↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
33/51

依頼

 階段を駆け下りた。

 廊下を抜けた先に、ギルド本部一階の酒場。昼から営業している、冒険者の待機所。レナは走る勢いのまま扉を押した。

 油と煮込みの匂い。低い天井から下がる魔石ランプ。木の床がぎい、と鳴った。

 奥のテーブルに、四人。

 ガロンが顔を上げた。


「あっ、レナさん!」


「ガロンさん!」


「お久しぶり、っすー!」


 ミラが医学誌から目を上げた。白衣の上の防寒着。


「あら、レナさん。お元気でした?」


「は、はい!」


 スライム狩り娘たちが揃って首を傾げた。


「(レナさん、ぜーはー、してるっす)」


「(目の下、くまっす、よ)」


 レナは息を整えた。それからガロンを見た。


「ガロンさん、お体は、もう大丈夫、ですか」


「お、おかげさまで、っす!」


 ガロンがぐっと胸を張った。


「毎日、麦雪、食べてるっすよ!」


「えっ、ほんとに、ですか」


「ほんとっす! 病院でも、食いたかったっすよー!」


 そのとき。

 ミラがぽつりと口を開いた。


「ふーん」


「あ……」


「私が作ったお粥じゃ、満足できなかったわけだ?」


「あっ……!いや!」


 ガロンがぎょっと固まった。


「(やべえ、地雷踏んだっす)」


「(踏みましたねー)」


「ち、違うっすミラ! お粥は、すごく、美味しかったっす! 麦雪は、その、別腹、っす!」


「別腹、ね」


「別腹、っす!」


 レナはぽつりと笑った。


 執務室で固まっていた頬が、ふっ、と緩んだ。


(……あ)


(……笑えた)


 ***


 レナはテーブルの上に資料の束を、ばさっと広げた。


「皆さん、ご相談があります」


「っす?」


「こほん」


 レナは軽く咳払いをした。それからプレゼンモードに入った。


「では、なぜダイナモンキーの保護が必要なのか——」


「(え、急に、講義、始まったっす)」


「(レナさん、本気っすね)」


 レナは魔導映像盤を抜き、写真パネルをぱっぱっと並べた。昨日、父に見せたのと同じ写真。


「一枚目。市場の通り。屋台のおじさんと、ダイナモンキーの何気ないやりとり」


「ダイナモンキーは迷宮都市の市民から愛されています。共存関係が二百年以上続いています」


「二枚目。ゴミ捨て場の家電のリサイクル。彼らは人間が捨てた家電を再利用しています」


「(リサイクル文化、って、すごい言葉っすね)」


「三枚目。電線天蓋の上の、尻尾の圧着作業」


「圧着……」と、ガロン。


「テープも、巻いてるんです」


 ガロンがしばらく写真を見ていた。


「……これは、すごい。よくわかんないけど、すごいっす」


「四枚目。母モンキーと子モンキーの映像」


 レナの声がわずかに震えた。けれど続けた。


「五枚目。扇風機ぐでーん。彼らは文化を持っています」


 レナは結論を述べた。


「ダイナモンキーは、迷宮都市の、共生のパートナーです。彼らの生息環境を守ることは、迷宮都市の文化を守ることです」


 冒険者たちがしばらく写真を見ていた。

 ガロンがぽつりと言った。


「……すごい、っすね、これ」


「(ガロン、感動、しちゃってる)」


「あの、扇風機の写真、ヤバいっすよね。猿が、ぐでーんとしてる」


「あ、それ、お気に入りなんです!」


「(レナさん、目、輝いてる)」


 ミラが写真を覗き込んだ。


「で、レナさん」


「はい」


「プレゼン自体は、わかったけれど」


「はい」


「私たちに、何を頼みたいの?」


「あ、はい!」


 レナはぐっ、と姿勢を正した。


「街の無電線化が、進んでいます。電線が撤去されると、ダイナモンキーは、共存関係の半分を失います」


「(そりゃ、そうだな)」


「だから、ダイナモンキー用の、自前の発電設備を、作りたいんです」


「自前」


「はい。彼ら専用の、独立した電源を」


「で、その電源って、どうやって調達するっす?」


 レナはノートを開いた。計算式のページ。


「迷宮都市のダイナモンキーの群れは、約千匹。五百世帯と想定して、月の消費電力が約百五十MWh。年で約一・八GWh」


「これを一つの核で賄うには、五十kW級のドラゴン亜種核が必要です」


 ガロンの口が開いた。


「五十kW」


「はい」


「そんなの、どっから、調達するっす」


「民間自家電気工作物の上限は、五十kW未満です。それ以上だと、国家独占なので、民間では扱えません」


 ミラが片手を挙げた。


「ちょっと待って。五十kW級って、ワイバーン核?」


「ええ、本来なら。でも流通量が、少なくて」


「……だわね」


 ガロンがぐぐっ、と考えた。


「……あ、コーリュウは、どうっすか」


 レナがぱっと顔を上げた。


「コーリュウ?」


「地下水路の奥にいるって、噂、っすよ。冒険者ギルドの、長期未確認モンスター一覧に、載ってる」


「氷ドラゴン系の、初期形態、ですね」


「初期型だから、出力も低いはず、っす」


 レナはノートをぱらぱらめくった。素材データのページ。


「えーと、コーリュウは、進化途中のドラゴン亜種。核の出力は、四十から六十kWの範囲。個体によっては、ぎりぎり、民間枠に収まります」


「ほら! いけるっす!」


 メイが目を輝かせた。


「あれっすかー! ガロン先輩が、いつも『一度、食ってみてー』って言ってる、やつっすかー」


「食ってみてーじゃ、ねえし!」


「(ガロン、ロマン枠やー)」


 レナは立ち上がった。深く頭を下げた。


「皆さん、お願いです! コーリュウ討伐に、ご協力ください!」


 冒険者たちが、しばらく顔を見合わせた。

 ガロンが最初に口を開いた。


「……まあ、報酬、出るんなら、考える、っすね」


「報酬は、こちらがAGマギクラフトの開発費として、立て替えます」


「(おお)」


「(さすが、大企業の人や)」


「稟議書を通すのはこれからなので。通らなかったら自腹で行きます」


「なんでそこまで必死なの?」


 ミラが医学誌をテーブルに置いた。


「私は医者として、行くわ。誰かが怪我したときのために」


「ありがとうございます!」


 スライム狩り娘たちが同時に頷いた。


「私たちも、行くっす」


「面白そう、っす」


 ガロンが最後に付け加えた。


「ただ、リーダーは、ヨナスさんに相談、っすね。あの人がいないと、こういう大きい話、動かせねえっす」


 レナは頷いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。