14話 うさぎさんと難攻不落なバグだらけダンジョン その2
【油断して調子に乗ってしまうのは仕方のない事だと思う】
思っていたより案外明るかった。
山という名前が付けられているのにも関わらず、とても暖かみの感じられる場所。四方には大中小の岩が散りばめられており行く手を阻むような進みづらい地形だった。
「こけそうに……わちょ⁉ あぶねあぶね」
「気をつけてくださいね。足下が凸凹していて進みづらいですから」
「わ、分かっているけど、そう意識するのも難しいだけど!」
でもこれこそまさに異世界のダンジョンって感じ。色んなマンガやアニメでみた物そっくりだ。
……と関心している場合ではない。あの馬鹿総理に頼まれたことしないとね。
途中立ち止まりながら辺りをじっと見ながら。
「愛理さんじーと何見ているんですか」
「いや、色んな珍しい物たくさんあるなぁって」
「んもう、愛理さんったら。狂政さんに頼まれたこと忘れたんですか。ダンジョンの原因となる場所を突きとめて、問題事を解決してくれといわれたのを」
「もちろん忘れてないよ」
本音を言うと半分忘れかけていた自分がいる。言い出せないけど。
その何が問題でどんな問題事が起こっているかがまじでイミフだが、そんなに苦戦することなのかと思う。いやそうであってもらわないと困る。
見た感じに難しそうな部分は確認できないが、他の人が途中で諦めた理由が正直なところわからない。他のダンジョンとなんら変わらない構造。クソみたいなトラップもなければ落とし穴のひとつもない。本当にここが難しいダンジョン(笑)なのか?
「罠のひとつもねーじゃん」
なぜ途中で断念したか、その理由が知りたい。
でもこれはゲームの説明書を読んで覚えるより、実際やってみて覚えるあれと同じ感覚でやれば大丈夫。多分。
それで私達が頼まれたことというのは。
この高い山が特徴的なダンジョン――通称バグ・マウンテン。はその名の通りこのダンジョンにバグがありすぎてこのような名前が付けられたんだとか。
いやなんでこの世界に“バグ”って言葉があるんだよって話、それはひとまず置いといて。
どうやらその問題となる箇所がこのダンジョン内どこかしらのフロアにあるらしく、それを私達が突き止め、この問題事を解決してくれって話だった。
……いや急にそんな身も蓋もない話を振られても困るんだが。闇雲に探すようなものだよこれ。
だからそれなりの高い報酬額を差し出してきたんだろうけど……先に聞いとくべきだったなこりゃ。
啖呵切っておいてあれだけど、今更尻尾を巻いて逃げるのもあれだしやるからにはちゃんとやろう。
「さ、先に進もうか。足下に注意してふっと」
3つの通路が各方向からむきだしに見えている。中心と左右の方向。階層は全部で10階あるみたいだから道のりは長くなりそうだ。まずは安定の真ん中の道を行き、そこが駄目だったら別の道を行こうかと。
RPGでよくあるこういう分かれ道だと大抵真ん中が正解だったりすることも。でも途中で宝箱に化けたモンスターや壺を割ったら強力なモンスターが飛び出してきたとかそういう事例もあるけど。
なのでここは定番中の定番の真ん中が得策だ!
「あのさっきから視線を感じるのですが……」
「シホさん、気にしたら負けという言葉が私の故郷にはあって」
「は、はぁ。私は今にでも巨大なモンスターが私の頭をぱっくり食べてきそうで怖いんですが」
あれ、見た目によらず結構チキンだったりするの?
