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君はUFOを見たか?

 その日は朝から冷え込んでいたせいで、和葉は柄にもなく鼻をすすっている。

 風邪を引いた訳ではないが、大事を取って和葉はその日の講義を全て自主休講とした。引き始めはじっくりと治すに限る。

 とはいえ、冷蔵庫の中には麦茶が入ったペットボトルと缶チューハイが三本、わずかな調味料くらいしかなく、他に目立ったものと言えば四連パックになったハムと十個入りの卵が一パックしかない。

 ハムエッグを作ることはできるが、いくら体調不良とはいえあまりにも貧相だ。


 というわけで和葉は最寄りのコンビニにいた。


 惣菜パンは豊富だが、どれも食指が動かない。チルドの一品は何故か中華寄りのものばかりが売れ残っており、少し気だるい身体はそれらを受け付けそうになかった。


 何かないかと思いながら店内をぐるぐると見ていると、冷凍食品コーナーに鍋焼きうどんがあるのを見つける。

 それを見た途端、和葉の中に電気が流れるような感覚が走り、今までの迷いが嘘のようにそれを手に取ると、レジへ向かう。

 レジの横に置かれた揚げ物コーナーでは、ちょうど揚がったばかりのから揚げが美しいきつね色の衣を纏って鎮座していた。気だるかったはずの和葉だが、それも合わせて購入する。


 コンビニから出てきた和葉は、さっきまでとは打って変わって笑顔に満ちていた。


 スキップしそうになる勢いで鼻歌交じりに家へと向かう和葉は空を見上げる。まだ日は真上にあり、夜になるまでかなりの時間が残っている。

 昼から缶チューハイを空けるのも悪くないなと思いながら、家に向かって帰っている時のことだった。


「あれって何?」

「鳥とかじゃないの?」

「嘘だー」

「もしかしてUFOじゃない?」


 キャッキャッと騒いでいる女子達が空を見上げている。自分と同じくらいに見えることから、妙な親近感が湧いた和葉は彼女達の視線を追うことにした。


 見れば、黒く小さな四角形のようなものが青い空の中をゆっくりと進んでいる。目が悪いので何とも言えないが、少なくとも鳥でないことは分かる。街中の鳥が飛ぶにしては高度が高すぎた。


 もしかしてと思った和葉はすぐにスマホを取り出すと、カメラのアプリを起動して動画モードにする。


「うわ、全然使えない……」


 和葉のスマホはあまりカメラに力を入れていなかったようで、最大ズームにするとピンボケが激しくなった。それにズームした割にはあまり拡大されておらず、肉眼で見た方がまだマシなレベルだった。


「お姉さんも取ってるよ。ほら、やっぱりUFOだって」


 先程の女子達が和葉を見ると、同じくスマホを取り出し空に向ける。お姉さんと呼ばれたことに若干の嬉しさと戸惑いを覚えながら、和葉はその黒い何かの動きをスマホのカメラで追い続けた。


 今のところ、その黒い塊は一直線に東から西へと進んでいる。見る限りでは速度も一定だが、飛行機にしては小さすぎる。

 もしかすると、本当にUFOなのかもしれない。そんな淡い期待を抱きながらスマホを空に向けていた和葉だが、その物体は奇妙な動きをすることもなく、同じ動きを保っていた。


「なんか地味だよね」

「うん。あれってやっぱりUFOじゃなくない?」


 そんな声が聞こえてくるころには和葉も既にスマホを下ろしている。もっとも、気にはなるので目では追い続けているが、UFOだと思う気持ちはかなり薄れていた。


 その物体が大きな雲に差し掛かる。そこに入ってから中々出て来ないことにしびれを切らした和葉はレジ袋の中のから揚げがすっかり冷めてしまっていることに気付いて慌てて家に帰った。


 翌朝、ぬるくなったことで油が回ったから揚げのせいで胃もたれに苦しんでいる和葉は、青白い顔のまま講義を切り抜けた。幸運なことに、その状態のおかげで昨日の欠席がサボりではないと周りに信じられ、心配の声をかけられることが多かった。


 昼休みのベルが鳴る。


 普段なら真っ先に向かう食堂にも足を運ばず、和葉は次の講義場所である教室に向かい、そこで机に突っ伏すことにした。

 似たような考えの学生達と共に机の上で伸びていた和葉は、教室の後方で話し込んでいる一団の話を聞くとはなしに聞いていた。


 まるでラジオを聴いているかのように様々な話題が繰り広げられ、返しも中々に面白い。何度か思わずニヤリとしてしまう時もあるほどで、それが非常に心地よかった。


「で、昨日のあれって結局UFO?」

「多分」


 聞き捨てならないやり取りが耳に飛び込んできて、和葉はそろりと身を起こす。そしてスマホを触る振りをしながら、聞き耳を立てた。


「飛行機があんな動きをするわけないって」

「ヘリかもしんないよ?」

「ヘリって結構音がするからね。だからヘリじゃないよ」

「マジか」

「グループの方でも盛り上がってたからね。次のサークルの予定が流れて探すのが大変だったんだかんな」


 そんな馬鹿なと思う和葉は昨日撮影した動画を見返す。

 だが、それは確かに自分が見た通りの内容だった。これが、内容が変わっていればちょっとしたホラーだったが、どうも現実はそんなに甘くない。


 思い切って和葉はその会話に加わることにした。


「ねえ、その話ってこの映像のこと?」


 そう言ってスマホの画面を見せる。いきなりの乱入者に最初は落ち着かなかった彼らも画面を見るや否やすぐに話をし始める。


「それとは違うやつ。ほら、これ」


 そう言って一人が同じくスマホを差し出す。


 そこに映っていたのは、典型的な不規則な動きをするUFOだった。まるで何かの図形を描くかのように複雑な動きをするその物体は、ある程度すると急にスピードを上げてどこかへ飛び去っていった。


 だが、そこに映っていた建物に見覚えのあった和葉はその動画の撮影時刻を尋ねる。聞けば、それは和葉が撮影した動画の数秒後の話だった。


 この事実に盛り上がった一団は和葉と連絡先を交換し合い、お互いの動画を共有し合う。和葉自身もテンションが上がり、それからの午後の講義はすっかり体調が回復していた。


 放課後のオカルト研究会でも昨日のUFOのことが話題になっており、彩夏自身も普段に比べると積極的に参加していた。

 だが、話題になるだけでそれ以上のことは起こらず、今月の会報のネタの一つとして押さえられるだけだった。


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