5話 不思議な世界
気絶しているセェラル君を地面に横にさせて、隣にリィラさんが座り、その正面に俺も座る。
ちょっと気になったことをリィラさんに訊く。
「さっき出した魔法、『防御魔法』って言ってましたけど、他にも種類があるんですか?」
「……? それは……当たり前でしょ?」
すっごく不思議そうに首をかしげるリィラさん。
あ、もしかしてこれは。
「リィラさん、俺、異世界人です」
「……あっ」
今、初めて気付いたようで。
なるほど、と説明態勢。
服装で分かりそうなものだけどなぁ。
「珍しい服だなぁ、とは思ってた!」
「んふっ、そうですか」
腕を小さく振って、一生懸命弁明する姿が、少しだけかわいく見えて。
思わず吹き出してしまったが、特に気にしていないようだった。
「えっとね、魔法には3種類あって、『攻撃魔法』と『防御魔法』、それと『操作魔法』があるんだよ」
「なるほど。リィラさんの魔法はその中でも防御魔法なんですね。他の人も魔法を使えるんですか?」
「誰でも頑張れば使えるよ!」
なるほど。
そうなると、あいつは──。
「昨日、森の外で盗賊と戦ったんですが、そいつは魔法を使ってきませんでした。全人口のどれくらいが魔法を使えるんですか?」
なんとなく、本当になんとなく気になって質問しただけなのだけれど。
リィラさんは、俺の質問の中の意外な言葉に反応した。
「森の外!?」
「うおっ、え、どうかしましたか?」
「あのあの、森の外って、行けたの……?」
『行ったの』とか『行っちゃったの』ではなく、『行けたの』。
その訊き方では、まるで──『森の外は本来、行けないもの』みたいなニュアンスが含まれているような。
「ええ。数分走ったら、出られましたけど」
「ど、どんな感じだったの……?」
さっきの俺の質問は完全に頭から消え去っているようで。
興奮しながら、リィラさんは訊いてきた。
「草原が広がっていて、近くに盗賊の野営地がありました」
「すごい、すごい! お父さんから聞かせてもらったお話のとおりだ!」
本当に、めちゃくちゃ興奮している。
俺の話がリィラさんのお父さんの話と合致したから、なのかな。
「リィラさんのお父さんって……」
「お友達と旅に出てるの! 王都に行ってるはずだよ!」
「なるほど……」
王都、という存在があるらしい。
他にも気になっていることがあるから、訊くことにする。
◆
「なるほど……この世界のこと、なんとなく分かってきました」
まとめると、こう。
この世界には、王都とそれを中心にした東西南北の都がある。
各地の都のギルドで冒険者の証を入手すると、クエストを受けることができる。
クエストの報酬で、冒険者は信頼されていく、とのこと。
──なんというか。
ギルドだとか冒険者だとかクエストだとか。どこかで見聞きしたような話ばかり。
最近の小説でよく見るような設定ばかりじゃないか。
『参考にはしました』
(うわっ、びっくりした……)
慣れてきたと思っていたが、やはり突然右耳に入ってくる声に驚いてしまった。
リィラさんには気づかれないよう、態度には出さない。
女神様の声を無視して、リィラさんにもう一つだけ、訊くことに。
「セェラル君が木の枝に引っかかってたのって、誰かに襲われた……とかですかね」
「多分違うと思うよ。セェラルの魔法──風を操る操作魔法を練習中だから、それで自分が吹き飛ばされちゃったんだと思う!」
「へぇ、セェラル君は操作魔法を使えるんですね」
「まだ上手には使えないみたいだけど……頑張って練習してるよ!」
なるほど。
頑張っているんだなぁ、と思っていると──リィラさんの隣で横になっていたセェラル君が、うぅん、と唸りつつ目を開けた。
「あ、起きた!」
「あれ、姉ちゃん……って、お前は!!」
「へ?」
ばっ、と一瞬で起き上がり、槍を組み立てながら背後にジャンプ。
背中や足に着いた砂を掃うことすらせずに、俺に照準を合わせて槍を投げる直前の態勢で、怒鳴る。
「姉ちゃんから離れろ、異世界人!」
「えぇ……」
めっちゃくちゃ敵視されてるじゃん、俺。
さてどうしたものか。高速移動で逃げようにも、こっちは座ったまま。少しだけ遅れてしまいそう。
──と、ぐるぐる考えていると、リィラさんが立ち上がり、口を開く。
「セェラル」
「な、なんだよ姉ちゃん」
「この人は枝に引っかかってたセェラルを助けたんだよ」
俺だけの力で助けたわけじゃないけどな。
そう思ったが、口を閉じておく。その方が説得が上手くいきそうだったから。
「だ、だからって……」
「恩人に刃を向けるのはダメって、お父さんから教わったでしょ」
「で、でも」
「セェラル」
目を見開いて、セェラル君のことをじっと見つめるリィラさん。
怖い。リィラさん、身内に対してめっちゃ怖い。
その怖さに屈したらしく、わかったよ、と槍を持つ手を下げた。
「ごめんね、シュウタ」
「あ、いえ……」
こちらを向きなおし、にこっ、と笑うリィラさん。
──どうやら、危機は去ったらしい。