道中モンスターの群衆が押し寄せてきても私は。
「たくさん出てきましたよ! 1、2の……100体以上はいそうです!」
「…………ッ!」
モンスターの群れは私達を待つように各々の武器を構えこちらの様子を伺っていた。
ちっこいつ舐めプなんかしやがって。
「ここは私が……」
私が目を離している隙にシホさんが前に出て、剣を構えようする。
「わ、ちょっ⁉」と声を漏らすと急いで彼女の前に行く手を塞ぐように抗拒した。
「な、なにやってんのさ人がせっかくどう突破しようかと考えようとしていたのに」
「……でもこの数ですよ? ここは私に任せてくださいと言ったはずなのですが」
「あの大技やると……? だめだめ倒れるのもあれだしぜぇぇぇぇったいに今はだめだからね」
「ではどうしろと? 愛理さんにはそのとっておきでもあるのですか?」
とっておきというにはほど遠いものではあるが。
モンスターの方を向いて拳を力強く構えて。
「こうする……ラビット・パンチ!」
助走をつけ駆け出し同時にラビット・パンチを使った。
力を込めたあまりに、モンスター達はドミノのごとくことごとくと私の放った技によって倒されていき、一瞬にして後ろには死体の山ができていた。
「あの数を一瞬で……軽やかな動きでしたねさすがです」
驚くような表情で納得の笑みを浮かべる彼女。関心の念を抱くその姿はどこか怖ず怖ずとした感じも見て取れた。
「ま、まあざっとこんなもんだよ。こんな雑魚処理お手の物だから」
「え、えぇ……では次に進みましょうか二手の大きな道がありますねどっちに行きます?」
「えぇと……」
平坦な道もあれば途中傾斜のかかった道もあった。
「大丈夫だよ……ってこの坂道とても進みづらいんだけど」
「ならいいんですが、行く手はありますか」
当然ながらノープランですはい。
「いや、全くないよ」
「無知なんですか愛理さん? 策ぐらいねっておくのが立派な冒険者へなるための近道だと思いますが」
「んなぁ、ゲームのヘルプによくありそうな心得みたいなこと言われてもなぁ。チュートリアル構文はいいからさっさといこうぜ」
「あ、ちょ待ってください! せめてもう少し話を!」
それにこういうのは探すからやりがいがある。最初っから分かっていればそれはそれで楽かもしれないけど多分達成感がみじんに感じられないだろう。それだとつまらない。
時にその苦労を知らないチーターは自ら反則行為を使って無理矢理クリアする人も中にはいるけど、私はそうはしない。いざという時自分の能力を使い危機を回避する。それがチート能力の本来の使い道だろう。 ※個人的な偏見です
なのでこうして苦労して探すのがダンジョン探索の醍醐味。
でも早く攻略したい気持ちはある。だって報酬には沢山のお金が。
脳内で金に埋もれる私の姿が映った。……いかんいかん。
「あれ、愛理さんなんか鳴りましたよ」
プルrrrrrrrrrr。
ん、言われてみればなんか鳴っている。……早速もらった電話機能の着信か。
確か、出るときは私の場合念じるだけでいいんだっけ。スマホのシホさんは手に取って耳に当てがう必要があるみたいだけど。
☾ ☾ ☾
【強者冒険者なら裏の裏を読め】
そうして私達は電話に出ると。
「しもしも~? オレオレ詐欺なら乗らんぞ私は」
『私だ。だーれがオレオレ詐欺だ、合法的なことはしないぞ私は! ……ごほん諸君、無事ついたかね? 私だレイコちゃん愛好家の……』
「はいはい分かってるよ。馬鹿総理」
『ちょまっいい加減その馬鹿総理という言い方やめてくれないかね! 私のアンチなら面に向かって言え!』
図に乗っているからそう呼ばれるんだよまったく。
まだなんか彼は調子にのってそうな口ぶりだったので軽く激を飛ばしてやった。別に虐めたくて言っているわけではない。一時的な場を和ませるための私なりの配慮というか。
「うっせーよ! どう呼ぼうが私の勝手だろうが。……まあ今度から狂政って呼んでやってもいいが」
「そうならそうと。そんな気に食わん客が店にクレームをいれるような文言は……まあいい」
もう少し粘れよ。それでも元総理かよ。
改めてみてこのままいくと険悪な関係になりそうなのでこれくらいにして。
私もそこまで口悪な女じゃないから優しい面も一応はね?
