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オカルト研究会の有閑な日常  作者: 賀来文彰
くしゃくしゃの笑顔を
38/73

ユニークが430を超えていて・・・

少し前に「300を超えたので思い切って500を目指します!」と

書いておりましたが、この伸びの速さに大変感謝しております。

皆さん、本当に有難うございます。

 その日、和葉は柄にもなく緊張していた。

 隣では博史が険しい表情でポケット版の六法全書に目を通している。


「ったく、何でお前のお守りをしなきゃなんねえんだよ」

「うるさいわね、私だって頼みたくなかったんだけど」


 憎まれ口を叩き合いつつも、二人は法学部棟の小講義室の一室の前で目当ての人物を待っていた。

 もぐりの子を見つけるにしてはまだまだ情報が足りない。そこで奏恵が提案したのが実際に言葉を交わした人への聞き取り調査だった。メンバー自身がその状況に出くわしたからこそ確実に情報収集が出来るということで、博史の目撃情報を元に話が進みだした。

 もっとも、奏恵が思い付いた時にはランチタイムも半分を過ぎた頃だったので、午後の講義は飛んでしまうか睡眠に充てようとする不届き者が多く、やる気に満ちたメンバーは和葉達三人と、菫を初めとする新入生の四人組だけだった。奏恵は後輩達と共に、もぐりの子と言葉を交わした学生への聞き取り調査に出向いている。彼らには博史から既に連絡をしてもらっていた。

 そして二人は一番話を聞きにくい人物が講義室から出て来るのを待っていた。


「あ、出て来たぞ」


 博史が六法全書を鞄に直した。いそいそと次の目的地へ向かう学生達に交じって、細身のスーツの男性がのんびりとした歩調でこちらに向かってくる。


「中山教授!二回生の田崎です。今、お時間を頂戴出来ますか?」


 中山教授は軽く博史を見やると立ち止まった。


「田崎君、前の講義内容で何か気になることでもあったかな?」

「はい。あ、いえ……。気になることといえばそうなんですが……」


 何処となく歯切れの悪い博史の隣に和葉は立つと、中山教授に軽くお辞儀をした。


「初めまして。文学部心理学科二回生の宮島と言います。先日の民法の講義に出ていたもぐりの子についてお伺いしたいことがありまして」

「なるほど」


 中山教授は少しの間和葉を見据えていたが、やがて左手で前方を促すと歩き始めた。


「申し訳ないですが、この後に予定があるので歩きながらでも良いですか?」

「あ、はい!大丈夫です。宜しくお願い致します」


 教授達は法学部棟と経営学部棟を繋ぐ大きな渡り廊下へ向かう。


「まあ、別段お話出来ることはありませんが、何を聞きたいのでしょう?」

「先ず、服装は覚えてらっしゃいますか?」

「うーん……。白のシャツということくらいしか覚えていませんね」

「何故、教授の講義にもぐってきたのか分かりますか?」

「いや、正直分からないですね。狙ってもぐりに来たとしても、この前のテーマは専門性が特に高いものでしたから。法学部の学生でも無い限りもぐる意味ははっきり言って無かったでしょう」


