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目本、そして白井 遥

目本(めほん)。

そこは、魔力で溢れている世界。

数年前、人々は突如として魔法に目覚め、火や水などの『属性系魔法』。そして、ちょっとした物を引き寄せる魔法、自分の手を大きくする魔法、壊れた機械を一瞬にして直す魔法など、ちょっと不思議な、使い道がよくわからない『謎魔法』があった。

しかし、魔法に目覚めなかった者もいる。

属性系魔法でもなく、謎魔法でもない。それらに分類される人のことを、世は『能無し(ノンスキル)』と呼び、差別化されていった。

さらに、目覚めた魔法を強盗などの私的に乱用するギャング集団が現れた。その名を、『黒い瞬間(ブラック・モーメント)』。

ありとあらゆる物を力づくで奪い取り、子供たちを誘拐する。誘拐の目的は、主に自集団の戦力増強のためとされている。魔法に目覚めることのできた子供には、厳しい訓練を強制され、やがて集団の一員となる。事例として、数年前に誘拐された子供が、『黒い瞬間(ブラック・モーメント)』の一員として銀行強盗をしていたと言う情報もある。

政府は、そんな集団に対抗すべく、新たな特殊特攻隊を結成した。名前は、黒の対をなす『白い瞬間(ホワイト・モーメント)』。

各地から、戦闘に特化した有力な魔法が使える者たちを集めた精鋭部隊。『白い瞬間(ホワイト・モーメント)』の結成により、目本の犯罪率は大幅に減少したが、未だ、『黒い瞬間(ブラック・モーメント)』との戦いは続いている。

そんな『白い瞬間(ホワイト・モーメント)』は、子供たちにとってのヒーローであり、憧れ。多くの子供たちが、部隊への加入を夢見る。

『黒い瞬間(ブラック・モーメント)』と『白い瞬間(ホワイト・モーメント)』は、今日もどこかで、火花を散らしている。


















7年。

私、サクラはこの世界に生まれてから7年という月日が流れた。

あれから様々な書物を読み漁って、この世界のことについていくつか調べてみた。

今、私がいるこの世界は『目本』という国らしい。目本の人々が魔法に目覚めたのは、私がここに生まれた年のわずか15年前。比較対象として例を挙げると、私が元いた世界は、何百年も前から魔法の概念があった。大きな種類としては、火や水などの『属性系魔法』。これは、私が元いた世界にもあった、基本的な魔法だ。

そして、もう一つ。属性系魔法にカテゴライズされない『謎魔法』という魔法がある。

この『謎魔法』は、私のいた世界には存在しておらず、私にとって目に新しいものである。

そんな魔法に目覚める時期は、15年前の現象を除き、一般的に7歳から7歳の終わりまでと言われている。その時期に魔法に目覚めることのできなかった者は、『能無し(ノンスキル)』と呼ばれ、これ以降魔法に目覚めることは絶対にないことを示している。さらに調べてみたところ、まだ魔法の概念が出て間もないせいか、前の世界で基本とされていた技がほとんど使われていない。つまり、この世界の魔法は、あまり洗練されていないということ。

しかし、私はありとあらゆる、魔法に関する書物を読み漁ってきたが、どの書物にも、私が使っていた『闇の魔法』や、ハルトの『光の魔法』に関する情報は一切載っていなかった。恐らく、まだ誰も目覚めていないのだろう。それもそのはず。

闇と光。

この2つの魔法に目覚めるには、ある"条件"が必要なのだから。

もちろん、まだまだ謎のことも多くある。

私の髪の色、顔のパーツすべてが、元いた世界の「サクラ」瓜二つだと言うこと。さらに、何故か私は闇の魔法をまだ使える。

小さい時、ダメ元で手のひらに力を念じると、見慣れた黒い炎が出てきた。それから、深夜に人気のない森に出て、前に使っていた様々な技を試してみたところ、特に何のデメリットもなく技が出せることに気づいた。

