第5章:お嬢様、マジ卍で電脳大決戦?【中編】
麗らかな朝の光が差し込む納屋財閥の大食堂。
かすみは、最高級のシルクのナプキンを膝に乗せ、焼き立てのクロワッサンと搾りたてのオレンジジュースを口に運びながら、目の前に座る父・薫へと無邪気な瞳を向けた。
「ねぇ、お父様。お父様とお母様(納屋あけみ)の昔の恋の馴れ初めについて、もう少し教えていただきたいの。お父様は森野財閥の御曹司であることを隠して、一般の生徒として青藍高校に通われていて、そこでお母様と学園祭で恋に落ちたって……。その頃の青藍高校では、サファリア女学院との『公式な交流会』などはありましたの?」
薫は持っていたコーヒーカップを優しくソーサーへと戻し、少し照れくさそうに目元を和らげた。
「ははは、懐かしいな。ああ、私たちの時代にもね、一度だけ『合同交流茶会』というものが企画されたことがあったよ。だがね、それが最初で最後の交流会になってしまったんだ。当時のお母様はサファリアの生徒会長でね。青藍の生徒たちを更生させようと体育館へやってきてくれたんだが、青藍の男子生徒たちは緊張しすぎてしまってね……おもてなしとして、ステージの上で【誰が一番激しく瓦を頭突きで割れるかコンテスト】を始めてしまったんだよ」
「えぇっ……! 瓦を、頭突きで……!?」
「体育館は真っ白な粉塵に包まれ、サファリアの先生方は悲鳴を上げて卒倒し、お嬢様方は涙目で机の下に隠れてしまった。結果、交流会は開始10分で強制終了。それ以来、両校の間で公式な交流会は『永久に出入り禁止』という絶対防衛線が張られることになったのさ」
薫お父様の話を聞いて、かすみは自由帳をぎゅっと抱きしめ、大感動の声を上げた。
「まぁ……! 青藍高校の皆様は、昔からなんてパワフルでお茶目な方々でしたのね! とっともエモいですわ……!」
朝食を終え、サファリア女学院へと向かう高級車の車内。
かすみは、お父様から預かった最新AI・ジェームス様の端末を、隣に座る薫お父様へとそっと手渡した。
「お父様、このジェームス様をお返しいたしますわ。車内でお父様が初期作業(初期化やメンテナンス)をしてくださるのでしょう?」
「ああ、ありがとうかすみ。昨日からどうも誠のアカウントと衝突してシステムがバグっているようだからね。登校している間に、私が森野財閥の技術チームと一緒にきれいに初期作業を済ませておくよ」
「よろしくお願いいたしますわ。ジェームス様、また後ほど……!」
かすみは漆黒の端末に手を振ると、すっかりジェームス様から教わった「マジ卍」の挨拶を完璧にマスターした状態で、胸を張ってサファリア女学院の校門をくぐった。今日こそ、あの青藍高校の海斗さんたちに最先端の挨拶を届けよう、と心に決めて。
だが、サファリア女学院の教室に入った瞬間、かすみを待っていたのは、重苦しくピリピリとした空気だった。
パチパチ、と担任の厳格な先生が教壇で出席簿を叩く。
「皆さん、静かにしてください。……本日、皆さんにお知らせがあります。今週末、近隣の『青藍高校』にて学園祭が開催されます」
学園祭、という響きに、教室のお嬢様たちがわずかにざわめいた。かすみも「まぁ、お父様とお母様が出会った学園祭……!」と目を輝かせる。しかし、先生の次の言葉は、氷のように冷たかった。
「――ですが、サファリア女学院の生徒は全員、【今年は青藍高校の学園祭に行ってはいけません】。公式な立ち入りおよび見学を、一切禁止といたします」
「えっ……!?」
かすみは思わず声を上げた。先生は苦渋に満ちた表情で、眼鏡の奥の目を鋭く光らせる。
「先日、我が校の宝である納屋かすみお嬢様が、あの野蛮な青藍高校のチャラついた男子2名(山野大翔・岩野凌駕)にファミレスへと強引に誘われ、あろうことか泣かされてしまうという痛ましい事件が起きました! その後、傷心のお嬢様を元気づけるため、ファミちゃん先生が社会勉強としてスーパールッツへお買い物に連れ出してくださったものの……最初の精神的ダメージが大きすぎたせいで、お嬢様はスーパーの売り場で心身ともに限界を迎え、倒れてしまわれたのです!」
「まぁ……!」「なんてお労しい……!」
教室中のお嬢様方が悲鳴を上げてハンカチを握りしめる。
「すべては、あのファミレスで誘ってきたチャラ男2人のせいです! これは我が校に対する宣戦布告も同然! お父様たちの時代の『瓦頭突き事件』から30年……両校の間に辛うじて残されていた細い糸は、完全に断ち切られました。納屋かすみお嬢様を泣かせ、恐怖のどん底に叩き落とした罪は重いです。サファリア女学院と青藍高校の交流会は、**【永久に完全になし】**とすることが全会一致で決定いたしました。皆さん、決してあの泥にまみれた校舎へ近づいてはなりません!」
「そんな……! 永久に、なし……!?」
先生の無慈悲な宣言を前に、かすみはガタガタと席を立ち上がり、絶望に目を見開いた。
大翔さんや凌駕さんは、私を泣かせようとしたわけではなく、ただパフェを一緒に食べようとしてくれただけなのに……!
お屋敷で初期化されていくジェームス様、そして学校側の大誤解によって、青藍高校との絆が完全に引き裂かれようとしていた。
お嬢様と不良たちの運命の学園祭、一体どうなってしまうのか――!?
後編に続く




