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 普段のオカルト研究会は、だらけた雰囲気の空間になることが多い。会長がオカルト関連の話題を嫌がるせいで主だった活動が出来ないのである。それ故、メンバーは思い思いのお菓子とジュースを持ち寄って、トランプや雑談に時間を費やしている。まるで放課後の教室の様なぬるま湯の状態に対して、誰も文句を言わないのがこのオカルト研究会の良いところでもあり悪いところでもあった。

 しかし、会長がいない時や今回の様にゴーサインが出た時などは、それまでのだらけた様子が嘘だったかの様に活気を取り戻す。こういった時には普段幽霊部員になっているガチ勢も戻ってくるし、メンバーではないが色々なネタを持っている人もメンバーに誘われてやって来るので、その熱気は更に増していく。


「さすがオカルト研究会。これだけ人が集まれば何とでもなりますね」


 涼音が明るい表情でガッツポーズをしている。彼女はガチ勢の一人だが、他のサークルとの兼ね合いもあって普段は顔を出す機会が少ない。だからこそ、久々に来た部室の賑わいに喜びを隠せないでいた。


「普段からこの調子でいけば、もっと楽しくなりますよ」


 涼音が彩夏にすり寄るが、簡単に身をかわすとメンバーを仕切っている理香子に声を掛けた。


「で、何であんたが仕切ってんの」

「そりゃあ、こういうのは嫌いだって言って誰かさんが人任せにしてるからに決まってんじゃないの」

「いや、別に頼んでないし。そもそも、副会長さんはオカルトそのものに否定的なんじゃなかったっけ?」

「オカルト研究会が同好会になるかもしれない時に、そんなこと言ってられないからね」


 ニヤリと笑うと、その学生は机の方に向き直った。

 彩夏もつられて笑うと、メンバーや臨時の参加者同士が仕入れてきた情報という名のネタや怖い話を互いに共有している様子を温かい目で見守り始めた。

 その様子を見ながら、涼音は和葉に声を掛けた。


「会長、とても楽しそうじゃない?」

「うん。本当に楽しそう」

「何だかんだ言ったって、オカルト研究会が好きなんだろうね」

「うん」

「和葉も変わったねえ」

「え?」

「最初の頃なんて、いきなりケンカ売り始めたからびっくりしたけど、それが今ではがっつりオカルト研究会の活動に打ち込んでるもんね」


 入会当初の和葉にとって、彩夏はどちらかと言えば取っつきにくい存在だった。初対面でいきなり自分の好きな学食を当ててきたかと思えば、オカルト研究会の会長の癖に心霊関係は嫌がるところに戸惑いを隠せなかった。まだ、不思議ちゃんやかまってちゃんといったキャラ付けの一つなら何とか理解出来たものの、そんなものは一切ない大真面目なものであったから、どうしたものかと大いに気をもんだものである。

 ただ、彩夏自身との取り組みや、オカルト研究会に関わった人達から色々な話を聞いていく中で、一条彩夏という人物が秘めている心霊関係に対する思い、そしてオカルト研究会に対する想いが段々と分かるようになっている。それがあるからこそ、彩夏を初め多くのオカルト研究会のメンバーが受け継いできたこの場を、そして想いを、自分も大切にしていきたいと思っていた。


「ああ、全然ネタになる話が無いなあ。もっとこう怖い話は無いの?」


 副会長の理香子が早くも退屈そうにしている。その後ろで彩夏が苦笑しながら、メンバーではない人達の紙コップにペットボトルの紅茶を注いでいた。



「え?何その話、面白そうじゃん!」


 理香子がいきなり声を上げたので、和葉と涼音はそちらを見やった。理香子がメンバーの一人から話を聞いている。

 和葉達が部室に来てもう一時間は過ぎていた。その時よりは人も少なくなっていたが、それでも普段の部室には無い熱気がまだまだ残っている。


「お?ここに来て有力な話?」


 涼音が興味津々といった様子で理香子達の方へ向かおうとしたが、その時にひよこの鳴き声が辺りにこだました。


「あれ、マナーにしてたのに」

「それ、着信音だったんだ」


 周りに謝りながら涼音がハンドバッグからスマホを取り出す。どうやらすぐに出ないといけない相手だったらしく、入口の扉を締め切る前に「もしもし」という応答が始まっていた。

 変わった着信音もあるものだと思いつつ、もしかするとこれもひよこ研究会が一枚噛んでいるのではと勘ぐっていると、彩夏が慌てた様子で何かを探していたのが目に入ったので、和葉は彼女に声を掛けた。


「会長、何か探しものですか?」

「え?ああ、ペットボトルの蓋が無くなってるのよ。最後に触った時には蓋をしたつもりだったんだけど……」


 彩夏の傍に置かれたペットボトルを見ると確かに蓋が無い。残っている量もそれなりだったので、今ここで飲み切るのは余程喉が渇いていないと難しいだろう。和葉は彩夏を手伝うことにした。

 ふと、ペットボトルの隣に置かれたポーチを見ると、そこに白いものがあるのが見えた。よく見ると、ペットボトルの蓋だったので彩夏に声を掛ける。


「きっと、何かの拍子に落ちたんだと思いますよ」

「それにしてもポーチにって……。中身は大丈夫かしら」


 彩夏は心配そうにポーチの中身を覗いている。その向こうでは、オカルトの為に集まったはずのメンバーがいつの間にかトランプをしていたり、何処から引っ張り出してきたのか人生ゲームを始めていたりしていた。

 いつもと変わらない日常。少し脱力した和葉は、理香子が興味を抱いていた話のことを思い出してそちらに目を向けたが、既に理香子はいなくなっていた。

 どんな話だったのだろうか。そんなことを考えながら和葉はトランプの輪の中に入っていった。


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