あとは、なぜこの世界に生まれ変わってきたのか、ということ。前者も謎だが、こればかりは本当に謎だらけである。でも、そこで私は思うことがあった。


この世界は、私が死んだ世界の人々の墓場なのか?と、


もし、

もしそうだとしたら。死んでいった家族に会えるかもしれない。

私のこの目本で生きる目的は、何故この世界に生まれ変わったのか、原因を見つけること。そして何より、家族に会うこと。

会える。会えると信じて、私は今日も生きていく。

闇の魔法使い、サクラとしてではなく。


白井 遥(しらい はるか)として。
















白井家 にて

私に実の親はいない。私が産まれてすぐ、交通事故で亡くなっているらしい。どうやら私は親戚の養子になっているようだ。

私は目の前にある魚の煮物を口に運び、咀嚼してしっかり味わう。


「遥ちゃん。美味しいかい?」

優しい声で私に言った、白髪の丸眼鏡のこの人が、私の親代わり。『白井 文子(しらい ふみこ)』。今年で63歳になる。文子さん1人で、私たち"2人"を育て上げてきてくれた。


「ぅん。おいひい」

口の中にまだ魚が入っていたが、咀嚼をやめて返事をした。

そう。"2人"。

チャカチャカ…と。お椀を箸でつつくような音を立てて早食いしているのが…


「お姉ちゃん!お姉ちゃんも早く食べて!じゃないとお星様が逃げちゃうよ!」

私の2つ下の妹『白井 優希(しらい ゆうき)』。

蒼白の、肩まで伸びた髪、そして翡翠色の目をしている。優希もまた、病気で母を亡くし、文子さんの養子になっている。

そして可愛い。


「こらっ。そんな乱暴に食べるんじゃありません。食べ物に失礼よ。優希」

素早く動いていた箸を止めて、優希は言う。


「えーっ!でも優希、あとでお姉ちゃんと公園でお星様見るって約束したもん!ねっ!お姉ちゃん!」

「…うん。そうだな」

可愛い。


「遥ちゃん…また優希のわがまま聞いて…2人とも、夜は危険よ!もし夜中に公園に行こうものなら悪人に連れて行かれてしまうわよ!それでもいいの!?」

優希は口を尖らせて、不満そうな顔で言う。


「ぶーっ……けち………わかったぁ……」

可愛いっ!!!

と、思わず声に出して言いそうになった。なんて尊い…やはり妹というのは最高だ。

と、リビングのテレビからタイミングを見計らったかのようなニュースが流れてきた。

『次のニュースです。今朝、朝日小学校の生徒7名が、何者かによって誘拐されたとの情報が入って参りました。また、この事件は黒い瞬間(ブラック・モーメント)によるものと思われ………』

………悪人。文子さんの言葉で思い出した。

前の世界ほどではないものの、今、目本では争いごとが起きている。

『黒い瞬間(ブラック・モーメント)』を中心とした金品強奪や誘拐事件など、人々に害を及ぼす行いをする、極悪集団。

そんな『黒い瞬間(ブラック・モーメント)』に対抗するため、『白い瞬間(ホワイト・モーメント)』と言う集団が、そう言った事件に対応しているらしい。






深夜11時。

他の2人が寝たことを確認して、私は動きやすい服に着替え、2階の窓から外へ飛び降りる。

夜風が吹いている外は薄暗く、街灯の光を頼りに進んでいく。

私は、稀にこの時間帯に、近場の小さな森に出かけている。そこで私は闇の魔法を試したり、体術の練習をしたりしている。ここは争いごとのある世界だ。家族たちを探すにあたって、何かしらとぶつかり合う可能性だってある。鍛えておいて損はない。

いつも通り、森へ向かう。

ザッ…ザッ…と。背後から足音が聞こえる。最初はただ行く道が一緒だと思っていたが、ずっと追尾してくる。

(この感じ…2人いる…私を狙ってきているな…)

逃げようかどうか迷ったが、夕食の時に見たニュースを思い出した。

(そうか…誘拐か。そういえば、ここ7年間一度も誰かとやりあったこともないし…リハビリがてら、ちょっと捕まってみるかな)

