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今回から新章です。

 お前も引っ掛けられたことに気付いたんだな。まあ気にすんな、誰もが経験することなんだからよ。で、仕返ししてやろうかって思ってんだろ、あの会長に。まあまあ落ち着けって。そんなの気付いたやつは誰だって考えることだから簡単に想像がつく。でもやるなら、せいぜい思いっきり振りまくったコーラを差し出すくらいにしておきなよ。間違ってもテレビのどっきりよろしく手の込んだことを考えんじゃねえぞ。言っとくけどフリじゃねえからな。一回試したことのあるやつがこう言うんだから絶対にやめとけよ。経験者は語るってやつだ。

 してやったりだと思ってたんだよ。あの会長の鼻を明かすことが出来るんだからさ。俺たち――あ、つまり井上とか中森とかのことね――はオカルト研究会って名前を付けておきながら実際は飲みサーなこのサークルが大好きなんだけど、幽霊はいるとかいないとか、あの怪談は本当なのかどうかなんて話ばかりじゃつまらなくてさ。どうせならここの七不思議とかフライングヒューマノイドとかも調べてみたいじゃんか。そのくせ、心霊スポットに突撃するのは禁止なんて変な決まりがあってさ。それだったらゲーム好きと酒好きの集まりで良いじゃん。全く何のためのオカルト研究会なのか分かったもんじゃない。で、この会長ってのが中々の食わせ者で、新入生や興味を持ってやってきた学生の悩みやら私生活やらを言い当てては驚かせてたのさ。自分には力があるからみたいなことは全然言わないもんだから、本当に霊感があるんじゃないかってことでそこらじゅうその話で持ちきり。俺も最初はそう思ってたんだけど、あれって占い師とかが使うテクニックなのな。こっちに喋らせるだけ喋らせておいてそこから別の事実を導き出すってやつさ。それを知った時は腹が立ったね。で、それを問いただしたら「そもそも霊感があるなんてこっちから言ったこと無いし、そのテクニックとやらを使ったことも無いわ。見たら誰でも分かることを言っただけじゃないの。それなのに勝手にそっちが霊感少女だなんだって勘違いしているだけでしょう?」と返してきやがった。

 まあ、実際のところ会長の言う通りで、そんなテクニックを使ってるわけじゃなかった。あの人は抜群に記憶力が良いだけなんだよ。本人が言ってたことだけどさ、何気なく見たり聞いたりしたことが何故か頭に残るんだと。

 実際、別に誰かを騙している訳じゃなかったし、そもそも毎回会費を集めて何かをする様な集まりでも無かったから確かに問題はないよな。でも何となく俺たちを手玉に取って遊んでいる感じがその時はしてたんだよ。それが何か悔しかったのさ。

 てことで、会長に一杯食わされたと思ってた俺たちは、怪談をでっちあげて会長をびっくりさせてやろうと思ったわけよ。普通、研究会とかサークルとかには部室が無いもんだけど、文科系の部室が集まっている建物ってのが結構古臭くてさ、やたらめったら部屋があるもんだから自治会に申請さえすれば空室を部室として使うことが出来た訳よ。だから色んなやつらが集まって来てちょっとしたパーティー状態だったのさ。文化会館なんて立派な名前がついてるけど、テニサーの連中もいたし数学同好会なんてのもあった。で、このオカルト研究会の部室ってのがまた不気味だろ。建物の四階なのはちょっと面倒だけど階段のすぐ隣ってのが良いじゃん。でも、その階段が上に行くにつれて段々と古ぼけてやんの。今度しっかり見てみな。結構ぼろいから。そのくせ廊下の電球がところどころ切れているから薄暗くて、たまったもんじゃねえの。これなら雰囲気はあるんだけどその階にある他の部室が突き当たりのひよこ研究会ってとこだけで何だか拍子抜けしてさ。他の階にも空室があるのに会長は何だってこんなところにわざわざ部室を構えたのか未だに分からずじまいさ。

