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恋のトラウマは始まりを告げる  作者: 栢瀬 柚花


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16/18

映画と花火

朝から休みだったあたしは、午後の映画鑑賞と日曜のお弁当作りのため買い物に出かけた。

 下ごしらえを済ますと一息ついて昼食を取り、約束の時間になるのを待つ。


 15時より少し早い時間に憲彦はやってきた。映画のお供に炭酸飲料とポッキーを持参している。


「なんの映画?」

「流行ったゲームを映画化したやつ」

「最近多いよな、そういうの」

「カーテンもするね。この時間、太陽の光が反射しちゃうから」


 コップに炭酸飲料を入れてポッキー、ポテチ、ポップコーンを大皿に並べると俄然雰囲気が出た。

「こういうの、大学以来かも。けっこうワクワクするよな」

 楽しげに憲彦は話した。


 そこから2時間、映画に没頭した。テレビ画面を観るには2人で横並びになるしかないので、自然と距離が縮まった。

 お菓子に手を伸ばすと、たまに手が触れ合う。それに便乗して短時間だけど肩を寄せ、体をくっつけてみた。何回か繰り返すと緊張はなくなり、次は自然に出来るかもと思う。


「面白かったね。続編もあるっぽかったし、見たいなぁ」

 あたしが笑って言うと、

「次回作は観に行こうか。来年くらいかな?」

「流石に早すぎるんじゃない?再来年でしょ?」

 あたしは憲彦の肩に軽く触れてみる。

 スキンシップに対する憲彦の反応はなく、

「そうかな?人気なら早く公開されるんじゃない?」

とポッキーを食べていた。

「ねぇ、こっちの映画は?同じ監督だよ」

 2人であらすじを見て、別の映画をまた鑑賞した。


  

 それを見終わる頃にはすっかりお腹が空いて、そのまま晩ごはんを食べる流れになる。 

チャーハンと餃子、中華スープを一緒に作る事になった。

「憲彦の家に卵ある?」

「2個なら」

「持ってきて。うちには1個しかなかった。あと、残ってる野菜も。スープに入れよ」

「オッケー」


 チャチャっと作ってしまうと、いつものようにテーブルで向かいあって食べた。

「これ、どこの餃子?」

「分かんない」

「貰い物なの?」

「そう。部長からのお土産」

「なら有名なお店かな。タレが美味しいよね。中身もキャベツがシャキシャキ」

「うん」 

 憲彦の口数は少なくて、いつもより会話が続かない。普段ならあたしの2倍は言葉が返ってくるのに。

 

 調理中から少しおかしいなとは思ったけど、できるだけ気にしないようにして片付けをした。

 しかし、そこでも憲彦は静かだった。


  

「憲彦、どうかした?なんだか静かだけど」

 明日はデートなのに、流石にこのままの雰囲気で1日を終わるのは嫌だった。

「映画、面白くなかった?」

「いや……そういうわけじゃない」

「なら、どうしたの?ご飯美味しくなかった?」

「いつもどおり美味しかったよ。そうじゃなくて……」

 手で頭をかいたり口元に添えたりとソワソワ動かしている。明らかに挙動不審だった。

「どうしたの?凄く落ち着きないけど」

 憲彦は言いにくそうにあたしの方をチラチラ見ると、

「――あの、さ……。依織のボディタッチが凄くて……。ずっとドキドキしてた――」

 耳まで赤くしている。

 そんな憲彦は珍しく、高校時代でも見ない顔だった。

 その反応にあたしも思わず赤くなる。

 同時に由美の言葉が頭に浮かんだ。


 ――男の人はけっこう敏感に感じ取ってくれるからさ。


 敏感どころか、凄く照れてる……。 

 

