10万年後は通訳が必要 2
嬉しいことがあったのでブーストされました。本日2回目の投稿です。
「あの、鯨ってそんなに危ないんですか……?」
「知らねえのか?まあヒレなしだから仕方ねえ」
災害とまで言われる鯨っていったい……そんなに大きくて凶暴なんだろうか……でも鯨の歯ってそんな危なくないし頭も良いはずだけど……。
『お前……もしかして鯨を知らねえのか……じゃあ教えてやるよ……あの災害のことをな』
蟹の人が何か図面のようなものを取り出して広げた、そこには絵が書いてあるけれどこれが鯨なのだろうか。見た目は完全に首長竜とかの水棲恐竜みたいなんだけど。あ、でも胴体のほうは鯨っぽいぞ。
『これが鯨だ。胴体の所にでかい口があるのが分かるか?これが第一の口だ、捕食専門の口でかみ砕かれた獲物を吸い込んでいく』
確かによく見たら胴体のところにブラシ状の歯が出ている、この位置だと胃袋に直送する感じなのだろう。最短距離だから効率が良いってことなのかな?
『こっちの長い首があるのが第二の口。こっちは殺し専門だ。これでかみ砕いた獲物を胴体のほうで飲み込むってわけだ』
殺し専門の口がついているってどれだけ戦闘的な生き物なんだろう、この10万年で鯨にいったい何がおこってしまったのか。いや、お魚が二足歩行するくらいの変化があったんだ鯨だってどう猛なモンスターになったっておかしくない……のかなあ?
『この2つだけなら別に問題はない、十分に距離をとって刻めばいい。だが問題はその大きさだ』
そんなに大きいのか……もしかしてシロナガスクジラくらいあったりするんだろうか。地上ではとてもとても許されない巨体で凶暴化したのだとしたらそれはとても恐ろしい脅威になるだろうことは想像に難くない。
『鯨はこの集落よりでかい』
『ええええええええええええええええええええええええええええええ!?』
「うるせえな!!おおかた鯨の大きさに驚いているんだろうけどよ!!」
思わず大声を出してしまった、だってこの村よりも大きいなんてそんなの軍艦とかタンカーよりもずっと大きいってことでそんなものがいるってことで……10万年ってすごい……。
『だから鯨は別名でこうも呼ばれる。生きた災害、海に下りた受難ってな』
り、リヴァイアサン……海の怪物……とても人が太刀打ちできるような存在じゃないんだ。ん?人じゃ太刀打ちできない?なら神なら?
『あの、海神さまなら鯨ををなんとかできるんじゃないですか?』
『……無理だ、あのお方は罪もない海の生き物に手をくださない。鯨は災害だがあれはあれで生きているだけだ。これはただの生命の摂理の中のできごとにすぎない。神の手を借りることはできない』
そうなんだ……バランスをとっているってそういうことなんだ。乱すものには容赦ないけど乱さないものに手出しをすることもない。そういう存在なんだ。だから僕を傷つけたときにあんなに辛そうな顔をしていたんだ。
「先に行って置くが海神様には頼れねえぞ。あの方は自然の流れを乱すもの、悪にだけその手を下すんだ。鯨は迷惑きわまりない災害だが悪じゃない。生きるだけで俺たちに被害を出すだけなんだ」
生きることが罪にはならない。たしかにその通りだ、じゃあどうするんだろう。そんな怪物にいったいどうしようって言うんだろうか。過ぎ去るの待つだけじゃないのか……?
「だから」『だから』
『俺たちの手で奴を仕留めないといけねえ」
戦う……?自分で災害と呼ぶ相手と?ありえない……地震に立ち向かう人がいるだろうか、台風に突撃する人がいるだろうか、雷に日照りに豪雨に打ち勝とうとする人がいるだろうか。いや無理だ、ただ過ぎ去るのを待つしかない。分からない、逃げたらいいのに。
「そのための情報を持ってきたんだろう、早く聞け」
「あ、はい」
どうして立ち向かうことが前提なのだろうか、避難すればすむ話ではないのか。
『情報を受け入れます』
『そうか、では対価を要求するぞ。対価はおまえらの集落の参戦だ』
……一緒に戦おうってことなのか。
「対価は集落の参戦だそうです」
「まあそうだろうな、飲もう。これは俺たちだけの問題でもない」
村長に聞かなくてもいいのかな……それとも全権を委任されているのかな。だからって集落の参戦なんて重大なこと勝手に……。
「なんだその顔……ああ、気にするな。村長からは俺の判断で裏切り以外はしていいと許可されてる。それに鯨狩りは一定周期で行っていることだからな」
定期的に来るのか……まさに自然災害って感じなんだ。
『その対価を飲みます』
『良し……では契約だ』
蟹の人が手を出した、ペスカさんがそれを握る。すると部屋中に光が満ちた。
「うわっ!?」
「いちいち驚くな、ただの契約だろうが」
契約すると光るんだ……10万年後ってなんだかよく分からなくなってきたな……光るってなに……蛍なの……?
『これが情報だ、今のところ分かっていることは全てそこに書いてある』
巻物……というか巻いた海藻のようにしか見えない。これに何が書いてあるんだろう。
「これに書いてあるそうです」
「そうか、今回はこれで終わりか?」
「聞いてみます」
災害の情報以外にもなにか持ってくるような重大なものがあるんだろうか、今回はこれで終わりだと思うけれど。
『用件は他にはありませんか?』
『今回もうないな、交易品はいつも通りだと伝えてくれ』
良かった、これで終わりみたいだ。
『あ、それとな。お前うちに来ないか?完璧な通訳ができる奴なんか初めて見た、今日だって本当ならこの交渉に1日かけるつもりで来たが日が傾く前に終わっちまった。お前の能力は誇っていい。ただでさえ意思疎通が難しい奴だらけなんだ。待遇はここよりも良いものを約束するからよ、気が向いたなら殻付きの集落に来な。全力でもてなしてやるからよ』
去り際になんかめちゃくちゃ褒められた!!しかもヘッドハンティングとセットで!!
「なんだ嬉しそうな顔しやがって……さては引き抜きだな?」
何で分かるんだろう、そんなに僕の顔は分かりやすいんだろうか。
「この際だから俺も言っておくが……お前は貴重だ……ここまでの能力とは俺も思っていなかった……だから殻付きのところで腐るのは見たくねえ。鯨の件が終わったら俺から村長にかけあってお前に旅人の身分をやる。そうすれば好きなところへ行けるようになる、こんな田舎じゃなくてもっと上にいける。どこまで行けるかは分からないがもしかしたら国をつくる事もできるかもしれない。だから待て、少なくとも鯨の件が終わるまでは……分かったな?」
「は、はい」
圧がすごい……それと言われたことが壮大すぎてよく分からなかった。あれ?もしかして僕ってすごいのではないだろうか?
「だからと言って調子に乗るなよ……戦う能力が皆無だってことも忘れるな……」
釘を刺されてしまった……それにしても10万年後にも通訳って必要なんだなあ。