五
リニューアルした関係なのか、食堂では鶏フェアなるものが行われている。何故鶏なのかは分からないが、肉の中ではカロリーが低く値段も手ごろな鶏肉が使われている料理をたくさん食べられるのは嬉しいことである。
メニューを見ながら散々悩んだ挙句、チキンカツ定食を選んだ和葉はウキウキした気分で利用者が少ないカウンター席の一つに腰掛ける。
「美味しい……」
一口頬張ったチキンカツのサクサクとした衣とモッチリとした鶏肉の食感に思わず独り言が出てくる。
全体にかけられているトマトソースも絶妙で、チキンカツによく合っている。このソースだけでも販売してくれたら料理のレパートリーも増えるのにと思いながら、和葉はじっくりと味わっている。
「あ、こんなところにいた」
振り向く間もなく、奏恵がやって来て隣の席に座った。
「今日はオカ研に来ないの?」
「いきなり何なのよ」
「回りくどいのは嫌だからさ」
和葉は知らんぷりしてチキンカツを食べ続ける。奏恵はその様子を見つめ続けながらじっと待っている。
「ご飯食べてないの?」
「とっくに食べたわよ。てか、こんな時間に何で食べてんの」
「夕食の代わりだよ。ちょっと早いけど」
「でも、もうちょっとでオカ研だよ」
和葉はうんざりとした表情を奏恵に向ける。
「今日はそういう気分じゃないの。それに何で私にだけ言うの?普段からサボってる人なんていっぱいいるじゃん」
「いや、和葉がオカ研に理由もなく来ないのは珍しいからさ。しかも、もう二日目。ほら、オカ研って和葉でもってるところがあるじゃん?だからみんなも心配してたよ」
奏恵が身を乗り出してきたので、和葉はさりげなく体を横にずらして距離を保とうとする。
「彩夏先輩だけど、元気なさそうだよ」
「へえー。来てるんだ」
「そうか。やっぱり何かあったんだね」
「何が?」
今度は奏恵がうんざりとした表情を和葉に向ける。
「彩夏先輩が姿を見せなくなって、やっと来たと思ったら今度はあんたが来なくなるんだもん。何もないなんて言わせないよ」
奏恵が声を潜める。
「あの子のことで何かあったんでしょう?」
「え?」
「とぼけないでよ。瑠香ちゃんだっけ?その件で何があったのよ」
「別に何もないよ。ただ……」
「ただ?」
言うべきかどうか迷ったが、奏恵があまりにもしつこく聞いてくるので仕方なく和葉は連絡が来なかった理由が充電切れだった件を話した。
それを真面目な顔で聞いていた奏恵だったが、最後まで聞くと呆れたようにため息をついた。
「もう、痴話喧嘩じゃん。要は心配してたのに理由がそんなことだから腹が立ってるだけでしょ?」
「……」
「そういうとこだよ。そんなんだから変な噂が立つの。このままふてくされてると噂が続いたって文句言えないよ」
もうチキンカツは味気なくなっていた。和葉はぞんざいにトレーを奏恵の方へ寄せると箸を置いた。
「ちょっと手伝って。このままだと間に合いそうにないから」
「はいはい」
苦笑いを浮かべながらも奏恵はどこか嬉しそうだった。
チキンカツ定食を平らげた二人は部室へと向かう。部室に入ると、その中にいたメンバー達が和葉の姿を見て驚いていた。
「ど、どうも……」
そのリアクションに驚きつつ、奏恵が言っていたことを肌で感じて和葉は頬をかくしかなかった。
「お疲れ様」
そんな中、和葉に声を掛けてきたのは彩夏だった。いつも通りの雰囲気に和葉も自然と普段通りになる。
「お疲れ様です。会長」
和葉は彩夏の方へ近付いていくと、瑠香の件について確認した。
「ああ、その件なんだけど……」
彩夏は和葉にもっと近付くように手振りする。
彩夏によると、瑠香の元に夜な夜な訪れているのは三年前に引っ越しした友達らしい。瑠香から聞いた情報を元に、実際にそこまで出向いて確かめに行ったそうだ。それを聞いた和葉は表情が暗くなる。こういう話で子供が出てくることが意味するのは一つだけだからだ。
だが、和葉の表情を見た彩夏が心配しないようにと伝える。
「その子は死んでないからね」
「え?」
「生霊なのよ」
「生霊ですか……」
ひとまずホッとした和葉だが、そうなると新たな疑問が湧いてくる。
「どうして生霊が?」
「それなんだけどね、原因は瑠香ちゃんにあるみたいなのよ」
困ったような表情で彩夏が言った。