「……そっか。その、ごめん……」

 小さくなったあたしに、憲彦は慌てた。

「いや、依織が謝ることじゃないから!」

 赤らめた顔にさらに困惑も加わった。ここまで感情を表に出す憲彦は本当に珍しい。

「嬉しかったんだよ、凄く。嬉しすぎて……その………あんまり続けられると歯止めがきかなくなりそうで………」

「あっ………そうか……。そうだよね……」

 なら控えよう、そう思ったら

「でも、もうして欲しくないわけじゃないから!」

 口に出してもいないのに、すぐに言われた。

「むしろして欲しいし……」

「えっ…どっち?」

「やりすぎなければ……全然ウェルカムなんだけど」

「やりすぎって……どこからがやりすぎなの?」

「―――分からない」


 2人して台所で固まった。

 なんとも解決策が見えない話だ。

 それにこんなやり取りは中学生のようで、社会人になったいい大人がする会話でもない気がした。

 まぁ、あたしも憲彦も付き合った経験が一人しかいないので、仕方ないんだけど……。


 そもそも、あたしに勝手に触らないという制限を解けば終わる話である気がした。

 しかしそれを言うのも照れる……。

 全く遠慮なしに触られても困るし……。

 でも言わないと、今後もこの状態が続くことになる。


「あの……」

 おずおずと口を開いた。意味なく手をこまねき、視線が彷徨ってしまう。

「あたしに勝手に触れないっていう約束……あれがなければ……その………いいのかな?」

 憲彦は固まった。静止画のようだった。

「いや、だからって好き勝手にされても困るんだけど……。多少の遠慮はして欲しいというか……」

「いいの?」

 期待した目をしている。

 それが眩しすぎて思わず「やっぱりダメ」と言いそうになったが、ここでも由美の言葉が浮かんだ。


――どんどん気持ちを伝えた方がいいよ。憲彦さんも喜ぶよ、きっと。


 ……分かったよ、由美。

 

 あたしはカラカラになった喉をなんとか動かした。

  

「…………す、好き勝手は困るけど……多少は……いいよ。あたしも……憲彦には触れたいし……」


 そう言うと、あたしをガバっと抱きしめた。その力強さに思わず「うっ……」と声が漏れる。


「依織……!嬉しい……」

 ギューッと抱きしめられ、薄いシャツ越しに憲彦の熱い体温を感じた。

「嫌がる事はしないから……。ちゃんとキスもそれ以上も……依織に聞く……」

「うん……」

「ああ、ヤバい……。凄く嬉しい……嬉しすぎておかしくなりそう………」

「そ、そこまで?」

 今でその感情なら、体を重ねた時はどうなるんだ?と僅かな不安がよぎった。

 そんな事も知らず憲彦は「幸せ過ぎて死にそう……」と耳元で呟いた。

「死なないでね……」

 

 あたしはそっと憲彦の背中に手を回す。

 公園以来の抱擁。でもあの時よりもずっと力が強い。

 体も熱い。


「あの、憲彦……。そろそろ苦しい……」

「――ごめん。でもまだ離してあげられない」

 

 さらに肩を引き寄せられた。もうこれ以上はくっつく事ができないのに、憲彦はさらなる密着を求めているようだった。


 あたしはどうしようかと困っていると、外から大きな音がした。

 思わず2人で窓を見る。


 花火だった。


 そうか。

 今日は花火大会なんだ……。

 

 自然と足が動きベランダに移動すると、ビルの間から綺麗な火花が見える。

 大きく広がる夜空の華は美しく咲いては散った。

 刹那のきらめきは、あたしと憲彦の真夏の鮮烈なファーストキスの思い出を否応なく連想させる。

 

 憲彦はそっとあたしの肩を引き寄せた。

 胸板に寄りかかるように、あたしは体を預ける。

 そのまま何発か花火を見ると、

「依織……」

 名前を呼ばれた。

 

 顔を上げると自然と目線が交錯する。

 あの時と違い、憲彦はずっと背が伸びた。

 あたしが見上げると、首が痛くなるくらいの差がある。

 だから、少し膝を曲げてくれた。

 

「――キスしていい?」

 

 あの時と同じように、憲彦はあたしに尋ねる。

 

「……うん」

 

 そっと顎に手が添えられ、くいっと優しく上を向かせられる。

 決して強引ではない手つきは当時と同じ。


 お互いの顔が近づくと、触れるほどの優しさで唇が重なった。

 

 都会だからネオンが眩しくて、故郷ほど綺麗には映らない花火。

 でもあたしたちにはそれで十分だった。やっぱり、花火はあんまり見てなかったから。


「昔と同じだ……」

 唇が離れると、2人から同じ言葉がこぼれた。

 それがおかしくて、あたし達は笑った。

 そしてもう一度口づけを交わす。

 

 凄く心満たされるキスだった。

 

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