2-9 もういっかい
「うわーひでえや」
水柱はきれいサッパリ消失したが、二人ともびしょ濡れの濡れネズミだ。
ラフな格好なオレはともかく、豪華で高価そうなドレスが泥まみれなサタン子ちゃんは惨憺たる有り様だ。
現実の世界は十二月だが、この世界は初夏なみの気温。濡れても寒くないのがせめてもの救いか。
それにしても、やっぱりこの子は魔王なんだな。
こうやってその異常な能力を見せつけられちゃうと、認めざるをえない。
当の本人はオレの隣に座ったまま、全身から水を滴らせながらポカンとしているけど。
「あーあ、サタン子ちゃんもびしょびしょだ」
「びしょびしょ?」
「ああ、頭から水かぶってびしょびしょだ。まあ、オレも他人のこと言えたナリじゃないけど」
「びしょびしょ」
無機質にコクコクとうなずくサタン子ちゃんを見ていると、自然と笑みがこぼれた。
オレは滴る水と肌に貼りつく服が不快だが、サタン子ちゃんはそんな思いちっとも感じていない。さっきとまったく変わっていない様子だ。
そういえば、公園で見かけたガキンチョどもも水に濡れようが、泥だらけになろうが、そんなのお構いなしで楽しんでたな。
いつからだろう? 濡れたり汚れたりするのが不快になったのは――。
どーせここは現実じゃないんだ。
元の世界に戻れば、服も乾いてるだろうし、そもそも、あっちのオレは入浴中だ。
知ったことか。ぐちゃぐちゃのどろどろになって遊んでやる。
「よーし、とりゃあ~~」
オレは立ち上がり、そのまま泥沼プールめがけて全力でダイブ!!!
泥混じりの水たまりの中、仰向けで手足をバシャバシャ。
激しく飛び散る泥水。それがサタン子ちゃんをまだらに染めた。
「へーい、かもん!」
上体を起こし、サタン子ちゃんに向かって手招き。
「へーい? かもん?」
「いいから、まねしてごらん。楽しいぞ~」
「さたんこまねする」
オレの言葉にうなずく。
すっと立ち上がる。
「よーし、とりゃあ~~」
手足を大きく広げて勢いよくダイブ――。
立ち上がったオレは、飛び込んできたサタン子ちゃんの小柄な身体を両腕で受け止めた。
が、ぬかるんだ足元のせいでバランスを崩し、二人とも頭から泥水に突っ込んだ。
端から見てるとオレがドジっ子ちゃんなだけに思えるかもしれないが、これはちゃんと作戦通りだ。
サタン子ちゃんにはおもいっきりダイブして欲しいし、泥まみれを楽しんで欲しい。
だけど、怪我させるわけにはいかなから、いったんオレがクッション役を務めたわけだ。
どうよ、この気遣い。
別に幼女と密着したいとか、そんな下心じゃないからな。
それは単なる副産物で、結果論としての役得があるだけだ。エッヘン。
ちっちゃくって。やわらかくって。あたたかかった……。
オレとしては文句なしにサイコーの体験だったけど、サタン子ちゃんの方はどうだろう、そう思って伺ってみると
「もういっかい」
お気に召したようでなによりだ――。




