駅のホーム
その日、松永は大学をサボって下宿先から一駅離れたところにあるゲームセンターに入り浸っていた。
ゲーマーを自称するだけあって、確かに格闘ゲームにおいては上位に顔を出す常連で、難しいコマンドをミスなく打ち込んでは一発逆転する「魅せプレイ」をすることでギャラリーからの評価が高かった。
だが、その日はギャラリーの大半を占める、自分と同じく講義をサボってはここで時間をつぶすゲーム仲間があまりいなかった。
別にいたからといって楽しい訳ではない。違う大学の学生もいたし、学年が違うこともざらだった。だが、普段顔を合わせている連中がいないのはそれで寂しいものがあった。
何となく消化不良な気分でゲームセンターを後にした松永は、そこから歩いて十分程度の駅までダラダラと歩く。そんな様子なので、駅に着いた時にはもう十五分が経過していた。
折りしも普通電車は出たばかりで、次の電車が来るまで十分はかかる。松永の下宿先は普通電車しか止まらないのが難だが、暑い日ならいざ知らず、涼しい風がたまに吹き抜ける今の季節だと駅のホームで待つのは苦にならない。
もっとも、普通に歩けば間に合っていたのだが、そんなことを気にもせず松永はスマホを取り出し、見るとはなしにニュースサイトをボーっと眺めていた。
しばらくすると駅のホームに続く階段を誰かが猛スピードで降りてくる音が聞こえてきた。
ふと顔を上げて、ホームの頭上に設置された電光掲示板を見やる。次の電車は快速急行だったが、まだ一つ手前の駅にいるので、そんなに急ぐ必要はない。
そのせっかちな乗客がどんな様子なのか少し気になった松永は、自分の後ろの壁の向こう側にある階段を駆け下りてくる音を聞きながら、階段の先に視線を向けた。
大急ぎで降りてきたのは中年のサラリーマンだった。
ホームに辿り着くや否や、サラリーマンは体を半回転させて、線路に対して垂直に並ぶ。見事な整列乗車の手本となるような姿だったが、肩で息をするほど焦っていたのが容易に見て取れた。
サラリーマンはたすき掛けにしているビジネスバッグを体から外すと、ズボンの尻ポケットからハンカチを取り出して額の汗を拭った。
その時には松永の視線はスマホの画面に戻っている。別に大して興味があった訳ではない。正体が分かった今、松永の興味は既にアイドルグループの一人がまた卒業したというニュースに移っている。
程なくして電車がもうすぐホームに進入してくることを知らせるメロディが鳴る。目を上げると快速急行がやって来るところだった。
再び電光掲示板を見やると、自分が乗る予定の普通電車が一つ手前の駅に到着したところだった。
次の駅に向かう快速急行を何気なく見送ると、松永はホームに設置されたベンチから身を起こした。
その時、また階段を猛スピードで駆け下りてくる足音が聞こえてきた。
またかよ、と松永は階段の先を再び見やる。どうも今日は慌て気味のやつが多いらしい。
大急ぎで降りてきたのは中年のサラリーマンだった。
ホームに辿り着くや否や、サラリーマンは体を半回転させて、線路に対して垂直に並ぶ。見事な整列乗車の手本となるような姿だったが、肩で息をするほど焦っていたのが容易に見て取れた。
サラリーマンはたすき掛けにしているビジネスバッグを体から外すと、ズボンの尻ポケットからハンカチを取り出して額の汗を拭った。
その光景を見た松永は一瞬、自分の目を疑う。それはどう考えてもさっきのサラリーマンだった。
どういうことだろうと見ていると、視線に気付いたのかサラリーマンがこちらに振り向きかけたので、慌てて松永は視線を戻した。
電車がホームに入ってくる。
いそいそと電車に乗り込んだ松永は気のせいだろうと自分に言い聞かせた。
電車の扉が閉まり、松永はそれを背にもたれかかる。
その時、自分がもたれている扉が大きな音を立てた。
驚いて振り返ると、先程のサラリーマンが扉に貼り付く勢いでこちらを見つめながら、ゆっくりと額の汗をハンカチで拭いているところだった。
「これ、本当の話なんだって!」
オカ研の部室内に松永の慌てた声が響き渡ったが、部室にいたメンバー達は耳を貸さなかった。
仲間だったはずの奏恵も中森も、二度目は面白くないなどと言いながらそそくさと松永から離れていく。
とどめを刺したのは彩夏だった。
「講義をサボるから罰が当たったのよ」
それっきりこの話は誰の興味も惹かなくなった。
「三匹のカモ」から懐かしい人が。
時系列では、松永がまだ許されていない時のことです。




