83話 うさぎさん達、武器の街へ訪れる その1
【若造はメカニックなものに憧れる、機械構造の街私は好きだぜ】
ここはヴレイブタウン。
スチームパンクな町並みが特徴的で。
鉄製で作られた家屋が建ち並ぶ大きな街。
上空からは建物の煙突から排出される煙が噴き上がり、林立とした高い建物からは機構的な音を擦り合いながら回る歯車が数知れず。
シュッシュと機械的な音を立てながら、慌ただしく噴射する白煙を見上げながら呆然と立つ私は。
「これ本格的なスチームパンクだな。小さいときこういう系の街が出てくるゲームやったことあるけどまんまじゃねえか」
「……すちーむぱんく? とは……聞き慣れぬ言葉ですが」
「そうだね、大雑把に言えば機械的な感じのことを指すことかな」
機械それと武器が盛んな町。昔ゲームや漫画で見たとおりの光景イメージ通りに合致しすぎて今でも笑いがこみ上げてきそうなのだが。
職人が築きあげた古風溢れる良い街なのは確かだろう。
ざっくりこの街の歴史を語ると。
遙か昔、元来機械が盛んな町だったが、あることを境に武器を大量に持つ旅人がこの町を訪れ居心地がとてもよかったせいかそのまま移り住んだそう。
その人との繋がりを大切にする意を込め、先人達はこの町をヴレイブタウンと名付けたそうだ。
……。
っていう伝記があるみたい。
行き交う人の通りには鉄板でツギハギされた、どこかスラムっぽい家々が立ち並ぶ。
少し古くさい感じだけど、それなりに人の人口数は全体的に見て多め。
入り口の入場の手続きを済ませて、中へと入る。
推奨ランクはBランク1人以上。
基準となるランクはとうに超しているので難なく通行できた。
「なんだあの時計塔スーちゃんなんか知ってる?」
「……あれはこの街のシンボルです。現に観光スポットで有名なくらい知名度が高いです築1000年以上……正確な建設日は不明なのですが旧来から街を見守ってる時計ですね」
「私も聞いた話なんですが、あの時計塔があるからこの街の人は被害に遭わない。……伝承もあるようですよ?」
「ほぇ~2人ともよく知っているね。ミヤリーはお前100くらい前からいたんだろ?」
「悪いけど初めてよ。あのときはそれどころじゃなくて羽を伸ばす暇もなかったからね」
聞いたこっちが間違っていたわ。
「あそ」
憮然と彼女に向けて言うと、考え込んだミヤリーは瞠目した様子を見せ。
「なにその『へ、こいつの話は当てにならなかったなやっくたったずぅ』みたいな顔は! そうよ包み隠さず初見だったわよ悪かったわね」
「はいはい分かったから……というかお前の中の私ってどんなキャラだよ?」
なんつーの? ミヤリーの中の私ってどんなヤツなんだよ。シブヤによくいそうな悪ノリギャルみたいなキャラじゃないよ愛理さんは。
とりあえずあの時計塔が街のシンボル的立ち場ってことはわかったよ。何階あるんだろ目算だけど相当高そう。バンジージャンプでどれくらいの恐怖が味わえるだろうか。
それにしても歯車の建物めっちゃくちゃ気になる。
どんな理由で動いているかは分からないけど、この町にとっては必要不可欠な存在だということは理解できる。
というか武器の町なだけあって非常に武器屋、防具屋が非常に多い。朝一のバザール並にお祭り騒ぎな塩梅。
種類豊富な品揃えがびっしりで、中にはめぼしくなりそうなものもあった。
「このダイヤモンドの剣強そう買おっかな」
目に付いた武器屋においてあった、純白に神々しく反射するダイヤモンドの剣を手に取る。サンドボックス系のやつでよく作ったなこれ、まあ何個かマグマに落ちてロストしちゃったけど……いや別物だからねこれは。
無論、リーベルにこのような武器は置いていない。
他にも私達の住む町にはなさそうな武器もちやほら。
アレも欲しいこれも欲しい。
欲望が溢れそうになるくらいにラインナップが豊富すぎる。
「着いて早々なに買おうとしてんのよ? ……ってそれ大金貨100枚よ買わないでよね」
「……まじだ高杉、危うく買うところだった」
「……物価相当高いみたいですよ。金貨最低1枚ないと手で追い返されるくらいとか……」
いやこの街の人どれだけ金持ちだよ。時給いくらですか? 月収は? 錯乱するくらいになんか今耳を疑うようなこと聞こえてきたよ。気のせい気のせいだと思いたいですはい。
手に取っていた剣を元にあった場所へと戻す。
「にしても武器屋非常に多いですね、品質がとても良いようなものばかりで私からみたら武器の宝庫ですよ」
武器の倉庫か。
その表現結構面白いかも。
どういう技術力が、この町にあるか分からないけどちょいとこの町を探索したい気分だ。
そのように思いふけっていると、ラビットパーカーから着信が鳴る。
誰だろう。
まさか新手のオレオレ詐欺ってやつか!?