睡眠薬などに意識を奪われないよう、闇魔法の一つ、危険なガスなどを無効化できる結界を顔の周りに張った。

が、しかし。

ゴッッ!!!と。

頭を思い切り鉄パイプか何かで殴られた。

私は、そこで意識を手放した。











南地方の廃倉庫 にて


「う…ここは…」


俺、光(ひかる)は、蜘蛛の巣だらけの、薄暗い部屋の一角で目覚めた。確か、朝の登校中、誰かに襲われて…

はっ!と思い、辺りを見渡してみる。俺の周りには、朝の登校班の班員6人が眠っている。俺は小さな声でみんなに呼びかけた。


「みんなっ、起きろっ。様子が変だぞっ」

すると、6人とも眠そうに起きて、状況を確認する。


「…えっ!光兄ちゃん…ここ…どこなの…?」

班員の1人が不安そうに尋ねた。


「いや、わからない…確か、朝の登校中に誰かに襲われて…俺たち…多分……………

誘拐されたんだっ…!!」

『ええっ!?』という重なった声が部屋に響いた。

すると1人が泣き出して、俺に言った。


「ぐずっ…光お兄ちゃん…どうするの…?怖いよぉ…」

「大丈夫。大丈夫だ。みんな安心しろ、光兄ちゃんがついてるからなっ。」

とは言ったものの、どうすればいいか分からない。窓や出口は固く閉ざされている。例え外へ出れたとしても、誰か見張りがいるかもしれない。一体どうすれば…

と、その時、ガラガラ…と重たい音を立てて、目の前の横開きの扉が開いた。まさか、誰か助けに来てくれて…

と思ったのもつかの間。目の前に立ちはだかったのは、ガタイの良い、坊主頭の男。腕には、竜の刺青が入っていて、こちらを見て、ニヤァ、と笑った。明らかに、敵だ。すると男は言う。


「あぁ?お目覚めかい?少年少女たち…」

班員たちが怯えている。ここは俺が守らないと…!

震えた声で、俺は男に尋ねた。


「おいっ…お前っ…何のために俺たちを誘拐してっ…!」

すると男は淡々と述べる。

「おぉ?おいおい、俺達を知らねぇのか?黒い瞬間(ブラック・モーメント)だよ!黒い瞬間(ブラック・モーメント)!簡単なことさ。俺たちの軍に、全員入ってもらうために決まってんだろぉ…?

お前らは俺達の軍で一生暮らすんだ。もちろん、任務をこなすためのキツーイ訓練が待っているがな!ガハハ!」

男は高笑いし、班員たちに刺青が入った手を伸ばす。


「さーて、そろそろ時間だ。可愛い子ちゃん達。お前達の新しい家に案内してやんよ…」

「待てっ!!」

俺は男の伸ばす手を止めて、話す。


「頼む…この6人だけは…………俺はどうなってもいいから…逃がしてくれないか…?」

「ガッハッハ!!そうはいかねえぜ、少年。俺達も人が足りてないんだよ…お前1人持ち帰ったとて、冷えた手にぬるま湯を一滴垂らすようなもんさ!」

ギリ…と。歯ぎしりを立てた。『能無し(ノンスキル)』の自分が役立たずかのように言うその男に、腹を立てた。


「ん?何だぁ?その顔はよぉ!先輩に向かって舐めた真似してんじゃねえぞ!!!!」

ゴッッ!!と。男の力いっぱいの右ストレートを顔面に喰らい、地面に倒れた。


「痛ぇか?痛ぇなぁ!!先輩に舐めた態度とってっからそうなんだよ!」

ボロボロになりながらも、班員達に矛先を向けさせないために、俺は続けた。


「俺は………お前の…お前らの手下になったつもりは……ないっ……!」

「ガキが…もう一度ぶたれてえかぁ!!ああ!?」

「光兄ちゃんっ!!!」と。1人の班員が俺に駆け寄った。そして男に向かって、


「これ以上光兄ちゃんに手を出すな!じゃないと………俺達が許さねぇっ!!」

そう言うと、他の6人も俺に集まって男に歯向かう。


「駄目だ、離れろっ…!早く…!俺のことはいいからっ…!」

「チッ……どいつもこいつも…お前らどうせ白い瞬間(ホワイト・モーメント)の真似っ子だろッ!!面白れぇ。ごっこ遊びに付き合ってやってもいいぜ…その代わり…手加減はしねぇけどなッ!!!」







