2-8 あそぶってなに?
「じゃあ、オレと遊ぼうぜ」
妄想の中でみさとに言ったセリフをオレはサタン子ちゃんに向けて繰り返した。十数年越しの妄想の実現だ。
ちょっと照れくさかったけど、できるだけそれを隠すようにした。
「あそぶ?」
「ああ、一緒に遊ぼうぜ」
「……」
「せっかく、砂場があるんだしさ」
「すなば?」
「お、そこからか? そっからはじめるんか?」
無表情だけど、キョトンとしている様子がサタン子ちゃんから伝わってくる。
「ほら、ここに砂がいっぱいあるだろ? それはわかるよな?」
「うん」
良かった。「すな?」って返されたら、さすがに困る。
ほら、この小さい粒々が砂だよ、くらいしか説明できん。
砂と土と石の違いも感覚ではわかるけど、説明する自信がない。
「この砂でいろいろ遊ぶんだよ。そのための場所がこの砂場だよ」
「うん。すなば」
理解できたようで、サタン子ちゃんはコクコクとうなずいた。
「でも、あそぶってなに?」
「あー、それは……」
……難しいぞ、『遊ぶ』。
「好きに色々やって、楽しくするんだよ」
「すき? いろいろ? たのしい?」
「あー、口で言ってても埒あかないな。とにかく、遊ぶぞ。やってりゃわかるから」
「……」
「まあ、いいからいいから。オレがやるの見てて、真似すればいいから」
「まね?」
「オレと同じようにすればいいんだよ」
「さたんこまねする」
「よっしゃ、はじめるぞ。一緒に遊ぶぞ」
「さたんこいっしょにあそぶ」
だいぶ反応がうすいけど、やりとりはふつーの子どもだ。
とても世界に災いをもたらす魔王だとは思えない。
「とは言ったものの、見事に砂場しかないなあ」
あらためて周囲を見渡してみるが、やっぱりベンチに座ってこっちを見てる比呂子さん以外にはなにも存在しない。
シャベルとかバケツとかあると砂場遊びのはばも広がるんだけど……。
「せめて水道があればなあ……」
「すいどう?」
「うん。こうやって捻ると水が出てくるやつ」
通じるかどうか分かんないけど、オレは蛇口を撚るマネをしてみせた。
「みず?」
「やっぱ、水も知らないか……」
水とか砂とか、身近過ぎて、いざ説明しろって言われると難しい。
どう答えようかと戸惑っていたが、予想に反した答えが返ってきた。
「さたんこみずしってる」
「おお、グッジョブ!!」
「ぐっじょぶ?」
「ああ、それはわかんなくてもいいから」
「わかんなくていい」
「水道があれば水が使えるから砂場遊びももっと楽しくなるんだよ」
「すいどう」
「そうそう。水道。でも、ここにはないからなあ」
「すいどうない」
「うん。しょうがないから、あきらめるか」
水が使えないなりの遊び方を模索しながら、サタン子ちゃんとの会話を続ける。
「すいどうない」
「ないねー」
「みずない」
「ないよねー」
「みずあればたのしい」
「そうだねー」
「さたんこみずだせる」
「そうだよねー」
「さたんこみずだせる」
「だねー、…………って、えええええっ!?」
考えながら会話を続けてたから、あやうくスルーしそうになったけど、驚き発言だった。
「サタン子ちゃん水出せるの?」
「だせる」
そう言うなり、サタン子ちゃんは砂場の中央を指差した。
途端、爆音とともに噴き上げるぶっとい水柱――。
泥水が豪雨のように降り注ぎ、ふたりともずぶ濡れになる。
「わあ、ちょっと。ストップストップ」
「すとっぷ?」
「サタン子ちゃん、水止めて水止めて。マジ止めて」
水流の轟音に負けないように必死で叫んだオレの声が届いたのか、サタン子ちゃんが再び砂場中央を指差すと、水柱はキレイに消失した。




