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オカルト研究会の有閑な日常  作者: 賀来文彰
旧胡麻富岳トンネルにて
30/73

「着いたね」


 瞳が誰に言うともなく呟いた。

 そこは最寄駅から近い、五階建ての学生向けアパートの一つだった。一度ここに来たことのあるゼミ生がオートロック操作盤から部屋番号を打ち込み、加奈を呼び出す。


「いるかな」

「どうだろう……。結構長く鳴らしてるよね」

「そろそろ出ても良いんだけど」


 瞳達ゼミ生が思い思いのことを口にしている中、友望は少しだけ疎外感を覚えていた。待ち合わせの時に自己紹介は済ませたが、やはり一人だけ部外者の感が否めなかった。

 呼び出し音が九回目を過ぎた時、操作盤のスピーカーから「はい」というか細い声が聞こえた。


「加奈っち?友望だけど大丈夫?」


 友望はすぐに操作盤へ駆け寄ると、マイクの部分に話し掛けた。


「友ちゃん?」

「そう!瞳さん達も来てくれてるよ。ここ開けてくれない?」


 返事は無かったが、程なくしてオートロックの扉が開いた。友望達はすぐに駆け込むと加奈の部屋まで出向いた。

 三階にある加奈の部屋の前でインターフォンを鳴らすが、返事は無く瞳達は顔を見合わせた。


「加奈ちゃん?いるの?いるならここを開けてくれる?」


 瞳が呼び掛けたが相変わらず扉の向こうからは何の気配も感じられなかった。仕方ないのでダメ元でドアノブを回すと、扉が開いた。


「え、鍵閉めてないの?」


 ゼミ生の一人が怪訝な顔つきになる。友望は意を決して中に入った。


「加奈っち?入るよー!お邪魔するねー」


 玄関を潜り抜けると廊下があり、その突き当たりには扉がある。扉の一部はすりガラスになっているが、パッと見ただけでは誰かがいるかどうかは分からなかった。


「加奈ちゃーん?大丈夫?」


 瞳も声を掛けながら廊下を進む。突き当たりの扉を開けると、加奈が室内インターフォンのところでへたり込んでいた。


「ちょっと、大丈夫?」


 慌てて友望が駆け寄る。息苦しそうにしていたので額に手を当てると若干熱さを感じた。


「うわ、熱あんじゃん」

「そうなんだ。風邪ひいちゃったみたいで」


 加奈が力なく笑う。

 瞳はすぐにゼミ生に指示を出した。一人には財布を渡しながら近くのコンビニにスポーツドリンクと氷、そして、あれば体温計も買いに行く様に伝え、もう一人にはタオルと着替えを見つけてくるように伝えた。

 友望は加奈を支えながら、厳しい声で聞いた。


「なんで、連絡しなかったの?」

「充電切れちゃって……」

「充電器があるでしょうが」

「無くしたみたいなんだ……」


 瞳が加奈の背中をさすり始めた。そしてそのまま優しい声で尋ねた。


「加奈ちゃん、旧胡麻富岳トンネルに行った?」

「はい……」

「そっかあ、大変だったね」


 瞳は相槌を打つと軽く背中を叩き、看病を友望に引き継ぐと台所の方へ出向いた。ゼミ生の一人がタオルを見つけてきたので、それで額の汗などを拭いていると瞳が戻って来た。手元には水が入ったコップがある。


「加奈ちゃん、ちょっとこれ飲んで。ほら」


 コップを差し出して一口飲ませる。途端に加奈が中身を吐き出した。


「うえっ、何ですか、これ」

「お酒」

「え!」

「大丈夫、料理酒だから」


 しばらくの間加奈はむせていたが、少しすると落ち着いた様だった。


「ちょっと気が楽になったでしょう?」

「……ええ、何とか」

「もうそろそろ美紗が帰って来るから、しっかりとスポーツドリンク飲んで横になってなさい。多分、明日の朝には楽になってるだろうから」

「はい。有難うございます」


 心なしか加奈の表情に生気が戻っていた。まだ熱っぽいがさっきよりはマシに見える。


「楽になったら一回、ゆっくりと話しましょうね」


 瞳が加奈に優しく語り掛けるのを見ながら、友望はこの先輩が何者なのか気になり始めていた。


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