第74章:静寂のキャンパスと時代の流れ〜誠との登校と、変わりゆくサファリア〜
南条本邸での息の詰まるような密室劇から少しだけ解放され、私は久しぶりに、誠さんが運転する高級車の後部座席で揺られていた。
行き先は、私が通う『サファリア女子大』。見慣れた誠さんの完璧な運転にホッと息をつきながら、車は広大なキャンパスの正門をくぐり抜けた。
しかし、車を降り立った私の目に飛び込んできたのは、あまりにも静まり返った無人の風景だった。
「あれっ……? 今日は登校日のはずなのに、誰もいないわ。変ね……」
すれ違う学生の姿もなければ、談笑する声も聞こえない。不思議に思った私は、傍らに静かに控える誠さんを見上げて尋ねた。
「ねえ、誠さん。学校に誰もいないのだけれど、何かあったのかしら?」
誠さんは微かに目を伏せ、いつもの落ち着いた声で答えた。
「お嬢様。実は、本日からしばらくの間、このサファリア女子大は休校となります」
「えっ? いきなりどうして?」
驚いて聞き返す私に、誠さんは周囲の広大な敷地を見渡しながら説明を続けた。
「この広大な敷地全体の大規模なメンテナンスが必要になったためです。それに伴い、サファリア女学院、そしてサファリア初等部・中等部も、すべてこのキャンパス内に集約するという建設計画が正式に動き出しました」
「えっ……初等部も中等部も、全部ここに集まるの?」
私は思わず目を丸くした。初等部から大学までが一つになるという途方もない計画。それはつまり、今まで私が慣れ親しんできたキャンパス周辺の風景が、大きく変わってしまうということを意味していた。
「じゃあ……あの頃よく行っていた、あのファミレスにも行けなくなるのね」
青藍高校へ潜入する前、拓人くんたちと笑い合ったあの日の記憶がふと蘇り、私は少し寂しそうに呟いた。誠さんは何も言わず、ただ静かに、私のその横顔を優しい瞳で見守っていた。
これも、時代の流れなのかもしれない。
サファリアはもともとエスカレーター式の学校だから、すべての学部が一つの敷地に集約された方が、生徒たちにとっても行動するのが楽になるのは間違いないのだ。
誰もいない静かなキャンパスを吹き抜ける風を感じながら、私は変わりゆくサファリアの風景に、自分自身の激動の運命を重ね合わせるように、小さく息を吐いた――。
75章に続く




