建造中の一幕
ピクシーブルームテック社のコンデンサが、本当にもった。
タワーが上段に達するころ、副次間欠泉の縦穴は賑やかになっていた。
* * *
ダイナモンキーが五匹、いつの間にか足場の低いところに座っていた。尻尾の先で、ぽわっ、と青いLEDを灯している。
最初は見ているだけだった。けれど、ある日。
ヘルマンが配線盤の影に入ろうとして、足を止めた。作業灯の角度が悪い。手で影の中を探っている。
ダイナモンキーの一匹がぽてん、と足場に降りてきて、ヘルマンの足元の暗い隅にすたっ、と座った。尻尾の先のLEDをぐっと強く点灯する。ヘルマンが見ようとしていた配線盤の影を、ちょうど照らす角度。
ヘルマンはしばらくダイナモンキーを見た。それからふぅん、と息を吐いた。
「……気が利くな」
ダイナモンキーは答えない。LEDを点けたまま座っている。
別の日。線守の若い方が、仮設電源のケーブルを上段の足場まで引っ張ろうとしていた。ケーブルが足場の中段で引っかかっている。
ダイナモンキーが二匹、足場の中段にぽてん、ぽてん、と降りてくる。一匹が引っかかっている箇所に尻尾を絡める。もう一匹が、上段の方向にケーブルをちょっとだけ押し上げる。
線守の若い方が、上段でケーブルがすい、と軽くなったのを感じた。
「あ、ありがとう、ございます」
ダイナモンキーは答えない。ケーブルが所定の位置に収まると、ぽてん、ぽてん、と下に戻っていく。
線守が足場の上で、ふとダイナモンキーの一匹を見た。
「……レナちゃん、あれ、玉掛けの資格、持ってんすかね」
「持ってない、と思います」
「ですよね」
レナは別の足場からその光景を見ていた。
(……私たちが何を作っているのか、分かるのかな)
(……楽しみにしてて)
* * *
ガロンとミラがふらりと現れた。ガロンの後ろから、スライム狩り娘たち――赤と青の装甲の二人組――もぞろぞろついてくる。
「おっす、レナちゃーん! ヘルマン親方ー!」
「……ガロンさん」
「ガロン、足場、滑るから気をつけて」
「わかってるって、ミラ」
ガロンがぴょん、と足場に跳ねた。ミラは後ろから医療鞄を抱えて、ついてくる。
ガロンが二段跳ねた後、ミラの手が軽くガロンの腕を押さえた。
「ちょっと、待って。今、ぐきっ、て捻ったでしょ」
「え、ミラ?」
「ガロン、肩、もう一回、見せて」
「いやー、いいって、これくらい」
「……見せて」
「……はい」
ガロンはおとなしくミラに肩を見せる。ミラがしゅるしゅる、と医療鞄から湿布を取り出して貼る。手慣れた動作。
レナは、ミラの方に軽く目を合わせた。ミラがふっ、と笑って、軽くレナに肩をすくめてみせた。
スライム狩り娘たちが、上段の足場までぴょいぴょいと上ってきた。赤が片手に紙袋を抱えている。
「……お嬢さん、これ、マリアさんから、っす」と、メイ。
「え?」
「……『現場の連中で、つまみな』、って」と、ノラ。
紙袋を受け取って開ける。干しスライムの薄切り。かりかりの揚げスライム。
「……マリアさんに、後でお礼、言いに行きます」
「……了解っす」
メイがもう一枚、干しスライムをつまんで口に放り込む。ガロンもぱっくり、と干しスライムをひと噛みした。
レナはふと、ガロンに聞いた。
「……ガロンさん、あれから、魔法はどうしたんですか?」
「ん?」
「もう、完全にバトルマスターのまま、でいくんですか?」
ガロンがぐっと胸を張る。干しスライムを口にくわえたまま。
「……そうっす。実は、最近、俺、決めたんっすよ」
「何を、ですか」
「……魔法、封印したっす」
レナはしばらくガロンを見ている。ミラが横でガロンの方を見ないふりをしている。
「……封印」
「……このまえ、ふと、思ったんっす。俺、やっぱり、剣士が合うって」
「……はあ」
「だから、シンプルにいくっす。剣一本でいくっす」
ガロンがぐっと両腕を組んだ。
その瞬間。
ガロンがぐっ、と目を見開いた。ぐっ、と口を押さえる。
ぐほっ。
「ぐっ……喉に……ぐほっ」
ミラが表情を変えた。
「ガロン!」
「ぐほっ……ぐほっ……」
「ガロン、しっかり! 水、水!」
スライム狩り娘の青が、慌てて保温瓶を差し出す。
「ぐほっ……ぐほっ……」
ガロンがぐっ、と口元に手を当てる。何かを絞り出すように、もう一度――
「ぐほっ……ちゃらーん☆」
ガロンの握ったこぶしを、ぱっと開く。
――花。
一輪の、赤い、小さな花。手品。
ガロンがにかっと笑って、ミラに花を差し出した。
「……ミラ。今は、これが、限界っす」
ミラはしばらくガロンを見ている。
「……でも、いつか、本当の魔法が使えるようになるっす」
「……」
「バトルマスターを極めたら、次は、魔法剣士、っすよ」
ガロンの胸の中で、壮大な夢が語られている。目がきらきらしている。
スライム狩り娘たちが、足場の手すりに両手をばーん、とぶつけた。
「(うーわー! 出たー! ガロン先輩の、天然ジゴロやー!)」
「(あかん、これはミラもイチコロやろー! もう惚れてまうわー!)」
ミラがふっ、と息を吐いた。冷めた目でガロンを見る。
「……ガロン」
「……はい」
「……本気で、心配したんだけど?」
足場の上の空気が、しんとした。
スライム狩り娘たちが頭を抱える。
「(あれー!? 逆効果やー!)」
「(あかーん! ガロン先輩、かわいそー!)」
ガロンが頭をぺこぺこ、と下げた。
「……すんません、ふざけすぎました」
「……」
「……もう、やりません」
ミラは答えない。ガロンの方を見ようともしない。
――けれど。
ミラの右手の指の間に、赤い、小さな花がしっかり握られていた。ずっと、握られていた。
レナはそれを上段の足場から見ている。
(……ふふ)
(……握ったまま、なんですね)
* * *
ヘルマンが横を通り過ぎる。レナと目が合う。
「お嬢さん」
「……はい」
「……賑やかだな」
「……はい」
「……もう、あいつに任せられるな」
ヘルマンは新型フェネクの方を見た。胸のコンソールが青く強く光っている。ピクシーブルームテック社の新型コンデンサが、安定して機能している。
「……はい」
レナは新型フェネクの白い装甲を見上げた。
(……フェネク)
(……ありがとう)




