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オカルト研究会の有閑な日常  作者: 賀来文彰
旧胡麻富岳トンネルにて
29/73

二話連続投稿です。

 留学生会館の一階にあるカフェスペースはその日も学生でにぎわっていた。

 カウンター席全てにノートパソコンが備え付けられていることも人気の一つだが、ちょうど大学の中心に位置していることから空きコマを持て余す学生にとって格好の暇つぶしになる。

 多くの人でごった返す空間を、友望はゼミの先輩から事前に伝えられていた目印を探しながら、さまよい歩いていた。

 友望が気付く前に「おーい、こっち」と伊達眼鏡をかけた女子大生が奥のテーブル席から声をかけた。


「お待たせしました」

「いいよ、いいよ。私も今来たところだから。あ、これアイスティーね」


 アイスティーが置かれている席に着くと、友望は改めて相手の表情を覗き見た。眼鏡越しに見える目は好奇心に満ち溢れていた。


「わざわざ呼び立ててごめんね。文学部英語学科の谷原瞳です。よろしくね」

「文学部哲学科の篠宮友望です。こちらこそよろしくお願いします」


互いに軽く会釈すると、友望はずっと気になっていたことを口にした。


「それで私にどういうご用件でしょうか」

「そんなに構えなくて大丈夫。あなたと同じテニサーの加奈ちゃんのことで相談したいことがあるのよ」

「え?加奈ですか」


 波多野加奈は友望が兼部しているテニスサークルの仲間である。学科も違うし、友望の兼部の関係で活動日が合わないことも多く、いわゆる「ズッ友」という仲ではなかったが、たまに連絡を取り合い、友達と連れ立ってスイーツを食べに行くことはあった。だが、ここ数日は体調不良で顔を見せていなかったところである。友望は心配になった。


「そう。あの子なんだけど最近様子がおかしくてね。私と同じゼミなんだけど、昨日の講義を急に飛んじゃったのよ」


 思わぬ話に友望は言葉を飲んだ。

 友望の元に体調不良の連絡が来たのが一週間前で、そこからはサークルに来ていなかった。しかし、瞳の話を聞くと昨日は大学に来ていたらしい。顔色こそすぐれなかったものの、瞳を初めゼミメンバーでご飯を食べていたそうだ。そして連れ立ってゼミ室に行く時に、お手洗いに寄るから先に行っててと言って別れたまま、顔を出さなかったそうである。


「それから連絡したんだけど、未だに既読が付かなくてね。私以外のゼミ生もみんな同じ感じなのよ。今日も大学に来てないみたいだし。だから同じサークルのあなたなら何か知ってるかなって思って」

「いえ、すみません。そんなことになってたなんて自分も初耳でした」


 友望は一抹の不安を抱いていた。瞳も同じく不安げである。

 カフェスペースの前の廊下を、男女のグループが笑い合いながら歩いて行く。その楽し気な声がやけに耳に残った。

 瞳は軽く辺りを見回すと、少し声を抑え気味にして友望に話し始めた。


「実は、こんな噂を聞いたんだけどね。どうも旧胡麻富岳トンネルに行ったっぽいんだ」

「え!あそこは洒落になんないですよ」


 旧胡麻富岳トンネルは全国的な知名度こそないものの、呻き声が聞こえたり人魂が見えたりするという話をよく聞く、近隣地域では有名な心霊スポットだった。

 ただ、そこに行った者は何かしら体調を崩したり怪我を負ったりすることが多いらしく、また行方不明者がよくそこで見つかることから、肝試しにも選ばれないいわくつきの場所の一つとなっていた。


「そもそも加奈はそんなところに行くタイプに見えないんですが」

「私もそう思う。加奈ちゃんって内向的な性格だし、オカ研でも無いのに進んでそういうとこに行くとは思えないんだよね」

「え?じゃあ、行ったっぽいって?」

「うん。どうも誰かに連れていかれたんじゃないかなって話なのよ」

「そんなことする奴がいるんですか?」

「いるかどうかは分かんないけど、ほら、周りにもそういうところに行ってみたいって子っているじゃん?そういう子がグループ率いた時ってだいたいそうなるから」


 にわかには信じがたい話だが、加奈は少し大人しい性格なので周りの空気に流されやすいところがある。たまたまその時のグループが肝試しに行くとなったら断り切れないだろう。


「ただ、肝試しするにしても普通はあそこに行こうと思わないはずなんですけど」

「まあ、いつだってバカはいるもんだから」

「まあ……」


 友望は相槌を打った。もし旧胡麻富岳トンネルに行ったとすれば、加奈は巻き込まれてしまったのだろう。


「それでなんだけど、今日、四限目の時間に加奈ちゃんの家に直接行こうって思ってるのね。良かったらあなたも一緒に来ない?」

「私は大丈夫なんですが、先輩以外には誰が来るんですか?」

「同じゼミの子が二人。多分知らないと思うから、後で紹介するね」


 瞳と待ち合わせ場所を決め、そのまま別れる。三限目の講義の部屋に向かいながら、友望は言いようのない不安に襲われていた。


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