第67章:門前の叫び、腕の中の平穏と帝王の宣戦布告
「かすみちゃん……! かすみちゃん、迎えにきたよ……!!」
南条財閥の重厚な鉄門の前で、貝森拓人は声を枯らして叫んでいた。
ブライダルサロンであやめを置き去りにし、愛車を爆走させてここまで辿り着いた彼の異様な気迫に、南条家のガードマンたちも容易には近づけない。
拓人の手には、如月あやめが仕掛けたあの学園祭の日の卑劣な罠、そして如月財閥がスーパールッツを計画倒産に追い込んだ全ての裏取引が記録された、驚愕の闇データがしっかりと握られていた。
クローゼットの鍵付きの箱に隠し持っていた、かすみとの大切な思い出。それを今度こそ本物の形にするために、拓人はすべてを賭けてここまでやってきたのだ。
「かすみちゃん、頼むから出てきてくれ……! 僕が悪かった、全部如月の罠だったんだ……!」
門前で必死に訴え続ける拓人。
――けれど、いくら拓人が叫ぼうとも、納屋かすみがその前に姿を現すことはなかった。
その頃、鉄壁のセキュリティに守られた南条本邸の奥、鍵の掛けられた静かなゲストルームのベッドの上。
かすみは、激しい疲労とパニックの連続から未だ目を覚ますことなく、南条隼人の温かい腕の中にすっぽりと抱かれながら、静かに息を立てて眠っていた。
ポケットの奥に隠された古い指輪のことなど、今の彼女は知る由もない。
隼人は、自分の胸に顔を埋めて無防備に眠り続けるかすみの身体を優しく抱きしめ直すと、その愛おしさに満ちた顔をじっと見つめた。
「……ふっ、かすみの寝顔は、本当に可愛いな……。あの頃と、ちっとも変わっていない」
かつてツリンベッティー学園の王子様だった頃、サファリア女学院に通う彼女に一目惚れしたあの日から、隼人の心は彼女だけで満たされていた。毎年学園祭の日に、赤いバラの花束を抱えてキザなプロポーズを繰り返しても、名前すら覚えてもらえなかった苦い片想いの過去。
けれど今、その愛しい少女は、ついに他の誰でもない、自分の腕の中にいるのだ。
チチチ……と、隼人の高級インカムが、門前の騒がしさを静かに告げた。
手元の端末に映し出されたのは、門の外で必死に警察やガードマンに抗いながら、かすみの名前を叫び続けている貝森拓人の惨めな姿。
隼人の瞳から、かすみに向けていた甘い優しさが一瞬で消え去り、如月財閥をも一瞬で更地にするほどの冷徹な帝王(CEO)の眼光へと戻った。
「……さてと。貝森拓人が来ているとは、一体どういうことだね?」
隼人はかすみを起こさないよう、静かにベッドから立ち上がると、上着の襟をラグジュアリーに整えた。
「実家を潰され、悪女の言いなりになって思い出を処分していたような男が、今更どの面を下げて僕の城へ這いつくばってきたんだ……?」
部屋のドアの鍵を開け、外で待機していた誠やガードマンたちの前に姿を現した南条隼人は、屋敷全体に響き渡るような冷酷な声で、冷たく言い放った。
「長谷部誠、それに門前の貝森拓人にも伝えておけ。――南条隼人の正当な婚約者、納屋かすみは、誰であっても絶対に渡さない、とな」
目を血走らせてお嬢様奪還の隙を窺う執事・誠。如月の闇データを武器に門前で叫ぶ元カレ・拓人。そして、一目惚れの愛を完全覚醒させて城に立て籠もる若きCEO・南条隼人。
意識を失ったままのかすみお嬢様を巡る、3人の男たちの命がけの愛の戦争は、いよいよ一歩も引けない絶対防衛戦へと突入したのだった――。
第68章:拓人の如月闇データ暴露!動揺する南条家と、目覚めたお嬢様の大パニック編へ続く




