三
約2週間前に、ユニークが395件だったので「大きく出て500件を
超えられる様に頑張ります!」と書いておりましたが
有難いことに509件となっていました!
皆様有難うございます!
次はユニーク数800件超えを目標に、引き続き頑張ります!
「災難だったねー」
理香子がのんびりとした口調で二人に笑いかける。隣で彩夏が欠伸を噛み殺しながら外を眺めている。
和葉達は文化会館一階のフリースペースにあるテーブル席に腰掛けていた。真奈美はまだショックから立ち直れていなかったので、和葉が今までのいきさつを説明した。もっとも、和葉自身幽霊をあれ程間近に見た訳では無かったので、恐怖と興奮がない交ぜになっている。
「でもまあ二人とも何事も無くて良かったよ」
理香子はそう言うが、本当に心配しているのかどうか分かりにくい表情だった。
「ちょっと、信じてくれないんですか!」
真奈美が雷に打たれたような表情で理香子を見た。和葉も驚きを隠せないでいた。
「真奈美ちゃん、ちょっと声が大きいよ」
理香子が苦笑いしながら真奈美をなだめる。近くにいたフォークソング同好会の部員達が忍び笑いをしながら食堂の方へ向かう。
「理香子先輩、私達は本当に見たんですよ」
「和葉、気持ちは分かるけどあなたも落ち着いて」
「落ち着いていられないですよ!」
和葉は声を荒げた。
二人が幽霊を見た後、地下一階はちょっとした騒ぎになった。少し遅めの朝練に来た軽音楽部の部員達がその場を通り掛かった時、二人はパニック状態になっているところだった。その様子を見て、不審者でも出たのかと思った男性陣がはりきってジャズ研究会の部室に突撃したが、勿論そんな人物はおらず、二人とも見間違いをしたのだろうと笑われてしまった。中には二人して酔っ払っていたのではないかとあらぬ疑いをかける者もいた。
真奈美が鍵を返し、その旨をグループトークに流している隣で、和葉は彩夏に連絡を取った。からかいと疑いの喧騒の中で部室の鍵を閉めた屈辱が思い出されて、自然と声が震えていた。
和葉が連絡を取ってしばらくして、彩夏と理香子がやって来た。副会長の理香子まで来たのは意外だったが、それ以上に彩夏が欠伸もあらわにやって来たことに和葉は驚きの念を隠せなかった。まるで最初から自分達の体験を信じていないかのような振る舞いが目に付いてしまう。だが、それでも何とか二人に状況を説明し、自分達が見たものを必死に伝えた結果、和葉と真奈美は苛立ちの念を隠せなくなっていた。
「なんで信じてくれないんですか!」
「そうですよ!私達は絶対に見たんです」
「まあまあ、二人とも分かったから」
理香子は二人をなだめるばかりだが、彩夏の方を見やると助けを求めた。
「彩夏はどう思うの?」
彩夏は外を見たまま軽く伸びをすると、三人を見てこう言った。
「とりあえず食堂に行きましょう。朝ご飯を食べ損ねたからお腹が空いたわ」
思わず立ち上がりかけた和葉を鋭い視線で抑えると、彩夏は一瞬だけ目線を下に向けた。不審に思いながらもその方を見やると、彩夏がスマホを握っているのが分かった。
彩夏は立ち上がりながらスマホを操作し、そのまま食堂の方へと歩き出した。やれやれといった表情で理香子も彩夏について行く。その時、和葉のスマホにトーク通知が来たので内容に目を向けた。
「ここだと話せないから移動」
全てを飲み込んだ和葉は無言で席を立つ。真奈美が和葉を見やった。
「ちょっと、あんたまで何よ」
「これ見て」
「え?」
和葉のスマホ画面を見た真奈美は不信感を一層強めた。
「どういうことなの」
「私にも分かんないけど、多分会長は何か知ってるんだよ」
「嘘よ。さっきの理香子先輩のリアクション見たでしょ?彩夏先輩だってずっと眠たそうにしてたし。私達のこと全然信じてないんだよ」
