不気味な隣人
その日のオカルト研究会もいつもと同じく、だらけにだらけきったぐうたら達が思い思いの場所で思い思いのことをしている。
さすがに人生ゲームやオセロといったボードゲームをする者はめっきり減ったものの、UNOやトランプ程度なら毎日のように行われていた。
三回目の大富豪になった和葉が席を立つと、奏恵が白い目で睨みつけた。
「あれ、勝ち抜けってできないはずだけど?」
「ジュースくらい飲ませてよ」
奏恵のクレームを気にも留めず、和葉は近くに置いてあるカバンから缶コーヒーを取り出した。そして器用に左手でタブを引き上げると、美味しそうに喉を鳴らす。
「あれ、和葉ってコーヒー飲めるんだ」
隣のテーブルで漫画を読んでいた理香子が興味津々といった様子で尋ねてくる。
「最近なんですけどね。飲んだら意外と口に合って」
「嘘。良いなあ。私はまだ苦手」
「意外でした。理香子先輩、よく飲んでるから」
「そうやって慣らそうとしてるだけ。美味しいとは思ってないよ」
自然に会話する流れを作りながら和葉は理香子がいる方へとにじり寄っていく。それを奏恵が目ざとく指摘する。
「ちょっと、和葉」
「そうよ、和葉。みんなが待ってるわよ?」
いたずらっぽく笑いながら理香子までがそう言うので仕方なく和葉は席に戻る。
「あんたが負けるまで絶対に逃がさないから」
「いや、私だってね?狙ってる訳じゃないから。でも、大貧民の誰かさんがいつも良いカードを二枚くれるから仕方ないんだ」
そう言われて奏恵は何も言い返せなかった。まるでイカサマでもされているのではないかと思うくらい、自分は一度も貧民より上の結果になれていないが、カードを切るのも自分で手札を配るのも自分なのでそういったことは一切ないことは百も承知だった。
勝者の余裕を持って手札を受け取る和葉をじろりと見やりながら、自分の手札を見ていると部室の扉がゆっくりと開く。
「あれ、涼音じゃん。今日は遅いね」
「てか、今日休んでなかった?」
涼音と同じ学科の友人達が口々に声を掛けていくが、涼音は何も言わないままに近くの椅子に座り込んだ。その様子に和葉は配られたばかりの手札を投げ捨て、彼女の元へと向かう。
同じく涼音を心配する友人達と共に和葉は涼音を案じる。
「どうしたの?何かあった?」
その問い掛けにしばらく答えなかったものの、やがて涼音は口を開く。
「昨日、隣の部屋で事件があってさ。どうして良いか分かんなくて」
涼音は大学の最寄り駅から二駅離れたところにある学生向けマンションに下宿していた。二駅といっても自転車をニ十分も漕げば辿り着くし、大学周りと比べて家賃も安いのでその辺りに下宿する学生は多かった。
和葉も何度かお邪魔したことがあったし、自身も下宿生の身なので、涼音のショックの大きさは痛いほどよくわかる。
「事件って、どんな?」
「人が死んでたの」
その言葉に一同は顔色を青くする。オカルト研究会に属しているのだからこういう話題に触れる機会は多いはずだが、それが自分達の周りで起きたとなるとどうしても気後れしてしまう。まして、人の死に触れることが滅多にないか、全くない彼女達には負担の大きい話題だった。
「それって……自殺、それとも殺されたの?」
涼音の友人の一人が恐る恐る聞くが、涼音は力なく首を横に振るばかりだった。
「私も事情聴取に来た警察の人に聞いたんだけど、教えてくれなかった」
そう言ったきり黙り込んでしまう涼音をただ和葉はそっと抱き寄せ、背中を優しくさする。
「涼音。しばらくの間、泊まりにおいでよ。色々と落ち着くまでさ」
「うん……」
その様子を見ながら理香子が近くにいた奏恵達にそっと話しかける。
「普通なら落ちるね」
「ですねー」
相槌を打ちながら奏恵は、これといった欠点のない和葉がどうして男子からモテないのか何となく想像が付いた。
少し落ち着いてきたのか、涼音が身を起こす。和葉はそっと離れたが、その手は優しく彼女の肩を包んでいた。
「でもね、すごく不気味なんだけどさ」
「うん」
急に話し始める涼音を見守りつつも和葉は相槌を打つ。
「あそこに住んでもう一年以上になるけど、隣に誰かが住んでたって初めて知ったのが怖くてさ」
「え?」
その言葉にまた全員が驚く。
「誰かがいる気配とか音とか全然しなかったの。私とは別の隣の人も知らなかったみたいだし、本当気味が悪くて……」
その言いようのない、ぞわぞわとした感覚に包まれながら和葉達は立ち尽くすほかなかった。




