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オカルト研究会の有閑な日常  作者: 賀来文彰
旧胡麻富岳トンネルにて
32/73

「それでなんだけどね。谷山君、まだ石を持ってるでしょう?」

「……はい」

「上着の胸ポケットに入れてるけど、落としたらいけないからファスナーが付いてるポケットにしまってくれる?」

「え……」


 谷山は驚いた表情で瞳を見つめていたが、すぐに上着のポケットから何かを取り出すと、慌ててショルダーバッグの中にある小さなポケットに入れ、ファスナーを閉じた。

 その様子を友望達は呆気にとられた表情で見ていた。


「でね、せっかくだけどその石を返さないとダメなの。あなたは不満かも知れないけど、不用意にこんなことをしたせいで加奈ちゃんがひどい目に遭ったからね。だから、絶対に返さないといけない」


 その時の瞳の表情を友望は忘れることが出来なかった。さっきまで笑顔だったのにゆっくりと表情が無になっていき、彫刻の様に何の感情の動きも見ることが出来なかった。ただ、目だけが鋭さを増し、射貫く様な視線を谷山に向けている。

 瞳の横に座っているはずなのに、友望は自分自身も谷山と同じ様に刺す様な視線を受けている錯覚を覚えた。濃密な気配がねっとりと絡み付いて来る様で、どこか息苦しい。見れば加奈も似た様な感覚を覚えている様だった。元々小柄なその身体を更に縮める様にしてじっと下の方を見つめている。


「ここまで言われて、まだ迷信にしがみつくお馬鹿さんじゃないわよね?」

「……自分はどうしたら良いでしょうか」


 瞳の迫力に気圧されてか声が全然出ていなかったが、それでも谷山は瞳に聞いた。

 しばらく瞳は谷山を見ていたが、やがてにっこりと笑うと親し気に話し始めた。それはつい先程までの瞳だった。


「大丈夫。そんなに緊張しなくても。単に石を返しに行けばそれで良いのよ。あ、でも私達と一緒に行かないとダメだから」


 谷山は何かを言いかけたが、それを左手で抑えて瞳は話を続けた。


「何も信用していない訳じゃないの。でも、被害を受けた加奈ちゃんは絶対に連れて行かないとダメ。でないとまた傷付けちゃうよ。私と友望ちゃんはこうしてあなたと縁が出来ちゃったから、これも行かないとダメなのよねー。という訳なので、みんな今晩空いてるでしょう?今日中に済ませちゃおう」


 そう言って、瞳は軽く笑った。


 待ち合わせ場所は旧胡麻富岳トンネルから少し離れたところにあるファミレスだった。加奈が谷山と出くわしたファストフード店の隣に位置している。

 友望と加奈はそこでジュースを飲みながら谷山と瞳を待っていた。暮れなずむ空にカラスが横切る初夏の風景だった。


「あんな先輩、初めて見たよ」

「うん、怖かった」

「てか、瞳さんって霊感あるの?」

「知らないよ、そんなこと。あんなの初めてだったから……」


 二人ともまだ先程瞳が見せた表情から立ち直れていなかった。それ程までに衝撃的だった。


「石持って帰ってるとか、全部分かってたね」

「うん」

「ああ、だからあの時加奈っちにお酒飲ませたんだ」

「え?あれってそういうことだったの?」

「それしか考えらんないって」


 瞳のことを語る内に、恐怖が興奮へと変わっていく。少し気がまぎれた二人は、石の件の何が悪かったのか考え始め、あれやこれやと意見を交わしていった。

 しばらくすると谷山と瞳が連れ立って店内に入って来た。友望と加奈はそれぞれ席を詰め、余裕が出来たところに二人が座った。


「先ずはご飯食べよっか。あ、二人とも好きなの頼んでね」


 そう言いつつ瞳は早くもメニューを手に取って品定めをしていた。全員が料理を注文し、谷山がお手洗いに立ったタイミングで、加奈が瞳に質問した。


「先輩、石の件なんですけど、結局どういうことなんですか」

「ああ」


 瞳は軽く周りを見回してから、声を抑えて話し始めた。どうやらこれは瞳の癖なのだろうと思いつつ、友望も顔を寄せた。


「実は旧胡麻富岳トンネルってね、昔はデートスポットだったのよ」

「え、本当なんですか?」

「うん。本当なの」


 そんな話は初めてだった。加奈と友望は目を見合わせる。


「加奈ちゃんは見てないかもしれないけれど、あそこに一際大きな木があったでしょう?その木に合計三日間気になる人と一緒に通うと願いが叶うって話があって」

「なにそれ」

「でね、この話には続きがあってね、合計とはいえ三日間一緒にってのが難しかったら、その木の真下にある石を持って帰って、その石に十日間祈り続けると良いんだってさ。これだったら一人でも良いみたい」

「そんな話、全然知らなかったです」

「心霊スポットになる前のことだからね。仕方ないよ」

「え、じゃあ谷山はその話を知ってたから、石を持って帰ったんですか?」

「うん」

「うわー、あいつ見かけによらずメルヘンなんだ」

「ねー」

「うるせえよ」


 谷山が戻って来た。かなり気まずそうである。


「何ニヤニヤしてんだよ」

「いーえ、別にー」


 友望が囃し立てると、谷山はそっぽを向いた。

 程なくしてそれぞれの料理が運ばれて来た。食べ終えた後、会計は谷山が負担した。今回の出来事の張本人なので、彼なりの罪滅ぼしなのかもしれない。

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