 経営学部棟にある階段を下りる。この棟の階段は在籍する学部生が一番多いこともあって一際余裕をもって作られている。


「教授はいつその子に気付いたんですか?」


 今度は博史が質問した。


「最初の段階で気付いていましたよ。具体的に言えば田崎君がスマホをしばらく触っていた時でしょうか」

「え!」


 驚いた博史に対して中山教授がニヤリと笑う。


「教壇からは意外と全体がよく見えるものなんですよ」

「すみませんでした……」


 すっかり縮こまってしまった博史を横目に和葉が話を続ける。


「因みにその子以外にもぐりはいましたか?」

「いえ、いませんでしたよ」


 経営学部棟を出ると、少し強い日差しが辺りを包み込んだ。中山教授は二人を見やると、次の予定があるのでと断りを言ってから去っていった。


「あんまり収穫なかったな」

「そうね」

「奏恵達の方はどうなのかしら」


 ちょうどその時に奏恵からのトーク通知が来たので、和葉は画面を開き内容に目を通した。


「うわっ」

「え?何て言ってんの?」


 博史が興味深げだったので、和葉は画面を見せながら言った。


「今、もぐりの子と一緒なんだって」


 和葉達が食堂に入ると、奏恵が手を振って来た。

 奏恵達がいるのはテーブル席だった。見知った顔ばかりとはいえ八人掛けの席のほとんどをオカルト研究会のメンバーが占めているのは壮観だった。背中しか見えない二人が、元々話を聞いていた学生ともぐりの子なのだろう。和葉達は空いていた席に腰掛けると、失礼にならない程度に二人の顔を覗き見た。

 手前の学生には全く見覚えが無かったのでインタビュー相手だろう。その奥にいる学生は、奏恵と一緒の時に言葉を交わした相手に間違いなかった。


「あれ、あなたもですか?」


 怪訝な顔つきでもぐりの学生が和葉を見つめた。


「久し振り」

「お久しぶりです」


 和葉の挨拶に若干戸惑いながらも、もぐりの子は会釈した。そこから自己紹介が始まったが、和葉達に挨拶を終えるとインタビュー相手の学生はそのまま帰っていった。

 もぐりの学生は平塚明穂と言った。理工学部の一回生とのことだった。

 彼女と出会ったのは全くの偶然だった。インタビュー中に、ついてきていた後輩の一人が彼女に声を掛けられたのだ。明穂は同じ学部の知人に軽く挨拶するだけのつもりだったが、面識のある奏恵が彼女を捕まえ、現在に至る。


「それで、何で色々な講義にもぐってたの?」


 和葉が尋ねると、少し嫌な顔をしつつ


「ただ、興味があったからです」


とだけ答えた。

奏恵が苦笑いしながら和葉に首を振った。どうやら明穂は、既に繰り広げられたやり取りをもう一度するのがお気に召さなかった様である。

 博史が気軽な感じで話を引き継いだ。後輩達も輪の中に入れながら、趣味や所属サークルのことなどを自然に聞き出していく。その様子を見ながら和葉は、博史のフォローの上手さに感心するしかなかった。


「あの、こっちからも聞いて良いですか」


 おもむろに明穂が和葉の方を見やる。今まで和やかに話していたとばかり思っていた博史達は虚を突かれて言葉を繋ぐことが出来ていない。奏恵も突然のことに言葉を失っていた。


「良いよ」

「先輩達はなんでオカルト研究会にいるんですか?」

「え?」

「だって幽霊とかUMAとかぶっちゃけいないですよね。いないのに追い掛ける意味なんてあんのかなって」

「ああ、なるほどねー。まあ、そうだよね。無意味かも」


 和葉の思いがけない返答に後輩達が驚いている。


「田崎はなんでオカ研に入ったの?」

「俺は……。まあ、その……こいつもいるしさ」

「ごめん、聞いた私がバカだった。奏恵はどうなの?」


 博史のツッコミを無視して和葉は奏恵に振る。奏恵はその様子に苦笑いしていた。


「まあ、私はそれっぽいのを見たことあるからって感じかな」

「へー」

「てか、あんた、どういうつもりなのよ。無意味かもって思ってるなんて初めて聞いたよ」

「俺もそう。お前、結構熱心に会長に働き掛けてんじゃん」


 二人の非難めいた投げ掛けや何か言いたげな後輩達の視線には一切触れず、和葉は明穂をじっと見た。


「で、明穂はなんでそんなことが気になったの?」

「いや、私のことを追い掛けてる人が全員オカルト研究会の部員だったって知ったら、そりゃ気になりますよ。オカルトだなんだって言って、本当はただの暇人の集まりが暇つぶしになりそうなことを探してるだけなんじゃないかって思いますしね」

「ああ、私達が詮索好きって言いたいんだ」


 和葉が意地悪く笑う。明穂は挑発には乗らなかったがムスッとした表情で黙り込んだ。


「ぶっちゃけて言うけど、詮索好きに間違いないと思うよ。でも、それはゴシップとかとは違う。幽霊とかUMAとか、いないとされている存在に好奇心を持っているだけだから。科学で証明出来ないからこそ夢が広がるって言うか、そんな感じ」