「理香子先輩はね。でも会長は多分信じてくれてると思う」
冷静に考えると、彩夏が心霊関係のことを嫌がりはしても蔑ろにしたことは無かった。それが自主的にせよ巻き込まれてにせよ、関わった以上はいつもひたむきに向き合うのが彩夏だった。
「嫌よ。もうあんな風に笑われたり信じてもらえなかったりするのは耐えられない」
「真奈美、会長はそんな人じゃないよ。だから一緒に来て、お願い」
「……」
「そんなことはないけれど、もし会長までもが信じなかったとして私は信じる。だってあんたと一緒にこの目で見たんだから。だから笑うことも無いし、信じてる。私はあんたの味方だから」
「……分かったわよ」
真奈美がようやく立ち上がった。二人が連れ立って食堂に入ると、彩夏と理香子が奥のテーブル席で深刻そうな表情で話し込んでいるのが見えた。和葉達がそこに向かうと二人は一旦話を止めた。
「二人ともさっきはごめんなさいね。でも周りの雰囲気とかこれから話すこととかを踏まえると、ああするしかなかったの」
「私も謝るわ。ごめんね」
彩夏は勿論のこと、理香子が謝ったことに真奈美は驚いていたが、彩夏からの連絡に込められた意味を掴んでいた和葉は本題に切り込んだ。
「こっちこそすみませんでした。理香子先輩も会長もお気遣い有難うございました。それでですが、あそこでは話せないことって何ですか?」
「今日の放課後、オカルト研究会は臨時で活動することになる」
彩夏が囁く様に言った。
「え、それってどういうことなんですか」
答えたのは理香子だった。
「彩夏の読みではね、他の音楽系のところでも何らかの現象が起きるはずなの」
「え?」
「料理研究会が入る部室なんだけどね、あそこって元々倉庫みたいになってたの。で、色々ある中にちょっとおかしなものが紛れ込んでた様なのよね。それが悪いものを呼び寄せてたせいで、部屋の中にあった備品や家具もその影響を受けてるみたいなのよ。分かりやすく言えば付喪神の反対みたいな感じ」
付喪神とは、長い年月を経た道具などに神や霊が宿ることで誕生する存在と言われている。
「じゃあ、家具とかの仮置き場になってる部活で騒ぎが起こるってことですか?」
「そうなるでしょうね」
彩夏が言った。
「恐らくだけど、もう始まってはいるはずよ。真奈美さんが体験したのは昨日の朝で、これが最初の目撃談のはず。で、昨日の放課後には程度の大小こそあれ何かしらの出来事があったはずよ。多分、今日のお昼までには情報が入ってくるでしょうけどね。そして今朝。この調子でいけば今日の放課後はちょっとしたお祭り騒ぎになるわ」
「嘘……」
「嘘だったら良いんだけど、彩夏の言うことは当たるからね。真奈美ちゃんも腹くくらないとダメだよ」
「理香子先輩、腹くくるって言っても真奈美はオカ研じゃないんですが……」
「いや、ジャズ研は今日も活動あるんでしょ?皆がいてもまた見ることになると思うからさ」
「え!」
理香子が苦笑する。
「いやいや、真奈美ちゃん。昨日の朝は一人だったんだよね。でもさっきは和葉もいたでしょう?それでも見たんだから、今日の活動の時だって見るって思ってて普通だと思うけど」
項垂れる真奈美の頭をポンポンと慰める様に軽く叩きながら、理香子は彩夏を見やる。彩夏は今度こそつまらなさそうに真奈美に言った。
「それだけ嫌なら休んでしまえば良いだけのことよ」
「それはちょっと……」
言葉を濁す真奈美をジッと見つめると、おもむろに彩夏はフンっと鼻を鳴らした。
「そう思うんだったら、幽霊を見たぐらいでジタバタしてないでしっかりと練習に打ち込みなさいな」
「いや、会長。あれは本当にヤバいですって。練習なんて出来ないですよ」
