六
旧胡麻富岳トンネルには瞳の車で向かった。助手席に友望、後部座席に谷山と加奈が座った。道中、友望は谷山を再び囃し立て、恋の相手が誰なのかあの手この手で聞き出そうとしたが、谷山は頑として何も答えなかった。
しかしトンネルが段々と近付くにつれ、自然とみんなの口数は少なくなっていった。特に加奈は前回の結果を思い出したのか、不安げな表情だった。
「はーい。もう着くからね」
瞳が声をかけながらハンドルを切る。
少し広いスペースに車を停める。運転席側の窓からは大木らしきシルエットとその奥にある先の見えないトンネルが見えた。
「さて、石を返しに行く前にだけど、谷山君、何か言うこと無い?」
瞳が後ろを振り返る。食堂の時と違って目も笑っていたが、それはそれで怖いものがあった。
「あの……。こんなことに巻き込んですみませんでした」
「違う」
「え?」
「謝ることも大事だけど、その前にそもそも何で石を持って帰ったか言わないといけないでしょう?」
瞳の問い掛けに友望は肝を冷やした。確かに囃し立てはしたが、何も本当に谷口の想い人を知りたいわけでは無い。単にこんな怖いことに巻き込まれた腹いせの憂さ晴らしに過ぎなかった。
「あの、瞳さん?私、そんなつもりじゃなかったんで……」
「友望ちゃん、ここは黙ってて」
もう瞳は笑っていなかった。
谷山は何とも言えない複雑な表情を浮かべている。
「言いたくないなら別に良いけど、どうせ石を返す時に言うことになるんだから早めに済ませておく方が楽だと思うけど」
そう言うと、瞳はエンジンを止めた。重苦しい雰囲気が車内に立ち込める。誰も何も言わなかった。しばらくして、谷山が口を開いた。
「向こうで話させてください」
瞳は肩をすくめると、扉を開けた。谷山も車を降りたので、加奈と友望も彼らに続いた。
大木の前まで辿り着くと、谷山はおもむろにみんなの方へ振り返った。
「先ず、こんなことになってすみませんでした」
そう言って谷山は茶髪の頭を下げた。顔を上げると今度は加奈に向き合い、もう一度頭を下げ、そのまま言葉を続けた。
「加奈さん、俺のせいでひどい目に遭わせてすみませんでした」
「え……」
「待ち合わせ場所に行く途中、瞳さんから全て聞きました。やばくなる一歩手前だったって。ギリギリのところで間に合ったから良かったものの、あのままだと悪い気にあてられて大変なことになってたって……。そんなつもりじゃなかったんです。すみません」
だから一緒にファミレスに来たのかと友望は得心した。こってりと瞳に絞られていたのだ。
ふと隣を見ると加奈がうろたえている。散々な目に遭ったとはいえ、正直接点の全くない相手から突然謝られ戸惑っていた。
「あ……。はい。大丈夫ですよ」
かろうじて答える加奈に瞳が苦笑いした。
「ほらー。さっさと持ち帰った理由を言いなさいよ。あ、その前に石を先に返そっか。本題行く前にこれ以上変な感じになっちゃうと、こっちまでどうして良いか分かんなくなっちゃう」
瞳に促されるまま、谷山はショルダーバッグから石を取り出すと大木の根元にそっと置いた。
「それで良いよ。ほら、早く本題に入ろう」
瞳の後押しを受けて、谷山は加奈をしっかりと見据えた。
「加奈さん、初めて見た時に一目惚れしました。あ、だからってここに連れて来た訳じゃないんです。それは元々決まってたことなんで……。石を持って帰ったのもその為です。心霊スポットに理由付けて三回も来させるなんて出来ないし、やりたくなかったから……」
谷山の告白は続く。
「初めて見た時に、何て言うか吸い込まれるような感じがしたんです。変な意味じゃなくて、ずっと見ていたいというか。一緒にいたら楽しいんだろうなって思ったり……。あの……。その……」
段々と谷山の声が小さくなっていく。勢いで言ってしまっている分、言葉を見つけようとして上手く言えない状態に陥ってしまっていた。
どうしていいのか分からないのは友望達も同じだった。特にいきなり告白されている加奈は目を白黒させている。
そんな中、瞳だけはワクワクした表情でみんなを見つめていた。その様子を見ながら、友望は初めて瞳に会った時に彼女の目が好奇心に満ち溢れていたことを思い出した。
「え……。えと、あの……」
「……」
谷山と加奈が完全に固まってしまっていた。何とかしたいが何とも出来ないもどかしさを感じながら、友望はふと周りの空気がおかしくなっていることに気付いた。
何の音も聞こえなかった。いくら夜の山とはいえ、虫の声や風の音くらい聞こえてくるはずである。近くには自分達が使ってきた県道もあるのに、車の音が一切聞こえてこないのも違和感があった。
そんな中、自分の視線が勝手にトンネルの方へ向けられていくのに気付いた。見るつもりは無いのに自然とそちらを向いてしまう様な感覚だった。
必死に周りのみんなの様子を窺うと、谷山も加奈も同じ状況に陥っていることが分かった。言葉は何故か出て来なかったが、二人の表情から恐怖を覚えていることは簡単に把握出来た。瞳の様子も知りたかったが、彼女は一番トンネル側にいたので表情を見ることは出来なかった。
しばらくすると、トンネルの奥から何か得体の知れないものがゆっくりとこっちに向って来るのが瞬間的にイメージとして脳裏に浮かび上がって来た。決して目には見えないが、確実に来ているという感覚が全身を襲った。




