第70章:悪女の高笑いと絶望のウエディング〜密室の南条家と、届くはずのない招待状〜
南条財閥の重厚な扉の奥深く、鉄壁のセキュリティに守られた静かなゲストルーム。
かすみは、激しい疲労とパニックの連続からついに限界を迎え、南条本邸で倒れてしまっていた。
ふかふかのキングサイズのベッドの上。かすみは今、冷徹な帝王・南条隼人の腕の中にすっぽりと抱かれ、深い眠りに落ちている。
「……かすみ」
隼人は、自分の胸に顔を埋めて無防備に眠り続けるかすみの身体を優しく、けれど絶対に逃がさないほどの強い力で抱きしめ直した。
外の世界で何が起ころうとも、もうこの腕から彼女を手放すつもりはない。男の重すぎる独占欲だけが、静寂の部屋を支配していた。
◇
一方、その静けさとは対照的な、光に満ち溢れた如月財閥の超高級ブライダルサロン。
そこでは、如月あやめと貝森拓人の結婚式の打ち合わせが着々と進められていた。
「ねぇ、私のドレス一緒に選んでよ」
何十着もの純白のドレスが並ぶ中、あやめは無邪気な声で拓人にカタログを突きつけた。
しかし、拓人の瞳に光はない。彼はすっかりあやめの仕掛けた恐ろしい罠にはまり、実家の事業であるスーパールッツを計画倒産させられ、完全に手足を縛られた状態だった。貝森財閥を救うためには、目の前の悪女に跪き、如月家の犬として結婚するしか道は残されていないのだ。
絶望に沈む拓人の土気色の顔を見て、あやめは心底楽しそうに口角を釣り上げた。
そして、何か素晴らしい名案を思いついたかのようにポンと手を打ち、甘く冷酷な声を響かせた。
「あっ、そうだ! 納屋かすみにも結婚式、招待しましょう! 私達の幸せを見せるためよ、おほほほ!」
「……っ、あやめ、お前……!!」
拓人がギリッと奥歯を噛み締めるが、あやめは意に介さない。
かすみからすべてを奪い、拓人を完全に支配したという圧倒的な勝利の悦び。あやめの狂気に満ちた高笑いが、きらびやかなサロンの中にどこまでも響き渡る。
しかし、あやめはまだ知らない。
彼女が勝ち誇って送りつけようとしているその招待状の宛先であるかすみが今、如月財閥すらも凌駕する力を持つ、南条隼人の絶対的な包囲網(腕の中)にいるということを――。
71章に続く




