第81章:悪女の涙と魂の叫び〜華やかな令嬢への嫉妬と、造られた美貌〜
カラン……。
拓人が投げ捨てた指輪が、大理石の床を転がる冷たい音が、静まり返ったウエディング会場に響いた。
「徹底的に法的に争う」という拓人の冷酷な宣言と、巨大スクリーンに映し出されたスーパールッツ計画倒産の動かぬ証拠。
如月財閥が貝森財閥を喰い潰したという事実を、自分の結婚式という最悪の形で知らされた(暴露された)如月あやめは、純白のドレスのまま床にへたり込み、ボロボロと涙をこぼした。
「ちがう……ちがうのよ……っ!!」
完璧にセットされた髪を振り乱し、あやめは子供のように泣き叫んだ。
「私はただ……貝森拓人さんとお付き合いしたかっただけよ!! 拓人さんを私のものにしたかっただけなのに……っ!」
政界や財界の重鎮たちが呆然と見下ろす中、あやめは床に縋り付くようにして、心の奥底にどす黒く煮えたぎっていた本音をすべて吐き出した。
「あの、華やかな納屋かすみが大嫌いだったの!! いつもキラキラして、皆の輪の中心にいて……! 地味だった私は、ずっと陰から見ていることしかできなかった! 拓人さんの隣で幸せそうに笑うかすみ様が、どうしても許せなかったのよ!!」
あやめの悲痛な叫び声が、会場の空気をさらに凍りつかせる。
「私だって、元々は地味で目立たないお嬢様だったわ……! でも、あの学園祭の日に勇気を出して拓人さんに声をかけてから、必死におしゃれをして、かすみ様に勝つためにこの美貌を手に入れたのよ!!」
巨大スーパールッツを倒産させ、大和に毒饅頭を配らせてまで政財界を巻き込んだ黒い陰謀。
そのすべての元凶が、華やかなヒロインに対する『地味だった令嬢の狂気的なコンプレックス』という、あまりにも身勝手で個人的な感情だったことに、ゲストたちは背筋が凍るような恐ろしさを覚えた。
「私が先に、貝森拓人さんを好きになったのよ!! 全部、拓人さんに選ばれるために頑張ったのに!! なのに、どうして……どうして私を選んでくれないのよ!!」
「あやめ……」
涙と鼻水でメイクをぐちゃぐちゃにして泣き崩れるあやめを、拓人は微かな哀れみを含んだ、しかし決して揺らぐことのない氷のような瞳で見下ろしていた。
「君がどれだけ外見を飾ろうと、もう関係ない。……君のその狂った執着と嫉妬が、俺のすべてを壊したんだ。君を許すことは、一生ない」
拓人はあやめに背を向けると、政財界の重鎮たちや、顔面蒼白のまま固まっている如月大和を一瞥し、堂々とした足取りで、地獄と化した結婚式場をただ一人後にした。
残されたのは、偽りの美貌で愛を手に入れようとした悪女の惨めな鳴き声と、完全に崩壊した如月帝国の残骸だけだった――。
82章に続く