 まあまあ、待ちなって。今から詳しく話してやるから。要は雰囲気充分なこのひよこ研究会とやらに纏わる怪談をでっちあげてやろうと思ったわけでさ。元々そこは人の出入りを見かけないところなのに不自然なくらい明かりが輝いていることが多くて、古ぼけた木のドアにはめ込まれたすりガラスからこぼれ出る程だったのよ。そんな訳だから不気味だと思っている連中は多くて、話のネタとしてはもってこいだったのさ。だから次の集まりの時にそれっぽい怪談を一席ぶって、そのままみんなで突撃してやろうと考えたわけよ。突撃つっても実際に人がいたら親睦を深めたいとか掛け持ちは出来るのかとか何とか言って適当に話をごまかすだけ。でもそのことを知らない他の連中には突撃の結果をさも恐ろしいことがあったみたいに報告しておきゃいくらでも盛り上がる。そうやっておいて霊感があるってなってる会長に何とかしてくれって頼みこもうって。こいつは中々の名案だと思ったね。これなら心霊スポットへの突撃禁止なんて決まりも通用しないし、上手くいけば会長のあのすまし顔を引きはがすことも出来るってさ。

 そんなわけで俺たちは先ず怪談をでっちあげるところから始めた。と言っても、うめき声が聞こえるとか女が立ってたとかじゃ嘘だってばれちまう。同じ階にいるのに誰もそんなの見たり聞いたりしていないからな。それに、ありきたりな話過ぎても面白みに欠ける。

「あの明かりだけど」井上が言った。「時々赤くなっていることがあるなんてどうかな?」

「まあまあだよな」

 中森がコーラを飲みながら言った。

「でも雰囲気があるとは思うけどな」と俺は返した。正直、中々良いところを突いていると思ったからさ。

「異常なくらい明かりが漏れ出てることはみんな知ってるんだから、それを利用するのは良いんじゃねえの」

「にしても赤は露骨過ぎるだろう。もうちょっと別の色にしないか?」

「じゃあ、青っぽいってのは?話する時に結構ウケが良さそうだし」

「まあ、未来の学者様がそう言うのなら俺は別に良いけどよ」

「何か、その言い方ムカつくんだけど」

 井上ってのは心理学科なんだけど小さい頃に幽霊を見たとかでオカルトに興味を持つようになったって変わり者だ。コールドリーディングとかいうテクニックを会長が使ってるんじゃないかって言い出したのも井上だった。

「まあまあ。で、明かりはそれで良いとして。もう少し何かあっても良いんじゃねえの?」

「髪が長くて白い服の女が立ってたとか?」

「いいや、それは無し。でもそんな感じのは欲しいけどな」

「んじゃ、夜にひよこが鳴くってのはどうだ?考えてみると結構不気味だろ?」

「うわー、何それ。想像したら鳥肌が立っちゃった」

「俺も。気味悪ぃーじゃねえか」

「よし、決まりだな。ひよこの鳴き声も話に入れよう。んじゃ話を作ったら二人に送るから確認よろー」

 中森は悪ぶってるところがあるんだけど、根が真面目だから頼んでもないのに色々と進んで取り組むんだな。また文才があるから、こいつが作った怪談は大抵の奴が実話だと信じることが多かった。集まりで初めてこいつの話を聞いた時、マジでちびるかと思ったぜ……いや、関係無かったな。わりぃ、話戻すわ。

 中森に怪談を作ってもらっている間、俺と井上は自分の周りの奴に噂話を広めることにした。ある程度噂が広まれば何も知らないオカルト研究会の他のメンバーも興味を覚えやすくなるって算段だった。そうしておけば自分達が話す時も自然と内容が入ってくるし、感情移入もしやすくなるからって井上が言ったんだよ。つくづく心理学やってるやつが怖くなったね。まあ自分も心理学科なんだけど。でも、まあ噂ってのは怖いもんだ。広まるまでそんなに時間はかからなかった。俺なんてまだ話したことの無かった同じゼミの同級生からこの話を聞かされたんだぜ。余りにも広がるのが早いもんだから気味が悪かったのなんのって。まあ、今にして思えばひよこ研究会ってのが物珍しくて広まったんじゃないかね。あんまり聞くこと無いもんな、ひよこ研究会って。

 噂が広まってしばらくしてから中森から例の怪談が送られてきたんだけど、これがまあ怖いんだわ。自分達で作ったとは思えない出来映えなんだよな。それで良いって返事を送ってから、こまごまとした打ち合わせを済ませて後は次の活動日を待つだけだった。


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