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後輩達とのご飯会

 少し肌寒い日のことである。


 和葉が帰り支度をしていると、後輩の菫と実加がトコトコと近寄って来た。


「和葉先輩。もう帰るんですか?」

「うん。今日も平和に終わったし、たまには家でゆっくりとしようかなって」

「そうなんですね。私達、これからご飯に行くんですけど先輩もいかがですか?」


 思いがけない提案に和葉は心の中でガッツポーズを決める。昔からこういった先輩・後輩の青春の一ページに憧れを抱いているだけに、その喜びは凄まじいものがあった。

 だが、その思いとは裏腹に和葉は首をゆっくりと横に振る。


「ダーメ。今月ピンチなの」


 努めて明るく答えるものの、心の中では血の涙を流しながら地面にひれ伏している。

 新たな恋愛に一歩踏み出す為に、色々なことに「投資」していったことで和葉の財政状況は危機的状況にあった。

 しかも恋は叶わなかったのだから、悲しくてやりきれないのが正直なところである。


 実加が残念そうにうつむく。


「そうなんですね……。実は私達もなんです」

「ちょっと……。すみません、先輩。たかったみたいになって」


 菫が心底申し訳なさそうに頭を下げた。その姿に和葉は胸を撃ち抜かれ、尊さを覚えるものの、可愛い後輩達にたからせてあげられない自分の不甲斐なさにほとほと嫌気が差していた。


「全然気にしなくていいよ。それよりもせっかく声掛けてくれたのにごめんね」


 本心から和葉は謝る。すると、どこからともなく副会長の理香子が現れ、楽しげに和葉達に話し掛けてきた。


「それだったら私がご馳走するから四人で行きましょうか」

「え、良いんですか!」

「ちょっと、遠慮がなさ過ぎるよ!」


 真っ先に実加が理香子の提案に飛びついた。そんな彼女をたしなめてはいるが、菫も嬉しそうだった。

 和葉自身は変に遠慮することもなく、あつかましくもなく、しっかりと理香子の両目を見つめながら、ただストレートに心からの感謝を伝える。


「アネゴ、ゴチになります」

「和葉は水だけね」

「ごめんなさい。お腹いっぱい食べたいです。どうぞ宜しくお願い致します」


 食事のことになると必死になる和葉の姿に、菫と実加は苦笑いを浮かべるしかなかった。


 大学からしばらく歩くと、学生向けの店が立ち並ぶ通りに出る。近隣が住宅街ということも相まって、特に飲食店の種類は充実している。


「みんな、何か食べたいものある?」


 先頭を歩く理香子が振り返りつつ三人に聞いていく。最初に答えたのは意外にも菫だった。


「私、パスタが食べたいです」


 その視線の先にはチェーン展開しているパスタ専門店の看板がある。それを見た和葉はこの可愛い後輩がより一層愛おしくなった。

 そこはワンコインで大抵のものが食べられる学生の味方とも言うべきお店だった。気配り上手で遠慮しがちな菫のことだ、奢ってもらうことに罪悪感を覚えて少しでも安いお店を提案したのだろう。


 でも、今はそんな風に気を遣わなくても良い。甘えるのが後輩の務めなのだから。そう思う和葉は菫の為に別の店を提案しようとするが、それよりも早く実加が手を挙げた。


「私もパスタが食べたいです」


 実加まで気を遣ったことに和葉は驚きを隠せなかったが、すぐに気を取り直して先輩への甘え方を伝授しようと決心する。


「理香子先輩。ギョウザが食べたいです。天津飯セットで」

「じゃあ、決まりね。私達はパスタで和葉はギョウザということで。食べ終わったらここに集合ってことにしよっか」

「いえ、パスタが食べたいです。特にペペロンチーノが」

「ニンニクは外せないんだね……」


 なんやかんやとワイワイ騒ぎながらも和葉達はパスタ専門店の扉を開ける。


 店の中は人が多いものの、四人が座れる場所は充分にあった。程なくして店員がやってきて和葉達を出迎える。


「いらっしゃいませ!五名様ですね、こちらへどうぞー」


 そう言うや否や店員はスタスタと歩き始める。理香子が不思議そうに和葉を見やった。


「五人って……。四人だよね?」

「多分、言い間違えただけですよ。ほら、店員さんに続きましょう」


 和葉はさりげなく理香子を促した。


 和葉達は案内に従ってテーブルに着く。ソファー側には和葉と理香子が座り、椅子側には菫と実加が座った。


 しばらくしてさっきとは別の店員が現れ、水の入ったコップを置いていく。店員がこっちに来る時から和葉はジッと見つめていたが、誰もいないはずの自分の隣に五つ目のコップを置かれて、思わずツッコミを入れる。


「すみません。私達、四人なんですけど」

「えっ……」


 こちらの方はと言いかけて店員は目を見開く。しかし、すぐにそのコップを取り下げると頭を下げた。


「申し訳ございません。失礼致しました。メニューはそちらにございます。ご注文がお決まりになりましたらそちらのベルを押してください。失礼致します」


 一連の説明を終えてバックヤードに戻っていく店員だったが、どこか釈然としない様子だった。


「……」


 その場を何とも言えない沈黙が包み込む。特に実加はすっかり縮こまってしまって、決して和葉の右隣りを見ようとしなかった。


 その後、それぞれが思い思いの品を注文するが、どれも美味しく味わえずに何とも言えない表情を浮かべていた。その中で和葉は一人、ペペロンチーノとちゃっかり注文したマルゲリータピザをぺろりと平らげて満足げだった。


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