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 文学部棟と法学部棟の間にあるカフェは、落ち着いた照明と広々とした空間設計と相まって全体的にシックな装いで統一されている。

 そんな雰囲気も手伝い、座席の大半は物静かな学生で埋まっている。文庫本を片手にアイスティーと洒落込む猛者もいる中で、その一角だけは熱気に満ちていた。


「だから、これは立派な活動テーマですって」

「いや、そんなの私は認めない」

「何でですか。お化けも出て来ないんだから別に良いじゃないですか」

「そういう問題じゃ無い。何でもかんでもオカルトに繋げたら何とかなるという風潮が宜しくないの」

「いや、これはれっきとしたオカルトです!」


 カウンター席に座る学生が冷ややかな目でその一角を見つめる。無言の指摘に気圧された二人の学生は一瞬口を噤むと、先程より声のトーンをいくらか落として話を続けた。


「会長も分かってますよね?研究会としてしっかりと活動していないと自治会に目を付けられるって」


 教員が顧問として監督する部活動を除いて、中央自治会は全てのサークル・研究会を束ねる学生自治の最高機関である。ここに活動を認められなくなると、部活動などの名を借りた私的行為として部室の変更や退去、学園祭への出店禁止などの措置を取られることがあるので、どのサークル・研究会もしっかりと自分達が掲げたテーマに邁進していた。

ちなみに中央自治会は、同好会を学生の公的な集いとして認めていない。なので、掲げるものの性質上、会として活動したくても活動そのものが難しいオカルト研究会は何度も同好会になることを検討してきたが、中央自治会に対する意地もあって研究会として残り続けている。

 そんな意地をくだらないものと考えている和葉は最初こそ同好会派だったが、上層部、とりわけ会長である彩夏が研究会としての立ち位置にこだわっていることを実感してからは、研究会として存続させる為に様々なネタを仕入れ、選別し、提案するようになっていた。


「あなたの言うことはもっともだけどね、テーマが強引過ぎるのよ」


 彩夏が嘆息する。


「大体、名前や性別を選ばない愛称は何かなんてくだらない話、どこの誰に需要があるのよ」

「そんなのは別にどうだって良いんですよ。大切なのはオカルト研究会がれっきとした研究会であることを中央自治会に認めてもらうことです。それにオカルト的視点は後から勝手に付いてきますよ」

「だから、そんな軽いノリの延長線みたいなものじゃ認めてもらえないって言ってるでしょ」


 また、段々とヒートアップしていく二人を周りは苦笑しながら見つめている。

 抜ける様に空が青い、明るい午後のひとときである。



「ということで、どんな人でも可愛くなる魔法の愛称は「っち」です」


 厳かな表情で和葉が周りに告げた。

 部室にいるメンバー達の間に張り詰めた空気が満ちている。


「そんな訳ないでしょう」


 彩夏は我関せずと言った表情で窓の外に視線を向けている。その様子に呑まれた後輩達が居心地を悪そうにしているのが和葉にも伝わってきたが、オカルト研究会を選んでくれた彼らの為にもここは引くわけにはいかなかった。


「実際にここにいるメンバーで試してみましょう。先ず奏恵」


 和葉は自分の左前に座る同級生を指差した。


「かなえっち」

「ちょっと語呂が悪い気がする」

「続いて田崎」


 奏恵のささやかな抗議を無視し、和葉は彼女の隣にいる男子学生に目を向けた。


「……田崎の下の名前って何だっけ?」

「覚えとけよ!博史だよ!」

「じゃあ、ひろふみっち……だと語呂が悪すぎるから、田崎っちで」

「何だそれ!」


 博史の正論も意に介さず、和葉は自分の右斜め後ろに座っている後輩達に顔を向けた。

「みかっち、あいりっち、けんとっち、すみれっち」

「自然なのは実加くらいじゃないの」


 見かねた彩夏がたまらずツッコむと、


「私は好きです……。すみれっち……」


と、菫が恥ずかし気に手を上げて答えた。

 その可愛らしい様子に、彩夏を含めた全員が少しの間身悶えしたが、これ幸いとばかりに和葉がすぐ攻勢に打って出た。


「ほら、可愛いですよね?ちなみに会長もあやかっちと呼ぶことで非常に可愛くなります」

「そんなことは断じて無いわ」


 彩夏が食い気味に反論した。


「そもそも、ここにいるメンバーですら語呂が悪いのに、どんな人でも可愛くなるなんて言えないじゃないの」

「まあ、そうなんですけど」


 和葉は苦笑した。自身でも無理矢理であることは分かっているのだ。


「でも、少しくらい強引でもネタをひねり出さないといけないですし……」


 菫がか細い声で言った。

 和葉は心の中で「よくやった!」と喝采を上げた。そんなことはおくびにも出さず、彩夏を上目遣いで見やる。


「なので、これをベースにしてオカルトチックな事柄に結び付けていきましょうよ」


 和葉の意見に彩夏は嫌そうな顔をした。結局はここに持っていきたかった和葉の思惑を今更ながらに察知し、じっと彼女を見やる。だが、これもオカルト研究会存続の為に仕方ないことだと、和葉の顔には書いてあった。

 彩夏は溜息をつくと、了承の印に軽く手を振った。


「会長からゴーサインが出たぞ!皆で名前に纏わるオカルト……いや、この際オカルト研究会っぽい話なら何でも良いから集めてきましょう!」


 おおーっ!と活気に満ちた声が部室に響いた。


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