異世界に来てまでそんな要素いらねえからな。
まあ未だに番号を教えてもらったのは、狂政くらいだしたぶん大丈夫だ、問題ない。
死亡フラグじゃねえぞ?
一体なにようかと、通話を起動させる。
「もしもし狂政?」
『おぉ愛理君か、用があって少し電話したんだが今いいか?』
何用だろう。
同人誌を買ってこいとか無茶ぶり言ってくるんじゃないだろうな。
『今中大陸のブレイブタウンにいるだろう?』
何故分かる。
感知器かなんかあるのかお前の頭には。
蓋しこの通話自体に孔明が仕掛けられていたり……考えすぎか。
『私のとある友人がその町にいるんだが、そいつの研究所に行ってくれんか?』
研究所? そんな場所あるんだ。
でも武器が盛んな町なだけはあるし、それを開発……作る施設やらもあるに決まっているか。
「それで、その研究所いってどうしろと? しょうもねえ事言うんじゃないだろうな?」
『なに言っているんだ君は、私がエロd……ごほんごほん』
さらっとR18指定のむふふ本のこと言おうとしたよなコイツ。
変なお使い頼むなよ?
『今ある研究をしているみたいなんだが、ちょうど今人手がない状態でな。……そこで君達の力を貸してもらいたい、というわけだ(キリっ)』
「えぇ~嫌なんだけど、今旅行中だし他のことしたい気分」
『因みにそいつにはもう話を通してあるからな』
「ちょっおま! エゴだよそれは」
絶対こいつ心の中で『計画通り』みたいな顔浮かべているんじゃあないの? 着信スルーするべきだったか。
「因みに着信スルーしたらどうする気だった?」
警戒し過ぎかもしれないが興味本位で聞いてみる。
『そうだな、無理矢理でも部下を送り込んで君達をいいように誘導しようとしてた。……おっと変な妄想はよせよ? 悪意はないから心配するな』
「ほんとぉ? まあお前の関わるやつなんだから人柄の悪いとは到底おもえないんだよね。おkおk一応行くよ。そこまでいうのなら」
結局素直に話を受け入れることにした。決して自分で負けを認めたわけではない。仕方なしに引き受けたまで。こらそこ雑魚愛理とか言うな。
『まあまあ騙されたと思ってやってくれ、少々厨二な女ではあるが、根はいいやつだからきっと仲良くなれるはずだぞ』
え、ここで厨二キャラ出しちゃう? 出しちゃうのこれ!? 子供の時やったことあるけど……あんなハズいこと。
それで誰得だよって話だが。馴染めかこの私が。
うーんどしよ。
「狂政謀ったな?」
『してないぞ、これっぽっちも』
「うそつけ」
狂政の考えていることはさておき、その厨二さんに会いにいくことになったわけだが。
「みんな、急だけどさ狂政が寄って欲しいところあるって。……そこに行ってくれないかと頼まれたんだけどみんなどう?」
「………………私達はかまいませんよ? ね、スーさんミヤリーさん」
(こくこく)
その場に合わせて3人は了承してくれた。興味津々な目で瞳孔を輝かせながら。なんだよその気になりぃ~みたいな顔はさぁ!
「はぁ分かったよ、それでその研究所はどこにあるの?」
と狂政に聞こうとしたその時だった。
「あ、愛理さんなにかこっちに向かってきますよ!」
「…………わりぃ狂政後で連絡するわ」
ぴっと通信を切る。
観光案内ように電話をくれたみたいだが、場所はあとで聞こう。
☾ ☾ ☾
【ネーミングセンスは実質知恵の塊じゃね、才能の有無は置いといて】
それよりもなんだあれ。
向こうからとんでもない土煙を上げて向かってくるものが来ているんだが!
