6話 (ようやく)自己紹介
「さっきはすみませんでした……」
不服そうに、しかしそれを姉に悟られないように、謝るセェラル君。
確かに、異世界人が自分の姉と急に仲良くなってたら──まぁ、さっきみたいな態度になるのも仕方ない。
気にしてないよ、と伝えてから、ようやくの自己紹介をすることに。
「俺は戒式修太です。現実世界、というか前にいた世界で18歳で死んで、その年齢のまま、この世界に転生させられました」
「転生させられた? その言い方だと、誰かの力で転生したみたいな……」
「あ、はい。えっと」
セェラル君の問いに、答えていいものか考える。
もしこの世界が一神教が常識だとすると、コロロ村の神様を信じているセェラル君やリィラさんに対し、女神様の存在を伝えるのはまずいのでは、と思ったのだ。
だから、ぼかして伝える。
「名前は分からないんですけど、死んだ後に出会った女性がこの世界に転生させてくれたみたいで」
「……なるほど」
やはり納得はしていなさそう。
それとなく、宗教関係について訊いてみることに。
「セェラル君が──というかコロロ村で信仰されている神様の他にも、神様っているんですか?」
「呼び捨てでいいですよ。おれ、シュウタさんより1歳下ですし」
「あ、はい……うん。じゃあ、そうするよ」
慣れないけれど、そうしよう。
「あ、でも姉ちゃんには今まで通り、さん付けで呼ぶこと。姉ちゃんのほうがシュウタさんより1歳年上ですから」
「うん、わかった」
で、神様の件は。
ああそうだった、とセェラルが話を元に戻す
「おれや姉ちゃんは、まだ森の外に出たことがないから本当かは分からないけど……たまに帰ってくる父さんの話だと、王都や各地の都では違う神様が信じられてるらしい……です」
「あ、なるほどね」
聞きながら思った。
俺と1歳違いなのに、森から出たことがないとは。
リィラさんから聞いた話は本当だったようだ。
「あの、セェラルやリィラさんは、森の外に出たいとは思わないんですか?」
「は?」
何を当たり前のことを、とでもいうかのような態度で。
セェラルが答える。
「出たいに決まってるじゃないですか。でも、祭りで生贄を捧げないと出られないし」
「生贄って、動物でいいんだよね? 鳥の鳴き声とかはしてるし、そういうのを狩れば……」
「おれや姉ちゃんの魔法は、狩りに向いてないから」
「そうか……」
セェラルは『風を操る魔法』で、リィラさんは『防御魔法』。
後者はともかく、前者の魔法なら鍛えればかまいたちとか出せそうな気がするけど。
そう伝えると、不思議そうに。
「カマイタチ……ってなんですか?」
「えっと、確か──」
あやふやな知識だけど、話してみる。
「つむじ風──回転する風を起こして、その風で葉っぱとか小さな砂とかを高速で回転させて、対象を切り裂く、みたいな感じだったような」
「回転する風──なるほど、その発想はなかったです」
おや、やけに素直に受け取ってくれた。
俺の説明が果たして合っているのかは分からないけれど、納得してくれたなら何でもいいや。
それよりも、ちょっと提案を一つ。
いい案を思いついたのだ。
「なあ、森から出たいんだよな」
「え、だからさっきそう言って──」
「なら、俺も協力するよ、生贄にする動物探し」
「いや、でもシュウタさん、おれや姉ちゃんみたいに魔法使えないでしょ? 異世界人だし」
なるほど、異世界人は魔法が使えないと思われている、と。
これは──誰かに不意打ちする際に便利な情報だな、とまだ見ぬ今後のことを考える。
リィラさんが『シュウタも魔法を使ってたよ』とセェラルに説明してくれているが、信じていない様子。
魔法が使えないのは本当だけど。一応説明しておこう。
「リィラさん、俺が使ったのは『超能力』です」
「ちょう、のうりょく?」
──この単語も解説せねばいけないのか。
多分この世界って『魔法中心』の世界なんだろうなぁ。
しかし、何と説明したものか。
「魔法とは違うんですか?」
「……同じようなものかも」
元居た世界ではどっちも信じられていなかった──という点で言えば、全く同じもの。
俺だって、まだ理解しきれているわけじゃないから、同じ、ということにしておく。
「それなら、見せてくださいよ。あなたの超能力ってやつ」
「それで満足してくれるなら──『高速移動』」
リィラさんたちに背を向け、唱えてから駆け出す。
◆
1秒ほど能力を使って走り、振り返ってまた1秒同じことをしてみせる。
2秒で、往復100メートルほど。普通の人間が1秒で移動できる距離ではない。
「……っと。こんな感じだ」
「す、っげえ……」
思わず砕けた口調になるセェラル。
よかった。唱えたはいいけれど使えなかった、じゃあ示しがつかないから。
「超能力っての、本当に使えるんですね……おれはまだ使いこなせないのに、すごいですね」
「いや、俺もまだ使いこなせなくて。今みたいにちょっと使っただけでも、反動がすごくてさ」
「反動? それってどういう──っ!?」
「……どうかしたのか?」
セェラルの様子がおかしい。
俺の背後をじっと見つめて、冷や汗をかいている。
「え、どうかした?」
「なになに、どうかしたの、セェラル?」
俺の能力に興奮していたリィラさんも、セェラルのあまりの変わりように心配している。
本当にどうしたのだろう。
「かあさ──ぐっ」
「きゃっ……」
「……!? な、なん、だ、こ、れ──」
頭の中が、回転しているような感覚。
能力の反動の比ではない。これは一体──。
◆◆◆
「ふぅ」
魔法を使うのは久しぶりだったから、うまく気絶させることができるか不安だったけれど。
無事に3人とも気絶させられたみたいね。
「ごめんなさいね、リィラ、セェラル」
地面に倒れている二人には聞こえていないだろうけど。
異世界人をわきに抱えて、二人が起きる前に村に戻る。
「二人のためなのよ、許して頂戴ね」
この異世界人を生贄にすれば、二人は森の外に出られる。
大事な娘たちのためだもの、非情にならなければね。




