第65章:激突の残響、禁断の接吻と目撃された狂気
「――かすみは、俺の女だ」
南条財閥の広大な屋敷のド真ん中で、私の専属執事・長谷部誠が放った、禁断の叫び。
もちろん、マッツウィックスの若き総帥(CEO)である南条隼人がそれを見過ごすはずもなく、二人の男は大人のプライドをかけて激しい怒号を交わし、バチバチに応戦し合っていた。
けれど、あまりにも急激に重なる絶望と、目の前の激しい奪い合いの嵐に、私の心身はすでに限界を迎えていた。
ポケットの奥に隠した、あの楽しかった青藍高校のパジャマパーティーの思い出の指輪をそっと握りしめた瞬間――私の視界は急激に暗転し、私はソファーの陰へと崩れ落ちるように倒れ、そのまま意識を失って起きてこなくなってしまったのだ。
「おい、長谷部誠。一介の執事が僕の婚約者候補に向かって――」
「黙りなさい、南条隼人。お嬢様を本当に理解しているのはこの私……ん? お嬢様……?」
言い争いの最中、急に静かになった私を心配に思った誠さんが、ふとソファーの陰を覗き込みにきた。
そこには、青ざめた顔でぐったりと倒れている私の姿。
「お嬢様……ッ!?」
いつもは冷静沈着なエリート執事の顔が、一瞬で恐怖と焦燥に染まる。
誠さんはなりふり構わず私をその逞しい腕で床から抱きしめ起こした。けれど、私を失うかもしれないという極限の恐怖と、南条隼人への凄まじい嫉妬心が、誠さんの理性のネジを完全に消し飛ばしてしまった。
誠さんは**【何も言わずに】**、私の顎を強い力で上向かせると、そのまま、意識を失っている私の唇に、自らの唇を激しく重ねてきたのだ――。
息が詰まるほどの、冷徹で、けれど狂おしいほどに熱い、禁断の**【無言のキス】**。
「二度と誰の手にも渡さない、俺だけのものになってくれ」と言わんばかりの誠さんの暴走。
しかし、そのパニック必至の光景を、すぐ目の前で――あの**【南条隼人が、完全に目撃してしまっていた】**。
「……お前、いま……何をした……?」
隼人の瞳から完全に光が消え、如月財閥をも一瞬で破滅させるほどの、冷酷極まりない帝王の眼光が、私を抱きしめて唇を奪う執事・誠さんへと向けられた。
――その頃。
都内の最高級ブライダルサロンでは、如月あやめと貝森拓人による、結婚式の派手な打ち合わせが行われていた。
「ねぇ拓人さん、私のドレス一緒に選んでよ。このシルクのドレスなんて、如月財閥の次期オーナー夫人にぴったりだと思わない?」
贅を尽くしたウェディングドレスに身を包み、鏡の前でうっとりと微笑むあやめ。
だが、その横に立つ拓人の瞳には、生気がまったく宿っていなかった。実家のスーパールッツを倒産させられ、あやめの言いなりになっているように見えた彼の心には、実は別の場所に毅然と残されていた。
(あやめは、かすみちゃんとの思い出の品を全部処分しろと言った。だけど……僕にそんなことができるはずがない。処分してしまったら、あまりにもかすみちゃんが可哀想だ……)
実は、拓人はあやめの命令に背き、かすみとの思い出の品を何一つ処分していなかった。
自分の部屋のクローゼットの奥深く、誰も知らない鍵付きの入れ物の中に、かすみとの楽しかった記憶のすべてを大切に保管してあるのだ。当然、如月あやめはそんな拓人の秘密をこれっぽっちも知り得なかった。
拓人は何を思ったのか、ドレスのカタログを床に叩きつけると、そのままブライダルサロンの扉を開けて猛然と外へ飛び出して行ったのだ。
「ちょっと! 拓人さん、どこへ行くのよ! 戻りなさい!」
背後であやめがヒステリックに叫ぶ声を、拓人は完全に置き去りにした。
高級車のアクセルを床が抜けるほど踏み込み、拓人は大粒の涙を流しながら、狂ったように夜の街を爆走する。
「かすみちゃん……どこにいるの……!? 本当にあの南条隼人と結婚してしまったの? 嘘だろ、かすみちゃん……っ!」
激しい後悔と焦燥の中で、拓人は車を走らせながら、先ほど入手した【如月財閥、そして如月あやめのどす黒い闇の情報】をスマホで追っていた。
かつて、サファリア女学院での如月あやめは、目立たないただの「地味なお嬢様」に過ぎなかった。けれどあやめは、かすみと拓人が仲睦まじく微笑み合っている光景を、激しい嫉妬の炎を燃やしながら陰からじっと見つめていたのだ。
そして――あの運命の『学園祭』の日。
あやめは、拓人をかすみからわざと遠ざけるために、純朴な地味子を装って『私達の教室にも遊びに来てよ』と声をかけ、巧妙な罠を仕掛けて、最後まで拓人をかすみの前に戻らせることはなかった。
よく学園祭をきっかけに、それまで地味だった子が急に綺麗になったり、垢抜けていきなり可愛くなったりすることがある。あやめはまさに、あの学園祭の夜を境に地味な仮面を脱ぎ捨て、「男を狂わせる残酷な悪女」へと豹変を遂げたのだ。すべてはスーパールッツ計画倒産へと繋がる、如月財閥の長年の乗っ取り計画だった。
「如月あやめ……! 最初の最初から、僕らはあいつの罠に嵌められていたんだ……っ! かすみちゃん、今すぐ君を、僕のこの腕に取り戻しに行くから……!」
南条財閥の屋敷で起きた、誠の禁断のキスと、それを目撃して激怒する南条隼人。そして如月の闇を暴く武器を手に爆走してくる貝森拓人。
かすみお嬢様を巡る、3人の男たちの愛と狂気の戦争が、最悪にして最高の最高潮(修羅場)を迎えようとしていたのだった――。
第66章:隼人の怒りの鉄槌!誠の決死の防衛戦と、拓人の如月闇暴露カチコミ乱入編へ続く