薄暗い、狭い場所で私は目覚めた。

ブロロ…というエンジンらしき音が聞こえる。恐らく、ここは車のトランクの中だろう。


(うぐ…頭が痛い…触るとさらに痛い…あの阿呆…)

これはたんこぶができるパターンのやつだ。

まさかあんな方法で気絶させにかかるとは思ってもなかった。前に読んだ小説では、睡眠薬をハンカチに染み込ませて、口元に覆い被せるとかいうやつだったのに、思ってたのと違う。


(この車は…どこに向かってるんだ…?)

あまり遠くの場所に行かれると帰りの道が厳しくなるから勘弁してほしい。やはり逃げる方がよかったかもしれない。

そう思っていると、座席の方から何やら話し声がする。


「まさかもう1人手に入るなんてな…それにしても、夜に1人で出歩くなんて…あのガキの親はどうやって教育してんだか…」

「別にいいだろ。それで俺達の株も上がるってことだ。もしかしたら上の連中から何か報酬を贈ってもらえるかもな」

「おいおい、たった1人だけでかぁ?そりゃ無茶だぜ、無茶」

黙って運転しろ事故るぞ。

と言いたかったが、さすがに今声を出すのは何かとまずい。すると、男たちから気になる話題が出てきた。


「おい。それより聞いたか?上の奴ら、今日の銀行強盗に失敗して捕まっちまったって話」

「いや、知らないが…なんて馬鹿な奴らだ。魔法という便利なものがありながら捕まるなんてな。どんなヘマしたんだか…」

「いや…それがよ…目撃者が言うには、まだ上の連中が強盗中で銀行から出てないのに、単騎で乗り込んだ奴がいたんだとさ…そしたら、いきなり銀行内が炎で包まれたらしいんだよ…」

「なんだ…ただの白い瞬間(ホワイト・モーメント)の一員なんじゃないか?」

「違うんだ…そいつは上の連中から金を奪って、その場から逃げていったんだってさ。しかも白い瞬間(ホワイト・モーメント)に攻撃もしてたって…」

「そうか…奇妙なもんだ…外見の情報とかは出ていないのか?」

「ああ、一応出てるんだ。髪の色は…おっ、もうすぐ着くぜ」


……一番気になるところで話が終わってしまった。白、黒のどちらにも属さない、第三勢力。将来的には大きな戦いに発展するかもしれない。

ガコッ!と。私が閉じ込められているトランクが開けられた。

(さて…と)

久しぶりに暴れてやるかな。






南地方の廃倉庫 にて


「はあ…はあ…疲れさせやがって…これでわかったか。自分達がいかに間抜けだったことをな…!!」

全員がボロボロだ。俺もみんなに合わせてできる限り抵抗したが、もう動けない。

(ごめんよ…みんな…俺に……何か魔法が使えたら…何か変わってたのかもしれない……のに…)

人口の、たった5%の『能無し(ノンスキル)』。自分もその1人だと言うことに、怒りが湧いてくる。何の役にも立てない。そして守れなかった。6人の家族や友を、悲しませてしまう。


「よーし!これでごっこ遊びは終了だ…大人しくついてきてもらうぜ、クソガキども!!」

瞬間。

ドカーン!!!!と。外から大きな爆発音が聞こえた。


「なんだなんだ!?何が起きてやがる!?」

男が急いで倉庫の外へ飛び出ていった。扉の外には炎が燃え盛っており、黒い瞬間(ブラック・モーメント)の連中らしき者が何人も倒れている。誰かが…助けに来てくれたのだろうか。


「みんな…外に出るぞ…!」

班員達に指示をし、ゆっくりと倉庫の出口に近づく。


「光兄ちゃん…あれ…誰…?」

出口の先には、さっきの男と、紫髪の赤い瞳の幼女が目を合わせている。あの子は…白い瞬間(ホワイト・モーメント)の一員なのか?

