第72章:反撃の狼煙〜貝森拓人の孤独な調査と、悪女の本当の狙い〜
如月財閥の息がかかった、冷たい無機質なマンションの一室。
貝森拓人は、部屋の明かりもつけず、青白いパソコンのモニターの光にだけ照らされながら、キーボードを無心で叩き続けていた。
画面に映し出されているのは、如月財閥の内部ネットワークから命がけで引きずり出した極秘データ。そして、彼の実家である『スーパールッツ』が倒産に至るまでの不自然な金の流れだった。
「……やはり、そうだったのか……っ!」
血走った目でデータを追っていた拓人は、ギリッと強く奥歯を噛み締めた。
庶民派スーパーだったルッツが、突然採算の合わない高級路線へと舵を切り、結果的に莫大な負債を抱えて倒産したあの事件。それは経営の失敗などではなく、最初から如月財閥――いや、如月あやめが周到に仕組んだ『意図的な倒産』だったのだ。
あやめの狙いは、ルッツという企業そのものではない。
彼女はただ、サファリア女学院時代から『納屋かすみ』のことが心底嫌いだったのだ。かすみが拓人と親しくし、普通の恋を育んでいることが許せなかった。
だからこそ、かすみから最も大切な拓人を奪い取るためだけに、拓人の実家の事業を意図的に破滅させたのだ。貝森財閥の力を削ぎ落とし、拓人を孤立させ、如月財閥に服従するしかない状況へと追い込むために。
「あやめ……お前は、かすみちゃんを苦しめるためだけに、俺の家族を……!」
ドンッ! と、拓人は怒りに震える拳でデスクを叩きつけた。
あの学園祭の日、あやめの「私達の教室にも遊びに来てよ」という言葉に不用意について行ってしまった自分の甘さが、すべてを壊してしまった。かすみにあの残酷な交際宣言を見せつけ、心を深く傷つけてしまったのも自分だ。
拓人は、あやめとの結婚式の打ち合わせで死んだような目をしていた自分を奮い立たせた。
今はまだ、あやめの言いなりになっているフリをするしかない。だが、この手の中には如月財閥を根底から更地にするための『闇データ』が確実に集まりつつある。
「待っていてくれ、かすみちゃん。……俺が必ず、如月を潰して君を迎えに行く」
南条隼人の腕の中に囚われているかすみの無事を祈りながら、拓人は暗闇の中で反撃の刃を静かに、そして鋭く研ぎ澄ましていた。
第2シリーズ73章に続く




