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オカルト研究会の有閑な日常  作者: 賀来文彰
ツチノコを探せ!
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UMAに憧れたきっかけはツチノコでした。

 彩夏は今日何度目かもう分からない程溜息をついている。その原因は中央自治会にあった。

 この頃中央自治会の監査が厳しい。所属している学生こそ多いものの、会として活動しているとは言い難いオカルト研究会を存続させることを疑問視する委員が多いのが事実だった。存続のためにはれっきとした活動実態とその報告が必要だが、オカルト関係のネタがそうそう転がっているものでもない。

 また、彩夏が霊感持ちであるからこそ幽霊関係の話題には事欠かないのだが、霊感があることは和葉や理香子といったほんの一握りのメンバーしか知らず、そもそも霊感があることなど基本的に誰にも信用されないので何とも扱いづらいのが実情だった。


「だからこのツチノコ調査を報告すれば良いじゃないですかー」


 和葉が呆れた様子で彩夏に話し掛ける。


「それだけだと内容が薄過ぎるでしょうに。どうせなら他のUMAと併せてにするくらいのことをしないと納得しないでしょうね」

「ならそれでいきましょうよ」

「あのね、和葉。この大学近辺に集中してUMAが一杯いると思う?そもそも未確認って言うくらいなんだから、いなくて当然でしょう」

「うわー。身も蓋も無い」


 今度は和葉が溜息をついた。


「そんなこと言ってたらオカルト研究会の意味が無くなっちゃいますよ」

「正直に言ってこんな感じになるばかりじゃ、いっそのこと店仕舞いした方がよっぽど気楽なものじゃなくて?」


 冗談めかして彩夏が言うと和葉はムスッとした表情を浮かべた。


「確かにそうですけど、ここが無くなったら無くなったで寂しいじゃないですか」


 時折、この子は鋭いところを突いてくるところがあると彩夏は思う。ある意味純真な和葉の言葉が耳に痛いこともあれば、ムスッとさせられることもある。ただ、それ以上に温かみに触れられるのが心地良い。


「分かったわよ。じゃあ、私はどうすれば良いの?」

「さっきの話ですよ。今やってるツチノコの調査と一緒に他のUMAの調査もしていきましょう。で、それを報告してやれば良いんです」

「だから、そんなにUMAがゴロゴロこの辺りにいるわけ無いじゃないの」

「他のUMAに関しては、今までに報告されている事例研究とそれに対するメンバー達の所見にすれば大丈夫ですよ。要は、目玉として今回のツチノコ調査を出せば良いんです」

「それは良いとして、どうやって報告するの?レポート課題みたいにワードに纏める?」

「それも面白いですけど、どうせなら新聞記事の様なデザインの会報にしませんか?これだったらメンバーも参加しやすいですし、報告としても形になってると思います」


 彩夏は和葉をしばらく見つめると、おもむろに彼女のおでこに手を伸ばした。


「ちょっと、急に何するんですか」


 驚いた和葉は思わず彩夏の手を払いのける。


「いや、こんなに和葉が生き生きとしているなんて、熱でもあるんじゃないかって思って」

「私はいつも全力です」


 和葉は仏頂面だ。


「ああ、悪かったわよ。ほら、この唐揚げをあげるから機嫌を直しなさい」

「いつも食べ物に釣られると思わないでください」

「そう言うのなら、その箸をどけてもらえるかしら」

「それとこれとは話が別です」

「いや、ちょっと何を言っているのか分からないのだけど」


 二人は食堂で遅い昼食を食べていた。彩夏はコロッケ定食に揚げ物セールの戦利品で、和葉はカツ丼だ。

 オカルト研究会の中でも和葉は揚げ物尽くしな献立にすることが多いが、基本的に自前の弁当を持参する彩夏が揚げ物セールに手を出すのは珍しい。


「分かったわよ。ほら、食べなさい」

「いただきます」


 美味しそうに唐揚げを頬張る和葉を見ながら、彩夏は軽く微笑んだ。



 普段は物静かな部室も、この日は熱気に満ちている。

 和葉が提案した会報の作成は多くのメンバーに受け入れられた。部室の中央では折り畳み式の長机が複数並べられ、一つの大きなテーブルとして機能している。その周りではメンバー達が、画用紙に定規を当てながら紙面のレイアウトに力を注いだり、文章を書くことに強い人達同士でどの様に記事を纏めていくかを話し合っていたりする。

