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王都捕物帖  作者: 虹の箸
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話は聞かせてもらった!この世は滅亡する!

捕物が終わった次の日、撃滅隊は日常業務である王都巡回に出ていた。問題は山積し、本来なら隊長であるリュカは屯所で昨日起きた事件について事後処理をし、王に報告しなくてはならないところ、隊長としての職務がある!と、退屈な書類仕事を部下にぶん投げて(かわいそうに、この間士官学校を卒業して、入隊したばかりの新人が涙目でデスクに向かっていた)帝都を焼き豚串を食べながらホットワインを片手に一人私服でぶらぶらとどこを目指すでなく歩いていた。ほんのり酔いもまわり、その辺りの酔客と変わらない。冴え渡った、全てを断ち切る日本刀のような美しい横顔を除いては。ふと、目をあげると懐かしい場所、エレオノーラ副長と出会った場所だった。懐かしさのあまり懐を探る。そして一枚の硬貨を取り出した。それはかつての王都の硬貨だが、今はもう流通していない代物だ。

「……随分と遠くまで来たものだね、エレオノーラ」

リュカの呟きに、実は黙ってついてきていた、(ストーキングしていた)エレオノーラは隊長に柔らかな眼差しを向けた。『やべ、バレてた』彼女の記憶の中にも、王都を震撼させる「王都撃滅隊の隊長」とは程遠い、一人の少年の姿が焼き付いている。

泥の中での出会い、二人の出会いは、十五年前の「飢餓の冬」だった。

当時の王都は、今日よりも遥かに腐敗していた。大貴族同士の内戦が、いつ終わるともなく続き、彼らは富を独占し、路地裏では子供たちがパンの一切れのために殺し合っていた。

当時、その大貴族の末端の末端の連枝だった没落貴族の息子としてどん底にいたリュカは、内戦で父も母とも引き裂かれ、見た目だけは豪華な廃屋で餓死寸前のところを、大貴族の生活の息苦しさに逃げ出した大貴族の娘――幼き日のエレオノーラに見つけられた。

彼女は、まず、街に勝手に出たことを叱られる…事を恐れた。だが、リュカの幼く、貧しさで泥だらけでありながらなお、整った顔に惹かれた。

エレオノーラは唯一、幼い頃の母の形見である硬貨をリュカに渡そうとした。

「こんなもんいらねーよ」ぶっきらぼうに突き返そうとするリュカにエレオノーラは悲しそうな顔をしたが、絶対に硬貨を受け取ろうとしないリュカの様子に、最後の手段で公爵家からついてきている(であるう)者にに向かって、「この子を助けてあげて」と呟いた。

何がどうなったか、リュカは公爵家の一室を与えられ、治療を受けることとなった。

「なぜ、私を助ける」

飢えと憎悪で濁っていたリュカの瞳を、彼女は真っ直ぐに見つめた。

「顔よ、ちょー好き、その顔」

「顔かよ」

「そう、顔、大人になったら結婚して」

その時、エレオノーラはこの問答がどんな影響を公爵家にもたらすか考えもしなかったし、国にどう影響するかとか関係ないし、割と自分以外の事はどうでも良かったが、結果としてリュカを救ったのは王都にとって慶事と言える事だった。「わかったお嫁さんにするようにしたいかもしれないな」と、リュカはそれを返した。エレオノーラにとっては契約のようなものと理解している。リュカがどう思っているかは別として。ただ、彼女の純粋な善意(ねばついた何か)が、リュカの凍りついた心に初めて「目的」という熱を灯したのはひとつほんとうのこと。

それから公爵家から、沙汰が下される。エレオノーラを悪意あるものから守れと。

それから…


リュカが伝説的な強さを持ち、同時に「恐れられる」理由。それは単に武芸に秀でていたからではない。

彼はかつて、王命を受けたわけではなく、私兵団を率いて王都の「聖域」と呼ばれた貴族街をたった一人で壊滅させた過去がある。

それは、エレオノーラの家を陥れ、断家させた腐敗官僚たちに対する、独断の粛清だった。

当時、十七歳だったリュカは、敵対勢力の家族とその私兵数百人を、たった一晩で無力化した。

剣で切り伏せたのではない。彼が用いたのは、相手が最も恐れる「家の没落」を心理的に植え付け、抵抗する戦意そのものを粉砕する技術だった。王家と繋がり、陰謀を巡らし失脚に追い込む。

ある者は自害し、ある者は国から出奔した。


ついには反抗した官僚の屋敷の広場には、誰一人として残された者はなく、ただリュカが優雅に茶を飲んでいる姿だけがあった。

「あいつは人間じゃない。笑いながら魂を狩る死神だ」

そう噂が広まった。

しかし、その粛清の直後、リュカは公爵家の代理人として王の御前に進み出て「王都の治安維持権」を求めたのだ。

王は、その血濡れた手の中に、リュカの内に秘められた「国への狂気」を見出した。

「あの時から、貴方は私を守るために、己のすべてを捨てて『汚名』を被った」

エレオノーラが静かに歩み寄り、リュカを柔らかく抱きしめる。

「世間が貴方を『悪』と呼ぶのは、貴方がそれだけ強く、彼らの安寧を脅かす毒を消し去っているからよ」

リュカは自嘲気味に笑った。

「悪か……。王が俺を重用するのは、俺が『王にとって都合の悪い人間を、合法的に排除できる唯一の道具』だからだよ。だが、エレオノーラ。俺は道具になるつもりはない」

「俺はただ、俺たちを泥に突き落としたこの王都を、俺たちの手で描き直したいだけだ。……例えそれが、王すらも裁きの対象にすることになったとしてもね」

エレオノーラは微笑み、腰の大剣の柄を握る。

「ええ。その時は私も一緒に地獄へ行きましょう。貴方の剣として」

二人の絆は、十五年前に交わした約束と、共にこれまで流した血によって結ばれていた。今や王都全体が彼らを敵視しているが、その牙は、国そのものを変えるほどの切っ先を研ぎ澄ましていた。

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