4話 二度目の出会い
「……ーい」
どこからか、声が聞こえる。
「おーい、起きてー」
あれ、俺いつの間に寝てたんだっけ。
ああそうだ、昨日は確か、能力の反動に耐えきれずに寝てしまったんだった。
目を開ける。
「あ、起きた」
「っ!?」
咄嗟に立ち上がり、後ずさ──れない。
身体を預けていた木に邪魔された。
目の前にいたのは、昨日見かけた少女。
確か名前は、『リィラ』と自分で言っていたような。
──そんなことはどうでもいい。
とにかく逃げなければ。少女の周りには誰もいなさそう。
高速移動で少女を突き飛ばし、逃げるか? ──いや、さすがにそれは気が引ける。
別の手段を、と考えていると、少女は突然頭を下げて。
「あのあの、昨日はごめんなさい!」
「……へ?」
謝ってきた。
「私の弟が、あなたに武器を投げたこと。本当にごめんなさい」
「え、ああいや、結局当たってないから大丈夫っスけど」
「怒ってない……?」
「怒ってないですよ」
自分の警戒は解かずに、向こうの隙を待つためにそう答える。
まあ、本当にそこまで怒っていたわけでもないのだけど。
俺のいた世界でも、数百年前までは人を生贄にすることもあったと学んだし。
こっちの世界でもそういうことがあるのかもしれない。そう考えたから。
「よかった……あのあの、セェラル──私の弟がいなくなっちゃったの」
「はい?」
あれ、聞き逃したか?
話が飛んだような。こういう人なだけか。
「私と同じくらいの背丈で、目の色は濃い緑色で、髪の毛も同じ色。あ、髪の毛は後ろで結んでて──」
淡い緑色の髪を揺らしながら、そう伝えてくるリィラという少女。
──ここは、恩を売っておくべきか。そうすれば生贄になるリスクも減るだろうし。
「分かりました、一緒に探しましょう」
「やった! ありがと!」
演技ではなく、本当に喜んでいるように見える。
遠くに入ってないはず、と言って歩き出した少女の後ろを、警戒を解かずについていく。
まだ、信頼しきってはいないから。
◆
15分くらい経っただろうか。
何せ時計やスマホの類がないから、正確な時間が分からないが、今はそんなことはどうでもいい。
──見つからない。一向に見つからない。
「あの、手がかりとかってないんですか?」
「えっとね、目の色と髪の色が」
「濃い緑色なんですよね。それは分かってます。そうじゃなくて、どんな用事があって森の中に来たのか、とかが知りたくて」
「森の中……森の中?」
とても不思議そうに首をかしげるリィラさん。
その言葉の何がそんなに引っかかったのだろうか。
「私の住んでる村、森の中だよ?」
「え?」
◆
詳しく話を聞くと、リィラさんの抱えている事情がなんとなく分かってきた。
「つまり、こういうことですね?」
森の中のコロロ村というところで生まれた人は、毎年の祭りで神様に生贄を捧げないと森から出られない。
だから、森からは出ていないはず、ということだった。
(……あの、女神様って生贄を捧げられてるんですか?)
『いえ、私は全くそういったことは。私とは違い、コロロ村で代々信じられているだけの、概念だけの神ですよ』
(ああ、なるほど)
つまり──実在はしていない、と。
まあ、リィラさんには伝えない方がいいか。他人の宗教観に軽い気持ちで手を出してはいけないだろうし。
「そういえば」
「はい?」
「あなたの名前、聞いてなかった。リィラはリィラ・ルイラ。あなたは?」
「え、えっと……戒式修太です」
一瞬戸惑ったのは、まだこの世界の『作り』が分かっていなかったため。
人に名前を教えたら、能力的な何かで操られたりしないかな、と考えたのだけど──リィラさんの方から教えてきたから、そこは大丈夫だと踏んで、俺も教えることにした。
「カイシ……キシュウタ?」
「戒式が苗字で、名前は修太です」
「じゃあ、シュウタって呼べばいい?」
「どうぞご自由に。……って、え?」
ウゥ、とどこかで獣の唸るような声。
いや、これは──人の声か?
声のした方、上を見上げる。
「……あ」
木の枝に引っかかっている、濃い緑色の髪の少年を発見。
服装もリィラさんと同じで、白いケープと黄色のズボンを履いている。
間違いなく、探していたリィラさんの弟の『セェラル』君だろう。
「見つけたのはいいけど……どうすっかなぁ」
木の枝までは、結構な高さがある。多分(少なく見積もっても)5メートルくらいは。
気絶してるっぽいから、自分で着地するのはまず無理だろう。
さて、どうしたものか。
ぶつぶつ呟いていると、リィラさんが口を開いた。
「あのあの、リィラの魔法なら受け止められるよ」
「え、魔法?」
魔法という概念が存在する世界なのか。
ならば、セェラル君を木の枝から落とせば、大丈夫かな。
「リィラさん」
「なに?」
「俺が木を揺らすので、セェラル君をうまい具合に受け止めてください」
「わかった!」
何の疑問も持たずに、俺の言葉を信用している。
もう少し疑った方が──と思わないこともないけれど、今はそんなことより、木を揺らすことに専念せねば。
とはいえ。
大木ってほどの太さじゃないけれど、結構な太さの木。簡単には揺らせなさそう。
殴ったら痛いだろうなぁ、と考えていると、一つのアイデアが浮かんだ。
リィラさんは、すでにセェラル君の真下で待機している。
ちょっとだけ木から離れて、心の中で『高速移動』と唱えて、幼いころに特撮で見たような『キック』を木にお見舞いする。
──よし、若干足が痛むけれど、短い時間しか能力を使わなかったから反動もほとんどない。
セェラル君が木の枝からずるり、と落っこちてきた。
あとは、リィラさんが本当に魔法を使えれば。
「『トレェリル』!」
呪文のような何かを唱えて、リィラさんは上を向いて両手を掲げた。
すると、横幅3メートルほどの青白い器のようなものが、リィラさんの掲げた手のひらから出現した。
吸い込まれるように、落下してきたセェラル君はその──器(?)にうまく入った。
落っこちた時の音が『フワン』みたいな感じだったから、多分怪我もないだろう。
ってか凄いな、嘘じゃなく、本当に魔法があるなんて。
「すごいでしょ、私の防御魔法!」
「ですね。セェラル君は……」
ゆっくりと地面に下ろされたセェラル君は、まだ気絶状態。
起き次第、また攻撃されるかもしれないけど──仕方ない。
「セェラル君が起きるまで、待ってましょうか」
「うん! ありがとね。シュウタ」
「いえいえ」
──ひとまず、恩は売れたようだ。




