える。
「あなたたちの顔が、私のタイプじゃないからよ」
いままで、へらへらとしていた、ルリルはその笑みを消し、
哀れむように、睨みつける。
「この、クソアマー」
叫ぶと同時に、灰堂に駆け寄る。
それを見て、俺にピッケルを思い切り振り下ろすが、空をきり、床に当たる。
それに驚いた奴の首筋の裏にナイフを突き立てる。
「冗談よ」
首をナイフで貫かれ、もはや聞いている余裕のない奴に、ルリルは独り言のように
つぶやく。
「・・・・・・」
「あなたみたいな碌でもない奴には、冥途の土産ももったいないわ。」
鮮血が床と背後の壁に勢い良く、飛び散る。
それを見た、千代紗夜が闇を切り裂くような甲高い声を轟かせる。
まずい。
「ちょ、馬鹿」
すぐに彼女の口を押さえ、彼女ののどを掻き切るためにナイフを構える。
彼女の海色の瞳には大粒の涙とナイフを構えた俺の姿が映っている。
俺はナイフを首につきたてようと振り下ろした。
ざくり。
確実に俺のナイフは皮膚を貫いた。
恐怖で気を失った、千代 紗夜の顔がなぜだか俺の目に焼きついた。