……そこどんな風の吹き回しとか思わないの。TPOってあるでしょ私はこう見えて空気読める……たぶん。
「それで? かけてきたってことはなんか用があるからなんでしょ?」
『勿の論』
ふむふむ、それで一体何用か。案内するとかそんな感じだろうか。
実はインチキ臭いチート機能がこのダンジョン内にあるんだよとか言い出すんじゃ。まあ仮に見つけたとしても絶対に私は使わない。私はチートという部類の物はいざという最終手段として使う品物としている。
よく面白みがなくなるというアンチが沸くけどさ、ある程度加減すればギリギリな許容範囲だと思う。え、でも使っていることに変わりはねえだろうって? そこは自重してそれ以上は何も言えないから。
『これからは私はオペレーターとして君達をサポートしてやろうと思ってな。なあに君のいる位置はこちらからだと地図と一緒に表示されているからどこにいるか把握できているわ』
向こうは地図が表示されているのかよ。ずりぃそれ私達にくれよ。まさかこの通話機能に発信器的な物を付けたとは。謀ったな狂政。
うまい話には何か裏があるという話をよく聞くが、それはあながち間違いではなかったらしい。釣りウラル(URL)で人を釣ったりする処方するものもあるけどさ、私は彼の安い罠にまんまと引っかかったみたいじゃないかこれってさ。
過ぎたことは仕方ない、潔くこのことは水に流し話を進めることにしよう。
「では、どこに何があるか分かるんですか?」
『ああそうだ。因みに君達が今進んでいる方向も分かるぞ…………待てよそこは』
「ふぁ?」
狂政の言葉に疑問を抱いた。なんだいけなかったのかこの道は。
なんだ? もしかして想像を絶するような即死トラップがあるとか。初見殺し的な要素あるなら説明書かなんか予め用意しろ。
「あ、愛理さんあぶない!」
「うわっ!」
私の目の前の石の道が横に引き裂かれるように動き割れる。
途端に得意の反射神経で下がって、なんとかセーフ。
「あぶなかった。……なんじゃこれ」
その引き裂かれた部分をみると、奥ではポトポトと煮える毒の沼があった。
いやガチで即死トラップかよ‼ シホさんの言葉なかったら死んでたわ!
というか私ここでロストしたらどうなるの、棺桶入り? リスポーン……はたまたリスタートか想像がつかんな。まあそれは追々確認するとして。
『侵入者用の即死毒トラップだ。本来は上層部に設備された装置なのだがなぜこんなところに。……ああとな』
なにやら突き出る音が聞こえてきたがなんだ。……と左右をみるとトンデモトラップが。
「ぎゃあああああああああああああああああああ‼ なんだこりゃああああああああ!」
「は、針⁉ このままでは串刺しに」
挟み撃ちするように現れたのは尖った針が何本も連なった針の塊。……見るからに1度刺されてしまえば血まみれになりそうなものだった。
こんなのどうしろと。ガメオベラとかしゃれにもならねえ。
『回避されたようの保険に、“ミンチトゲトゲミックス”という二重トラップが作動するよう仕組んであるんだよこれは』
左右の壁から無数の針が出てきて私達の方へと徐々に距離を詰めていく。
面倒くさいトラップだな。シホさんの手を引っ張り、来た道を帰ろうとするが。
……そこにも無数のトゲが。二段構えとは策士だな。
「それ先に言えよ!」
「実はその通路はトゲが作動すると、来た道が塞がり新たな針山が出現するという鬼畜仕様の罠だよ。……突破するには」
いやそれ早く言えよ。あぁちゃんと人の話を最後まで聞かなかった私が悪かったですねははは。……って浮かれている場合じゃない。なんとかならないだろうか。
どの方向にもトゲ……トゲとこれではこのトラップによってミンチにされてしまう。
「いいから教えて!」
彼がどうして常時通話してきたか。その理由がよくわかった気がする。
「いいぞぉ」
突破法あるのかよ。というかこんな状況だというのになんでこの人上機嫌なんだろう。
いかにも秘策はあるような口ぶりだけど。勿体振らないでネタバレありでいいから全て教えろ。どうせこんな超難関ダンジョン誰も入りはしないから。
『近くに赤い岩がないか? それを軽くでいいから叩いてくれたまえ』
「あっとえっと……どこだ?」
ぐるぐると辺りを見回すが視点が一点に集中できないため、見る間もない。
必死もがいてその赤い岩を探していると、シホさんがある方向に指を向けた。
「あれじゃないですか」
「ん? これか?」
すぐ横にぽつんと1つ、赤い岩があった。真っ赤でいかにも目立つその色付いたその岩を
ポンと拳を1つ、足下まで近づいて叩く。
するとトゲはみるみるうちに消えていき、元通りの岩壁へとなる。
『緊急用の停止オブジェクトだ』
