ダイナモンキー保護の会
ギルド本部二階の事務室。
ヨナスは書類仕事をしていた。灰色がかった髪、革のコート、左頬の古い傷跡。ペンを置いて顔を上げた。
「……コーリュウ」
「はい」
「あいつを討伐したい、と」
「はい」
「理由を聞いてもいいか」
レナが、口を開いた。
「家電を利用するダイナモンキーの文化を保護するために、新しい電源が必要だからです。耐用年数を考慮すると、コーリュウの核がM2Eとして、ちょうどいい出力の核なんです」
「魔石の出力は、モンスターの生きた年数によって変化する。思った核が手に入るかどうかは、わからんぞ」
「私が鑑定します」
「お嬢さんが?」
「はい」
ヨナスの表情が、ふっ、と変わった。
「……お嬢さん、お前、ダイナモンキーを守りたいのか」
「はい」
ヨナスはしばらく目を伏せた。それから低く言った。
「……わかった。俺もその依頼を受けよう」
「あ、ありがとうございます!」
「ただし、忠告しておくことがある……ちょっと、待ってろ」
ヨナスは立ち上がると、奥の棚から古い地図を取り出した。
地下水路の古い地図だった。
「コーリュウは、地下水路の最深部に棲息していると、噂されている」
「ええ、それは聞きました」
「しかし、噂だ。目撃証言もある。だが、この二十年間、誰もその姿を確認できていない」
「……」
「すでに移住してしまったのか、進化がどこまで進んだか、現在の出力はいくらか。全部、わからん」
ガロンが首を傾げた。
「ヨナスさん、それじゃ、討伐パーティを組むのは、難しいんじゃないっすか」
「ああ、相手の戦力どころか、会えるかどうかも分からないのではな。できて調査ぐらいだろう」
「……でも、ヨナスさんも行くんすか」
「ああ、行く」
ヨナスは、それ以上言わなかった。地図を丁寧に畳んで、革のコートの内ポケットにしまった。
「ライナーも呼ぶ。あいつの斧がねえと、ドラゴン亜種は削れねえ」
「おお、ただの調査とは思えない豪華な顔ぶれっすね」
「ああ……俺たちは、いわば『ダイナモンキー保護の会』だ」
「だ、ダイナモンキー保護の会……」
ぽかんとするレナ。若い冒険者たちは、にやにや顔を見合わせていた。
ヨナスは、レナの方を振り返った。
「ただし、お嬢さん」
「は、はい」
「コーリュウは、ドラゴンの初期形態だが、それでも災害級寄りだ。命の保証はねえ」
「……はい」
「お嬢さんは戦いの専門家じゃない。依頼者らしく、地上で椅子に座ってじっと待っていてもいい。それでも行くのか」
「……」
レナは、しばらくヨナスを見た。
踏みとどまる、最後の瞬間。
(……電線は)
(……残せるはず)
「……行きます」
ヨナスは頷いた。
「よし。明日の朝、地下水路の入口に集合だ。お嬢さんは、装備、整えてこい。裏手の武具屋に行けば、ひとおおり何でも揃う」
「はい!」
***
ギルドの扉を押した。
外は雪。電線天蓋の下、コロナ放電がちらちら光っていた。紫色が、雪に滲んでいた。
レナはマフラーを巻き直した。
電線の上で、何かが動いた。
レナは見上げた。
ダイナモンキーが一匹、青いLEDを灯して、こちらを見下ろしていた。
(……明日)
(……あなたたちのために)
ダイナモンキーが、尻尾の先で、ぽわっ、と光を揺らした。
応えている、ようにも見えた。
レナは頷いた。それから宿の方角に歩き出した。
電線の上で、青いLEDがひとつ、ふたつ、と灯っていく。三つ、四つ。
レナは、彼らに見送られながら、雪の道をまっすぐ歩いた。