 その近くで、和葉はボイスレコーダーを回していた。向かい側では彩夏がUMAとして有名なビッグフットやフライング・ヒューマノイドに対する自身の所見を述べ、和葉はそれを熱心にメモに取りながら、時々質問を投げかけていく。


「……ということは、フライング・ヒューマノイドの正体はイベントなどで打ち上げられた風船だと考えているんですね」

「その可能性は高いでしょうね。後は大道芸人が扱うバルーンアートから空気が漏れ出て、そのまま宙に浮かんでいったのも考えられるわ」

「なるほど。では、ビッグフットは?」

「新種のゴリラだと思う」

「え?ゴリラですか?」

「ええ。ゴリラも元々は未確認生物だった訳だからね。歴史を紐解いてもつい最近発見された動物なのは明らかよ。だったらビッグフットだってその可能性は否定出来ないわ」

「なるほど」


 そう言うと和葉はボイスレコーダーを止めた。


「うん?どうしたの?」

「いや、会長。ちょっと現実的過ぎます」

「仕方ないでしょう。現実的に考えるとそうなんだから」

「確かにそうかもしれないですが、インパクトが弱過ぎますよ。『フライング・ヒューマノイドの正体は風船だった!』なんて記事、出オチもいいところですよ」

「出オチな生地が一つや二つあったって良いじゃない」

「ダメです。オカ研の信用問題に関わります」


 そんなことを言い合っている時、部室の扉が勢い良く開かれた。


「ああ、理香子じゃない。あれ、どうしたの?」


 そこには理香子が立っていた。走って来たのだろうか、心なしか息が荒い。

 理香子は軽く息を整えると満面の笑みで言った。


「岡田達がツチノコを見つけたって!」


 一瞬、誰も何も言わなかったが、すぐにあちらこちらで動きがあった。


「マジか!」

「一面記事だ!」

「特集ページも組もうぜ!」

「カッパの話の分をこっちに移したらもっとスペース作れるぞ!」

「ツチノコって本当にいたんだ」


 思い思いに話し始めるメンバー達を尻目に、彩夏は理香子に聞いた。


「岡田達は?」

「今、ツチノコを追い掛けてるそうよ」

「え。それは危険過ぎる」

「それがね、法学部棟裏手の道路で見つけたんだって」

「え」


 彩夏だけではなく、他のメンバー達も動きを止めた。


「道路って……。山じゃないの?」

「うん、道路だって」

「散策コースには入ってないの?」

「そうなんだよね。厳密には、散策コースから帰って来てこっちに来る途中で見つけたらしいの」


 誰も何も言わなかったが、急に眉唾物の様相を呈してきたと、顔に書いてあった。特集ページを組もうと息巻いていたメンバーに関しては、調整しようとしていたカッパの話を早くも元の場所に戻している。


「で、追い掛けてるってどこへ?」

「駅の方」

「ふーん」

「いや、全然信じてないよね?私も最初信じられなかったから人のこと言えないけど」

「そりゃあ、信じられないに決まってるでしょう」

「でも、考えてみて。あの岡田が言ってるのよ?嘘つくと思う?」

「まあ……。それは……。うん、確かにね」


 岡田が会計を担当している最大の理由は真面目過ぎることにある。それ故に融通も効きにくいが、誰かを守る為につくことはあっても、悪戯半分や冗談で嘘をつくことは決してなかった。

 その岡田がツチノコを見つけて追い掛けているのだから、にわかには信じられない内容も少しずつ現実味を帯びてくる。


「岡田と一緒にいるのは確か……」

「建斗と涼音ですね」


 彩夏の問いに和葉が答える。


「建斗が付いてるなら安心ね」

「いや、そこは涼音も入れてあげてくださいよ」


 建斗は新入生メンバーの中でも数少ない男子である。女子の顔を真正面からは見ずに少し視線を逸らしながら見るところは今時の草食系である。同じ一回生の愛梨の話によると私立男子校出身らしく、そのせいか女性に対する免疫はほとんど無いらしい。