「先輩って暇人じゃなくてロマンチストなんですね」

「ちょっと、あんた。さっきから失礼じゃない?」


 奏恵がとがめる。和葉は奏恵をなだめると改めて明穂を見た。


「まあ、実際そうだと思うわ。理想と現実のギャップを分かってても諦めきれないし。現に謎のもぐりの学生もこうして簡単に正体が分かった訳だしね。オカルトとかってそんなものなのよ。幽霊でも大学に紛れ込んだ不審者でもなく、ただの勉強好きな真面目な女の子だった。一回生にありがちなこと。それだけの話」


 そう言い終えると和葉は立ち上がった。後輩達が不安げに和葉を見やる。


「これでこの件はおしまいだから、次の活動までにまた新しい何かを探そっかな。じゃあ、お先に。明穂も付き合わせて悪かったね。今度何かおごるよ」


 明穂がキッと睨みつける様に和葉を見た。だが、和葉はそれに取り合うことなく歩みを止めない。慌てた奏恵が急いでやってきて、和葉に話し掛けた。


「ちょっと、和葉。どうしちゃったのよ」

「いや、オカ研を馬鹿にされた感じがしてさ。ちょっと腹立っちゃった」

「まあ、気持ちは分かるけど……」

「それにああいうつっけんどんなタイプは好きじゃないから。昔の自分を見てるみたいで」

「ああ、オカ研に入った時にかましたらしいもんね」

「入った時っていうか、入る前だけどね。ホント、あの時の自分をひっぱたいてやりたいわ」

「私はその時の和葉を見たかったなあ」


 二人が話していると後ろから駆け寄って来る足音が聞こえた。振り返ると博史と後輩達がいた。


「ちょっと、先輩。いきなりどうしちゃったんですか」

「おっ、愛梨。あんたもあの子と同じ口をきくつもり?」


 笑いながら和葉は後輩を見やる。愛梨と呼ばれた後輩は首をすくめた。


「あの……。明穂がすみませんでした」


 同じ理工学部の建斗が和葉に頭を下げた。


「いやいや、あんたが謝ることじゃないから」

「そうそう。気にしないでね」

「ところで、菫と実加は?帰ったの?」

「あ、二人なんですけど明穂にキレてます」

「え?」

「俺らがお前を追い掛けようとした時にあの子も席を立とうとしたんだけどさ、菫と実加が引き留めて説教を始めたんだ」


 博史が肩をすくめた。


「ちょっと田崎、あんた先輩なんだから止めなさいよ」

「いやいや、それだったらお前が癇癪起こさなかったら良かったんだよ。それにちょっとあの子の噛みつき方は見てて良い気分じゃなかったし」

「ですね。オカルト扱いされて気分が悪いのは分かるけど、先輩に対してあれは無いですもんね」

「うん、俺もそう思う」


 博史の意見に後輩達が同調した。


「そうなんだね……」


 温厚な菫と実加が怒るとは意外だった。ただ、あの突っかかる明穂のことだ、二人に対して一歩も引かないだろう。


「でも、二人とも大丈夫かな」

「ああ、あの二人なら大丈夫ですよ。特に実加は怒るとヤバいんで」


 愛梨と実加は同じ高校の出身らしく、他の新入生よりも仲が良い。だからこそ周りが知らないことも色々と知っているのだろう。


「でも、本当に呆気なかったね。別に幽霊とか期待してた訳じゃないけど、まさか噂の正体があんな子だとは思ってなかったし」


 奏恵が溜息をついた。


「まあ、それが理想と現実ってやつなんだろ?和葉」


 博史がからかう様に言うと、奏恵達がくすくすと笑い出した。

 和葉は聞こえないふりをしながら彩夏にメッセージを送る。結果は空振りだったが、実際に幽霊に直面することを思えば気は楽だった。それに、この方がなんだかんだ言ってオカルト研究会らしい。

 なので、その日の活動後に理香子が二人きりで話したいと言ってきた時には少し驚いた。


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