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フェイク心霊動画

 その日、オカルト研究会はかつてない緊張感に包まれていた。


 普段は能天気な理香子もさすがに真剣な面持ちで身構えていたし、どちらかと言えば軽いノリな涼音も今日はおとなしい。

 依頼者を連れてきた愛梨は自分が地雷を踏んでしまったのではないかと今更ながらにそわそわしており、同じ学部の実加が愛梨を気遣って彼女の隣にいた。

 こうして部室の中を見回している和葉はいつも通りに見えるが、実際は隣に座る彩夏が会長としてどう反応するのかを緊張しながら見守っている。


 当の依頼者は、周りの人間が出しているこの独特な雰囲気に呑まれてはいないが、目の前にいる彩夏の冷たく見える視線にちぢこまっている。


 彩夏はずっと黙り込んだままだったが、おもむろに愛梨の方を見やる。


「それで、そのフェイク動画はどんな内容なの?」

「え、えと……。竪琴山の散策コースを歩いている学生のグループを映していると、ボロボロの服装に身を包んだ女の人がジッとこちらを見つめているって内容です」

「それだけ?」

「はい、それだけです……」

「で、あなた達が言う本物はどこに写っているの?」

「幽霊役は一人だけなんですが、動画には二人映ってるんです。その時、確かにそこにいたのは幽霊役の一人だけだったんですが、動画だと二人並んで映ってるんです。当然知らない人ですし、何も知らない普通の人がまぎれ込むこともありませんでした。その場面で関係ない人がいたら中止するって決めてましたし」


 彩夏は愛梨を必要以上に見つめた後、今度は依頼者の方を見やる。


「隆志くんだったよね。なんでまたフェイク動画なんて撮ろうと思ったの?」

「いや、こういうのって結構儲かるって聞いたんで……」


 彩夏はやれやれといった様子で首を振る。


「確かにテレビ局がこういうのを買い取ってくれるって噂は私も聞いたことあるけど、本当のところは分からないのよ。

 それにそうだったとしても、あなたは未成年でしょう?あんまりいい顔はされないと思うんだけど」

「隆志の親戚に製作会社の人がいるらしくて、その人をツテにしようと思ってたみたいです」


 愛梨が助け舟を出したが、すぐに引っ込む。余程彩夏が怖いらしい。


 やがて彩夏は溜息をつくと、二人に動画を見せるように言った。

 これに驚いたのはオカルト研究会のメンバー達である。幽霊嫌いな彩夏がそんなリアクションを見せたことを信じられない様子だった。


 隆志がおずおずとスマホを差し出す。


「これです……」


 隆志がスマホを操作すると、三分程度の動画が始まった。



 和葉には見慣れた光景である、竪琴山の散策コースが画面に広がる。撮影しているのは隆志らしく、彼の話し声が聞こえてくる。


「今度、フットサルしに行こうぜ」


 そう言いながら画面は後ろを振り返る。そこには男子が三人、女子が四人のグループがいて、その中の一人は愛梨だった。

 愛梨とは別の女子がフットサルよりもバッティングセンターがいいと返事し、それに他の男子がツッコミを入れていく。

 フェイク動画を撮ろうとしたとは思えないくらい、自然なやり取りが続いていた。


 全く動画には関係のない一般の人が気さくに声をかけてくる。そういった「アクシデント」も気にすることなく隆志達は普通に反応しており、挨拶を返すくらいのことはしっかりとしていた。


 途中、グループの女子一人が隆志を追い越すことはあったが、基本的にカメラは先行している形だ。

 話しかける度に画面が後ろに向く以外は、単調な映像が続く。


 散策コースの七割ほどを進んだ時、愛梨が疲れたと言い始める。それを聞き返しながら画面が後ろに振り返った際にグループの後ろの方で幽霊役の女性が二人佇んでいた。

 幽霊役の女性は、いかにもこういった動画に映りそうな見てくれだった。だが、その隣にいる女性は他の学生達とほとんど変わらない普通の服装だった。

 もちろんフェイク動画なので撮影者は何事もなかったかのようにカメラを回し続けているが、いないはずの二人目にも気付いている様子はなく、愛梨の弱音にツッコミを入れながら前に振り返っている。そして先行している他の女子達とわいわいがやがや話していくところで動画は終わった。



 動画を見終えた彩夏はまた二人を見つめる。そして口を開かなかった。

 少し気まずい沈黙が続く中、理香子が気を利かせて自分も動画を見たいと言い始めた。それに助けられた隆志はどうぞとスマホを差し出し、そのまま席を立って理香子の方へと向かう。


 逃げられたといった表情で隆志を見る愛梨だったが、彩夏が自分を見続けていることに気付いてすぐに前に向き直った。

 彩夏が話し始める。


「それで、あの動画が本物になってしまったのは分かったけど、それをどうして欲しいの?」

「それなんですけど、どうしたら良いでしょうか……。消した方が良いって私は言ったんですけど、そのまま消しても良いのかなって話になって。

 特に幽霊役の子はお祓いに行った方が良いんじゃないかって言ってまして……」


 尻すぼみになる愛梨だが、少なくとも心霊動画を保管しておくような悪趣味は持ち合わせていなかったので和葉はホッとした。


 彩夏は少しの間目をつむって考えている様子だったが、ふと思い出した様子で愛梨に尋ねる。


「そうそう、あなた達が相談したいのは幽霊役の隣にいたもう一人のことよね?」

「え、そうですけど……」

「そう……」


 彩夏は何かに思い巡らせている様子だったので、気になった和葉は質問する。


「会長、何か気になることでもありましたか?」


 彩夏は少し驚いた様子で和葉を見る。


「あなたも気付いていないの?」

「え?何のことですか?」


 彩夏は事もなげに言った。


「最後のシーンだけど、そこでも女の子が二人映ってるじゃない。一人はどこからやって来たの?」


 その彩夏の指摘に動画を見ていたメンバー達と隆志は固まってしまった。



 彩夏の勧めでその動画はフォルダから削除された。もっとも、彩夏に言われるまでもなく隆志は消したがっていた。

 そして愛梨は会長からじっくりとお灸をすえられていた。


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