↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
電線ジャングル迷宮都市の電線はなくならない  作者: 桜山うす(J.I.A)
電線ジャングル迷宮都市の冒険者たち
PR
23/51

集結

 日没が近かった。


 ギルド本部前の広場には、四つの冒険者パーティ、計十数人が集まっていた。

 電線天蓋の薄紫光が、夕空に立ち上がり始めている。雪はまだ、ちらちらと降っていた。


 広場の中央に、二人の男が立っていた。


 一人は、五十代。灰色がかった髪に、深い皺。左頬に古い傷跡が走っている。革のコートに金属パーツがいくつか縫い付けてある。背中に長弓。《ヨナス》――今日の合同パーティのリーダーで、ヘルマンと同世代の、引退間近の古参冒険者。


 もう一人は、四十代前半。無表情で寡黙。背中に大ぶりの斧。右脚の膝から下が金属製で、歩くたびに、カシュッ、と低い金属音がする。左目が義眼で、暗闇でも見えるように特注で組まれている。《ライナー》――魔石義眼の縁の処理を見ただけで、ヴァイス工房製とわかる。ギルマスと同じ、精巧な作りだった。


 彼らの元に集まった若い冒険者の中にも、ヴァイス工房にゆかりのある顔ぶれがあった。


 ガロンが、革ジャケットの代わりに、明らかに新調された魔法使いのローブを肩に引っかけている。ローブの下から、剣士時代に鍛え上げた腕がはみ出している。

 隣にミラ。白衣ではなく、革の防寒着の上に回復道具を吊り下げたベルト。


 その後ろに、マリアの店に通っているスライム狩り娘の二人組。赤い装甲のメイと、青い装甲のノラ。両手剣と、盾とメイス。冬装備の上から装甲を装着している。


 そして後衛の隅にミユン。長い杖を地面に軽く突いて立っている。革のジャケット、長い金髪、革の弓のケース。傷病兵舎の窓から見た、朝の姿のままだった。


 ヨナスが口を開いた。


「お前ら、今夜は、長くなる」


 冒険者たちが、静かにヨナスを見た。


「ダイナモンキーの大規模討伐、ってのは、聞いてるな」


「目的地は、電線ジャングルの、奥の、第七区画」


「契約電力超過の、報告が、上がってる。原因は、ダイナモンキーたちによる『盗電』」


「国営電力会社からの、正式依頼だ。ギルドが、受けた」


 冒険者たちが、静かに、頷いた。


 ヨナスは、手元の冒険者カードの束を、取り出した。


「お前ら、自己紹介は、省くぞ。時間が、ねえ」


「ジョブと、得意技だけ、聞いていく」


 何人かの冒険者が、簡潔に、答えていく。


「戦士、両手剣」


「レンジャー、罠」


「ヒーラー、回復術」


「スライム狩り、両手剣」(メイ)


「スライム狩り、盾とメイス」(ノラ)


 ライナーは、無言でヨナスを、見ているだけだった。ヨナスも、ライナーのカードは確認しなかった。長年の付き合いで、もう分かっているのが伝わった。


 ミユンの番になった。


「魔石工学研究者……研究者?」


「ええ」


「ダンジョンには潜らないし、魔石の研究ができるような依頼じゃないと思うが」


「いけない、かしら?」


「まあいい」


 ヨナスは、軽く肩をすくめて、次に進んだ。


 そして、ガロンの番になった。


 ヨナスは、ガロンのカードを、しばらく見ていた。


「……ガロン」


「っす」


「お前のジョブが、魔法使いで、登録してあるんだが」


「っす」


「……何かの、間違いじゃ、ねえのか」


 スライム狩り娘たちが、無言で肩を震わせている。


 ガロンは、ぐっ、と胸を張った。


「っす! 間違いじゃ、ねえっす!」


「俺、本気で、魔法使いに、なったんっすよー!」


 ヨナスは、ガロンの顔をしばらく見た。

 それから、ガロンの全身を見た。

 魔法使いのローブの下から、はみ出している、ムキムキに鍛え上げられた腕を見た。


「……ふぅん」


 他パーティの戦士の一人が、横から口を挟んだ。


「ヨナスさん、こいつ確か、戦士極めてて、この前まで剣士レベル六でしたよ」


「バトルマスター直前で、転職した、ってのは、聞いた」


「そうそう、それっす」と、ガロン。


 ヨナスは、しばらく考えてから、ぽつりと言った。


「……ちょっと、見せてみろ」


「えっ」


「魔法、使えるとこ、見せろ。話は、それからだ」


 スライム狩り娘たちが、目を、輝かせた。


「(きた!)」と、メイ。


「(ガロン先輩の、新技、見れる!)」と、ノラ。


「先輩じゃ、ねえし」


 ガロンが立ち上がって、広場の中央に出た。他パーティの冒険者たちも、ちらちらと見ている。


 ガロンは、ふー、と呼吸を整え、杖を構えた。


「ファイアー!」


 その瞬間、ガロンはものすごい高速で、杖を突き出す。空気摩擦で、杖の先端に、ぱっ、と火が起こる。


「ストーム!」


 次に、ものすごい高速で、魔法使いのマントをはためかせる。ぐるぐると渦を巻き、有圧換気扇のごとく強風が生まれる。


「ファイアー! ストーム! ……ファイアー! ストーム!」


 リズミカルに、何度も何度も反復する。


「……ファイアー・ストーム!」(ピコ太郎風)