声が聞こえる。


「おいガキィ!!一体何をしやがった!?」

紫髪の幼女は、幼い声で言う。


「ああ…すまない。魔法を撃った先に火薬入りのドラム缶らしきものがあってね。こんな派手にやるはずじゃなかったんだが…」

幼女は淡々と述べる。

すると男は眉をひそめ、声を荒げて言った。


「魔法だと…?このクソガキ…てめぇ、一体何もんだ!?」

「…私か?私は……………えっと…そうだな…」

「コイツ…今考えてんだろ…」

男は肩を落とした。しばらく経って、幼女は答えた。


「…………んん…思いつかない……これでいいか……

そうだ。私の名は『通りすがりのマジシャン』と言ったところだ」

「それ名前じゃなくて2つ名だろ!!時間かけた割にショボい名前言いやがって…てめぇも白い瞬間(ホワイト・モーメント)の真似したガキだろっ!」

すると、『通りすがりのマジシャン』は言った。


「いや?私は白い瞬間(ホワイト・モーメント)ではない…さっきも言っただろ?『通りすがり』…とな。それより、お前は逃げなくていいのか?私が起こした爆発で、きっと白い瞬間(ホワイト・モーメント)の連中はこちらに向かってくるぞ?」

この『通りすがりのマジシャン』は、白い瞬間(ホワイト・モーメント)ではない。だとすれば、コイツも敵かもしれない。こちらに気づかれないよう、物陰に隠れて、2人を監視する。


「はっ!!その心配はいらねぇぜ。『通りすがり』さん。何故なら俺は、自分が行きたい場所へ自由に瞬間移動できる『ワープ』があるんだからなぁ…いざとなったら俺だけ助かることもできるんだよ!」

すると『通りすがりのマジシャン』は、「おおっ!」とした、興味津々の表情を見せて言った。


「それが謎魔法というやつか…面白い。今ここでやって見せてくれ。ちょっと見てみたいんだ!」

ぐぬぬ…と。男はイラッとした表情を見せ、今にも暴れ出しそうになっている。しかし、『通りすがりのマジシャン』はむしろテンションが上がっている。


「ほらっ。まずはこの位置からあそこのコンテナまでワープしてみてくれ!さあ早く!連中が来る前に!さあさあ!ほら、何故やってくれないんだ?まさか細かい決まりでもあるのか?さあ早く見せてく」

「うるせェェェェェェェ!!!!!!!!!!!」

男は遂に堪忍袋の尾が切れた。


「畜生…どいつもこいつも俺の血圧を上げさせやがって…もう許さねぇ!!!俺は普段は殺しはやらないんだがな…特別サービスだ。今日がてめぇの命日だ!!『通りすがりのクソガキ』がァァァァァ!!!」

男がナイフを取り出し、突っ込んでいく。しかし、『通りすがりのマジシャン』は、まるで未来が見えているかのように、男の攻撃を避けて、避けて、全て避ける。さらに攻撃を避けながらも、続ける。


「おいおい、『通りすがりのクソガキ』とは心外だな…私は『通りすがりのマジシャン』だよ。もう忘れたのか?黒い瞬間(ブラック・モーメント)さんよ」

「黙れ!黙れ!!!!クソッ、何で当たらないんだ!?てめぇ……一体"何なんだよ"!?」

『通りすがりのマジシャン』は、後ろへ距離を取る。


「何なんだ、って…だから、さっきから言ってるだろ…?『通りすがりのマジシャン』って。酷い記憶力だな……一度医者に診てもらった方がいいんじゃないか?」

「黙れ!!!!!そういう意味じゃねぇッッ!!てめぇも避けまくってんじゃねェ!!戦え!クソガキィ!!」

やれやれ…と言いたげな表情を浮かべる。


「別に避けることも戦術の一つだが…仕方がない。そっちがそういうなら、私も攻撃してやろう」

すると『通りすがりのマジシャン』の手に、黒い炎が宿っている。その炎は、しだいに大きくなり、やがて、形となる。黒い炎は、幼女の身長の2倍ぐらいの長さの巨大ハンマーになった。