「なんでそんなものあるの」
『私のロマンであり、遊び心でもある』
「なんじゃそれ」
専用オブジェクトあるとか、本当にゲームの世界に紛れ込んだみたいだな。
仮想空間などではこういうのはよくありそうだが、なんだよ緊急停止用のオブジェクトって。明らかにテストプレイで使うように配置したやつでしょこれ。はよ撤去しやがれ。
「とにかく助かりましたね……あ! なんか開けた場所が見えますよ」
先に開けた場所が見えた。おぉこれは。よし行ってみようか。
信号を安全を確認するように、四方危険がないかチェック。……怪しいところは1つもない。
なら大丈夫だな。
「じゃあ行こうか。うぉぉぉおぉぉ」
迂闊にも私はそこに足を踏み入れてしまった。
とっさに狂政が注意を促してくるが。
『愛理君そっちは』
ドン。
はい手遅れでした。
『ダミーの壁だよ』
そのまま私は壁にぶつかり倒れる。……だから早く言いましょう狂政さん。
なんでもてんこ盛りすぎないか。妨害盛りに振ったら鬼畜ダンジョンになってしまったとかそんな洒落にならんって。
奥行きの空間と全くそっくりな壁。でもよく見ると途中切れ目が確認できた。あぁね。
どうやらガラス張りの壁らしい紛らわしくて、一瞬どこにダミー要素あるかなと疑ったぞ小癪なまねすんな。
「はよ言えよそれ」
なんだ狙っているのかこれ。
それとも私が彼に手のひらの上で単に踊らされているだけなのだろうか。
こいつまさかSか!? 私はどちらでもないが事前に警告してくれないかな。なんでわざわざ危険な足場渡らないとダメなのさ億劫。
『だって愛理君すぐ前に進もうとするじゃん。私の言葉なぞ聞きもせずに』
図星つかれたなこれは。……そう言われると返す言葉も出てこない。そういうの言い訳っていうんじゃね。
私無鉄砲に進むような阿呆じゃないんだけど、慎重に攻略していくスタイルのゲーマーですぞ?
それを私のせいと言うバカ総理がいるといったものだ。なんかマウント取られているような気分。
「あの愛理さん大丈夫ですか? 凄いショック受けたような顔してますけど」
「シホさん大丈夫、問題ないよ」
あ死亡フラグ言っているんじゃあないよこれ! 絶対の絶対。このあと死にましたとかそんな急展開な場面には発展しないよ。
「気を取り直して……そこにある横の岩にどれでもいい……真ん中を9回パンチ、その次にその最初に叩いた岩の周囲にある4つの岩を軽く叩いてくれ」
「なにその隠しコマンドみたいな……うっとそっとこっと」
言われたとおりその一見複雑そうなたたき方を、近くあった適当な岩をその回数分叩いた。
すると道が開き次のフロアへと続くであろう階段が現れた。
……面倒くせえなこれ。
「因みにこれ、なんか意味あるの?」
『私の誕生日だ』
……9月4日ってか。凄くしょうもねえ。
「先行こうかシホさん。……それと狂政こういう罠あといくつあるの?」
とりあえず数ぐらいは聞いておかないとね。……ラスダンなら10個いや20個か。
しかし彼の口からはとんでもない答えが返ってきた。その数に私は言葉を失う。
『900個以上は作ったかな。試作用に何個もばらまいたからな正確な数は覚えてないが』
「……………………は? 今なんと?」
空耳か? 結構私動画で空耳系の動画は何度も見ていたが……聞き間違えかなワンモア。
すると態度を変えず狂政は悠長に答えてくれた。今度は何故か英語で。
『ん? 聞こえなかったかナインハンドレッド』
「「いやそれぐれぇわかるよ! “なんだその量は!”と聞いてるんだよこっちは!」」
なにこのクソダンジョン。
家でもしパソコンしていたら台パンしていたレベルだぞ?
ソシャゲの低確率ガチャ仕様が可愛く見えてくる数じゃないか。せめて多くても50~100ぐらいがいい量だと思うがこいつの言う普通がよく分からない。
どうやらこのダンジョンは少々人類には早すぎた物らしいな。早く出たい。
「あ、愛理さん!? 四つん這いになってどうしたんですか?」
私、仲宮愛理はこれ以上無い絶望をしみじみと味わうのだった。
少女よ、これが絶望だ。
読んでくださりありがとうございました。
さて初めてダンジョンに入った愛理達でしたが、ギミックが結構難関な仕様でした。
実はまだこれ序の口です。
ダンジョン内に色んな鬼畜ギミックが搭載されていますが二人は無事に問題を解決することは果たしてできるのか。
狂政の夢盛りだくさん詰まったダンジョンですが、次回二人に迫る次から次へと繰り出される脅威のトラップとは。そして二人の運命はいかに。
多少オブジェクトだとか現代にありそうなものが出てきますが、この総理やることがなんでもありなんです場所問わずです。
さて明日は一体どんな話になるのやら。ではでは