「「ぬおおおおおおおお! 待てぇ我が最強の試作機"もういい"!!」」
なんだその検証動画か何かで使いそうなネームは。
と1体の2足歩行のロボットが私の前方に止まり静止。
「…………」
じーと。
こっち見んな。
凄くメカニカルなロボットだが、なんのロボットだコイツ。
「ウサギの人間データにナイ。データ収集データ収集」
と体から物騒な武器を取り出して、私の方へと攻撃してくる。
ロボット系によく出てきそうな、折りたたみ式の主砲を伸縮させエネルギーを溜め……おいやめろ殺す気かこいつ。
「はわわわわ! 愛理さん死んだらだめですよ!!」
「ちょっ! やめれ死ぬ死ぬ! って私はこんなところで死にたくはない」
すると発車直前まで幾重にもやめるよう訴えていると、急に攻撃を中断させる。
「え」と一同声を揃え忽然とした状況に言葉を失う。
そして後ろから向かってくる人物の姿が見えてきた。大学の研究部によくいそうな白衣の格好をした断髪の片目隠した女性が。
「ようやく着いた、はぁはぁ。……勝手に脱走するとはなにごとだ! このデッドサイエンティスト暗黒天魔真眼から逃げられると思うなよ! ぜぇぜぇ」
白衣を着た、長髪黒髪の女性が姿を現しそのロボットを軽く一殴り。
「おのれ! 整備中は動くなと言っただろうがこのポンコツロボット! 私はそんなロボットに作った覚えはないぞ! …………と君達は?」
「私は愛理、それと」
仲間もざらっと紹介し。
みんなを続けて教えようとしたら、急に狂ったような甲高い笑い声をあげ。
「ふふふ。フーッハッハッハ!! よくぞ来てくれた数多の神に導かれし者達よ」
なんだこの厨二は。
「私の名は」
両腕を交差させ、足を少々開き気味にポーズを取り出す。そしてこちらをぎりっと鋭い目線で見つめ甲高い声で自己紹介。
「世界の機関から狙われるデッドサイエンティスト……暗黒天魔真眼だ!!」
てん? ……なんだって。
日本語でおk。
「本当ハ"サーセン"博士という名前デスヨ」
「おいこら! いいところなんだから空気を読め!」
ロボットのツッコミに口止めするよう訴える。
サーセン。
なんだその謝ってきそうな名前はさ。
というかこういうキャラどこかで見たことあるような。
……。
そうそうスタイルス・ゲートの主人公みたいだな。中二病の口調といい威張った口調といい。
「ごほん。失敬少々私の作ったロボットが暴走してな、ここまで追ってきたのだ。1日何回かは数秒だけ暴走するのだが」
んなことなるぐらいだったら最初っから作んなよ!!
危うく魂がいっちまうところだったぞ!
「ところで……愛理君と言ったか。……はてもしや……」
サーセン博士はなにやら思い当たるような素振りを見せ。
私のことを何か感づいた彼女は、ロボットを後ろに引きながらこちらの方を向く。
「私は、この向こうにある路地裏にある『クサハエ研究所』にいる興味があるなら君達を私はぜひとも歓迎しようではないか! 待っているぞ フーハッハッハッハ!! ……あぁ私だ。うさぎと思われる機関の手先に見つかった…………なに? 早く帰って対抗するための物を作れと? 分かった今向かう。エルプサイコングウ……」
と言い残しながらその場を後にしていった。
ブツブツと携帯らしき物を耳に当てながら。
あの人大丈夫かな、時を繰り返しているとかそんなことは。
ないよね知らんが。
「……あの人は一体、研究所がそこにあるらしいですが行ってみますか?」
「行ってみようかな」
一応気になるし。
「へるふさこんがりぃ……なに美味しいのそれ?」
「ミヤリー、全然違うからね、エルプサイコングウだって」
「む、難しいわ」
「とにかく行ってみましょうか。もしかしたら面白い物が見れるかも知れませんよ」
異世界に厨二病ねぇ。大統領の次は変な異物が混入しているんじゃあないのか。カレーの中に土のペーストが隠し味で入っているような気分。スーちゃんの地図を頼りにその博士の研究所を私達は目指すのだった。