 ただ、岡田よりは度が過ぎてはいないものの真面目で几帳面な性格は非常に頼もしい。新歓の帰り際に、忘れ物が無いかのチェックとその呼び掛けをしていたのは今でも語り草となっている。


「岡田のことだから本当にツチノコを捕まえるんじゃない?」

「いや、建斗もあり得ますよ。ほら、良いとこどりしちゃうタイプですし」

「それはモテ期の話でしょうよ」

「え、建斗ってモテるの?」

「私に聞かないでくださいよ。でも同じ理工学部の友達は建斗を狙ってるみたいですね」

「マジか。やっぱりこっちから積極的に行かないとダメなんだ」

「あのー……。涼音先輩のことを忘れないでください」

「涼音は充分モテてるから良いの。もう殿堂入りなんだから恋バナに入れてやる必要はない」

「いや、ツチノコの話です……」


 それぞれが思い思いに話し始める中、理香子のスマホが鳴った。発信者を確認するや否や電話を取る。


「もしもし、涼音?今まで和葉がね、涼音の話をしてたところなんだ」

「ちょっと何言ってるんですか、先輩」


 和葉の抗議に理香子は軽く舌を出して答える。


「うん。それでツチノコはどうなったの?」


 少し間が空いて。


「え!捕まえたの!」


 理香子の言葉がさざ波の様に静かに部室内に広がっていく。

 そこから出て来るリアクションは様々だった。感嘆の声を漏らす者もいれば、信じられないといった様子で周りを見回す者もいる。急いでカッパの話を別のスペースに振り分けて紙面を都合する者もいた。彩夏に至っては口をあんぐりと開けてしまったまま固まってしまっている。

 それでも理香子はそれぞれのリアクションに一切目を向けることなく、通話先の涼音に根掘り葉掘り様々なことを聞いている。

 興奮冷めやらぬといった面持ちで涼音とのやり取りを終えた理香子に、メンバーが一気に殺到した。


「理香子先輩!先輩達が捕まえたツチノコってどれくらいの大きさなんですか!」

「重さも知りたいです!」

「何色って言ってましたか?」

「やっぱり飛び跳ねたんですか?」

「今までの目撃情報と違っているところってありました?」

「皆、怪我してないの?大丈夫そう?」

「三人の中で誰が捕まえたんですか?」


 怒涛の質問攻めに苦笑しつつ、理香子が言う。


「気持ちは分かるけど、そう慌てないでね。もう来るらしいし。本人達から直接話してもらう方が早いし、分かりやすいと思う。それに実物を見ることが出来るんだし」


 理香子が意味ありげに微笑む。だが、本人がそう出来ていると思っているだけで、実際はもったいぶっているだけだと周りは気付いている。


「あ、そうだ。万が一のことがあるから皆、気を付けてね」


 和葉が注意を呼びかける隣で、彩夏は部室の窓の鍵が確実に締まっているかを確認している。どうやらツチノコ捕獲の衝撃からは立ち直っていた様である。

 程なくして、部室に近付く足音が聞こえて来る。心なしか早足の様に聞こえる。今か今かと待ち望んでいると、部室の扉が開かれた。


「どうもー」


 ぽやっとした表情を浮かべて室内に入って来たのは、ひよこ研究会会長の高坂依蕗葉だった。


「……。何の用なの」

「いや、ちょっとしたドッキリです。ツチノコを見れるってすごく期待したでしょう?」

「依蕗葉。ちょっとこっちにいらっしゃい……」

「いや、待ってよ彩夏さん。ちゃんと主役が登場するから」


 まあまあと彩夏をなだめると、依蕗葉は後ろを振り返って呼び掛ける。


「というわけでお待ちかねのツチノコです!さあ、どうぞー」


 程なくして苦笑いを浮かべた三人が入って来る。先頭を歩く岡田は緊張の面持ちで少し大きなケースを抱えていた。

「悪い。階段の途中でこのヒヨコ女に捕まった」

「ヒヨコ女とは失礼な。……でも、良いかも」


 訳の分からないことを言っている依蕗葉は無視して、岡田が机の上にケースを置く。


「お待ちかねのツチノコだ」


活動報告も更新していることが多いので、お時間のある時にご覧ください。

裏話とまではいかないものの、色々な話をしています。

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