 二つの魔法、否、物理現象が合体し、炎の渦がガロンの眼前にぶわっと立ちのぼった。


 スライム狩り娘たちが、無言で肩を震わせている。広場の他の冒険者も、ぽかんとしている。


「(すごくない? 逆に、すごくない?)」と、メイ。


「(さすが、元バトルマスター候補やわ、筋肉ですべてを解決してる)」と、ノラ。


「(こんなんされたら、ミラ、惚れ直してしまうやろ)」


「(いやー、私やったらメロメロやわー)」


 ミラは、腕を組んで無表情で、その様子を見ていた。


 ガロンが、ふっ、と息を整えて、ドヤ顔で続けた。


「ふっ、今のは、デモンストレーションっす!」


「今日はまだ誰にも見せたことのない新技の、ファイアー・ランスを、お見舞いするっすよ!」


 などと言いつつ、槍を、マントの内側に、セットする。何が入っているか分からない、マジック・バックを脇に抱えていた。


「ディス・イズ・ア・ラーンス!」


 バッと槍を高く掲げ、ピコ太郎風ファイアー・ランスが発動しようとした、その時。


 ミラが、ぽつりと言った。


「アイシクルランスは、どうやるの?」


 ガロンが、ぴたっ、と、止まった。


「あ、アイシクル、ランス……?」


 明らかに、気が動転していた。

 どうやら、まだ考えていなかった魔法ネタだったらしい。

 だが、ガロンはここで引き下がるような男ではなかった。


「わ、分かったっす……見てるっすよ……」


 ふー、と、息をつく。ガロンは素早く地面に屈みこむと、足元の雪を、マジック・バッグにどかどかと詰め込み始めた。

 やがて下準備が完了すると、間髪入れずに魔法を発動させた。


「ディス・イズ・ア・ラーンス!」


 槍を、ばっ、と、前に突き出す。続いて、黒マントの内側から、大量の雪を取り出した。


「うおおおおおお……ッ!」


 ぎゅうぎゅうに圧縮する。今日の気温はマイナス二度、外気が低すぎて、本来うまく雪玉にならないはずだったが、ガロンの掌が生み出す得体の知れない高圧によって、氷のように硬くなってしまう。そのまま、槍の先端部分と取り替えて、氷の槍を作り、投げ放った。


「アイシクルラーンス!」


 氷の刃を持つ槍が、木の真ん中に、どかっと突き刺さった。


 まわりの冒険者たちはぽかんとしていた。スライム狩り娘たちが、大笑いした。


「(でたー! バトルマスター流、アイシクルランスやー!)」


「(あかん、これは、かっこいい!)」


「(ミラに、ええとこ見せてしもうた!)」


「(いやー! さすがに、これはもうメロメロやろー!)」


 ガロンが、ふっ、と、やり切ったドヤ顔で、ミラの方を振り返った。


 ミラの目が、まるで氷のように、鋭かった。


 ガロンが、ぎょっ、と固まった。


「(あれー!? なんでや、ミラの顔が、こわなってるー!?)」


「(ガロン、がんばれー!)」


「(あかん、このカップル、目が、離せんわー!)」


 ライナーが、無表情のまま、ちらっとヨナスを見た。ヨナスは、肩をすくめた。


 ミユンが、その騒ぎを横で見ながら、ぽつりと独り言をこぼした。


「……人間とは、不思議な、ものね」


 ヨナスは、諦めたように、ふっ、と息を吐いて、ガロンのカードに、何かを書き込んだ。


「……わかった、魔法使い、だ」


「っす!」


「ポジションの希望は」


 ガロンは、ぜーはー、息をしていた。アイシクルランスの一発で、もう疲労困憊だった。


「タンク(盾役)で」


 ミラが、横から即座に突っ込んだ。


「ちょっと! 病み上がりなんだから、後衛でDPSでしょ!」


「……こ、後衛」


 ぜーはー、息をするガロン。


「ちょ、ちょっと待ってくれ……たのむから、前衛で、タンクをさせてくれ」


「ダメ」


「俺のMP(物理)が、限界に、きてる」


「だから、後衛」


「いや、せめて、中衛で、アタッカーを」


「ダメ! 後衛!」


 ガロンが、必死に懇願する。スライム狩り娘たちが、また無言で肩を震わせている。


 しぶしぶ、ガロンはヨナスに向き直った。


「後衛で、おなしゃす」


「ガロン、お前、MP(物理)が切れたら、どうやって後衛で戦うんだよ」


「それは、その、後衛から、走って、前に出て、殴って、戻ります」


「倍疲れるだけだろ……もう前衛でいいだろ、それ」


主治医ミラが、ダメだって」


「主治医が、言うなら、しょうがねえな」


 ヨナスは苦笑して、後衛にガロンを回した。

 ミラの隣だ。


 それから、ヨナスは続けて編成を組んでいった。


 前衛にライナー、他パーティの戦士二人、スライム狩り娘のメイ。

 中衛にスライム狩り娘のノラ、他パーティのレンジャー二人。

 後衛にガロン、ミラ、ミユン、他パーティのヒーラー一人。


 ヨナスは、最後に、ミユンの方を、見た。


「ミユン先生」


「はい」


「今日は、戦力として、加わってくれるんだな」


「ええ。けれど、判断は、あなたに、任せるわ」


「了解だ」


 ミユンは、長い杖をライナーの方に、軽く傾けた。

 ライナーは、無言で頷き返した。

 二人は、知り合いらしい。


 ヨナスは、全員を、見渡した。


「よし、行くぞ」


 冒険者たちが、それぞれの装備を最終確認して、ギルド前広場を出発した。


 電線天蓋の薄紫光が、ぱち、ぱち、と、頭上で明滅している。雪はまだ、ちらちらと降り続けていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。