「はっ…ははっ…面白れぇ!すげぇ魔法だな………マジシャンさんよォ!!!」

ダッダッダッ…と。男がもう一度突撃していく。攻撃が当たりそうになった、その瞬間。

『通りすがりのマジシャン』は消えた。


「おい!?どこ行きやがった!!さっさと出てこい!今さら怖気づいたか!臆病モンが!」

すると、声が聞こえる。

「上だ!」と。男は上を見上げる。

『通りすがりのマジシャン』は空高くから、ハンマーを男の頭目掛けて殴りかかる。

ドゴォッッッ!!!という重い音と同時に、男の頭は地面にめり込んだ。

どうやら、勝負あったようだ。

すると、『通りすがりのマジシャン』は男の意識を確認した後に、こちらを見つめてきた。気づかれてしまった。


「光兄ちゃんっ!あの子、こっちに来るよ…」

「みんなっ!!俺の後ろに隠れろ!!早く!!」

どんどん近づいてくる。アイツも敵かもしれない。ならば、今度こそ6人とも守らなければ…

そして『通りすがりのマジシャン』は、目の前に立ちはだかった。


「……………」

沈黙が、続く。しかし、

ーーー!!ーーー!!と。パトカーのサイレンが聞こえてくる。『通りすがりのマジシャン』は、それに気づいたのか、やがて口火を切った。


「君たちは…今朝ニュースでやってた…朝日小学校の7人か。そろそろ助けが来る。今度からは、もう少し周りに気をつけろ」

そう言い残し、この場所を後にした。…敵では、なかった。結局、あの子は何者だったのだろうか。俺は胸をなでおろした。

この日、俺は己の無力さについて痛いほどわからせられた。それでも、一つ。ある思いが芽生えていた。


あの子みたいに…誰かを守れる存在になりたい、と。












翌日 白井家 にて


「痛い痛い!おばあちゃん痛いって!!」

昨日殴られた所がやっぱりたんこぶになって腫れてしまっていた。


「あはは!!お姉ちゃんたんこぶできてるよ!!」

優希に笑われ、文子さんは私のたんこぶを消毒液で濡らしながら言う。


「全く…遥ちゃんってばドジねぇ…よろけてタンスの角に頭をぶつけるなんて…今日は休みだし、病院行くよ、遥ちゃん。後藤医院」

まさか、治るのなら手段をなかなか選んでくれない後藤先生のところへ行くつもりなのか。それだけは嫌だ。

「いぃ、嫌だ!!このくらいの傷ならすぐ治る!治るから!!!あんな痛いことを強要してくる医者になんて行かない…私は絶対に行かないぞ!!」

「わがままいうんじゃありません!ほら支度して!」

と、絶望の淵に立たされている時に、テレビからニュース速報が流れてきた。

『速報です。今朝未明、南地方の廃倉庫にて、大きな爆発がありました。爆発の原因は未だ判明しておりませんが、黒い瞬間(ブラック・モーメント)と思われる集団が何者かによって襲われ、全員意識不明となっており、その場で逮捕されました。また、倉庫内に誘拐された朝日小学校の7名の生徒が無事発見されました。生徒によると、『通りすがりのマジシャン』が助けに来てくれたと言う、謎の発言をしており…』


「ねーねー、『とーりすがりのまじしゃん』って言うのが助けに来たんだって!かっこいいなぁ…」

と、優希がテレビに釘付けになっている。

(やめろ!!そんなダサい名前呼ぶな!!優希!!)

恐怖と同時に何とも言えない恥ずかしさが私に襲いかかる。もっといい名前を考えればよかった…


「ほら、遥ちゃん!!早く行くわよ!!」

そうして文子さんに引きずられて、家を後にした。

ぐっ……こんなことなら………


(普通に逃げればよかった………)

第2話です。

今回は目本の説明、そしてサクラの生まれ変わり『白井 遥』について書いてみました。表面上ではとってもクールな遥ちゃんですが、何かと天然だったりする子です。遥ちゃんのたんこぶ…治ってるといいですね…

次回は、所変わって、10年後の遥と、『闇の魔法』について迫っていきたいと思っております。

次の話も読んでいただけると、とっても嬉しいです!!


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