和葉が慌ててフォローに入るが、彩夏は和葉をグイと一睨みして続けた。
「あなたもあなたよ。オカルト研究会としてもっと活動していかないとって張り切ってる割には全然じゃないの」
「いや、それは……」
「そもそも、真奈美に啖呵を切ったのはあなたでしょう?なのに、これくらいのことで尻尾撒いてるようじゃ形無しもいいとこじゃない」
和葉は小さく縮こまるしかなかった。真奈美も何とも言えない表情で足元を見つめている。そんな二人を尻目に、理香子はのんびりとお茶を飲みながらスマホを操作している。
彩夏はしばらくの間窓の向こう側に視線を向けていたが、軽く伸びをするとおもむろに指を二本立て、和葉達に見せつけた。
「コロッケ定食二日分で手を打つわ」
「いや、あの……」
「すみません、会長。ちょっと何言ってるか分からないです」
「ニブいわね。あなた達がまた練習出来る様に手を貸してあげるんだから、それくらいなさいな。まして今朝からあなた達には振り回されてるんだから」
「それはそうですけど、何もたからなくたって」
「本当だったらおろしハンバーグ定食とか鉄火丼とかにしても良かったんだけど、それはさすがに可哀想だからコロッケ定食にしてあげたの。感謝されこそすれ文句を言われる覚えはないわ」
彩夏が得意げに腕を組む隣で理香子が笑いをこらえている。不甲斐ない自身のことは忘れて和葉は顔をしかめたい気分だった。
だが、真奈美は真剣な表情で彩夏にそっと尋ねる。
「また練習出来るってことは、先輩はあの幽霊を祓えるんですか?」
「うーん。余りそういう言葉は好きじゃないんだけれど。でも、まあそんなイメージを持ってもらって大丈夫かな」
「それだったら何が何でもお願いします。練習が出来る様になるんだったら、コロッケ定食くらい、いくらでもご馳走します。だからお願いします」
彩夏はジッと真奈美を見つめていたが、相好を崩すと真奈美の手を取って優しく握りしめた。
「安心なさい。すぐに練習出来る様になるから。でも、今日は部活自体を休みなさい。自主練もダメ。これが守れないなら、例え一番高い学食を卒業まで毎日奢ってもらったとしても何もしてあげられなくなるから、絶対に我慢すること。良いわね?」
努力の人である真奈美には一日だけとはいえ休みは堪えるだろう。しかし和葉の思いとは裏腹に、真奈美は何かを決心した表情で彩夏を見据えて力強く頷いた。
彩夏はにっこりと微笑む。その表情を見て和葉は安心感を覚えた。オカルト研究会に属してからというもの、今までに様々なことに直面してきたが、それらを乗り越える時には決まって彩夏の特別な笑みがあった。
自然と笑みが零れる和葉に、彩夏は健やかな表情のまま視線を向ける。
「こんなに素直な子がオカ研にもっと増えたら良いのだけれどね」
「会長……。コロッケ定食だけと言わず小鉢もどうですか?」
「食べ物でごまかそうとしたって無駄よ」
「まあ、そうとは思ってましたけど。因みに何で休まないとダメなんですか?」
「え?それは真奈美さんだけよ。あなたは別に休まなくていいわ。しっかりとジャズ研も頑張りましょう」
「ちょっと待ってください、冗談ですよね?私だけ扱いが雑じゃないですか?」
「雑も何も、そもそもあなたが引き受けたことでしょうが。最後まで責任を持って取り組みなさい」
「そんな……。理香子先輩、助けてくださいよ」
「うーん。オカ研としては和葉に実地調査して欲しいんだよね。だってこんなことってまず無いからさ。ということでよろしくね」
理香子が黒い笑みを浮かべた。
今更になり大変恐縮ではございますが、作品へのご意見など戴けますと幸いです。
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