第77章:逃れられない運命〜トントン拍子の縁談と、明日行われる絶望の結婚式〜
「このまま逃げよう」
前夜の誠の痛切な駆け落ちの誘いに、私は結局、首を縦に振ることはできなかった。
私個人の感情だけで逃げ出せば、納屋財閥も、そして誠自身の立場もすべて破滅してしまう。その重圧に押し潰された私は今、豪華な料亭の奥座敷で、南条財閥との正式な縁談の席に座っていた。
「かすみさんは、通われている大学が休校になり、しばらくお休みだそうですね」
にこやかな笑みを浮かべてそう切り出したのは、南条隼人の両親である南条虎之介と可憐の夫妻だった。
「ちょうど良い機会ではありませんか。時間もたっぷりあることですし、このまま結婚を前提に、隼人と本格的にお付き合いをされてみてはいかがでしょう?」
その言葉に、私の父と母は満面の笑みで深く頷いた。
「ええ、ええ! もちろん大賛成でございます。娘にとっても、これ以上ないほど素晴らしいお話です!」
当人である私の気持ちなど置き去りにしたまま、大人たちの間で結婚の話は恐ろしいほどトントン拍子に進んでいく。
「婚約指輪の件ですが、せっかくですから森野海斗社長に直接お願いして、かすみさんに一番似合う最高のリングを特別にデザインしていただきましょう。森野社長のジュエリーなら、申し分ありませんからね」
「まあ、森野海斗社長に! それはかすみも喜びますわ!」
可憐の優雅な提案に、母が歓声を上げる。森野海斗といえば、世界のセレブを顧客に持つトップジュエリーブランドの若き社長だ。
本来なら女性が誰もが憧れるような夢のような話なのに、私の心はどこまでも冷たく沈んでいくばかりだった。隣に座る南条隼人は、私を完全に自分の鳥籠に閉じ込めた絶対的な勝者として、ただ静かに、そして熱を帯びた瞳で私を見つめている。
そんな息の詰まるような縁談の最中。
私の耳に、さらに残酷な知らせが飛び込んできた。
如月あやめと貝森拓人の結婚式が、いよいよ『明日』執り行われるというのだ。
拓人が如月の黒い罠に完全に落ち、悪女・あやめの隣で永遠の愛を誓わされる絶望の儀式が、ついに明日、幕を開ける。
自分の意志ではどうにもならない縁談の波に飲み込まれる私と、あやめの高笑いが響く結婚式に囚われる拓人。二人の運命は、もう二度と交わることのないまま、完全に引き裂かれようとしていた――。
78章に続く




