第61章:涙のお見合い、南条隼人の紳士的な抱擁と優しき求婚
最高級ホテルのラウンジ。
お守りの自由帳を握りしめる気力もなく、実の両親である納屋あけみと森野薫に連れられて座ったお見合いの席。
私は、目の前に座るマッツウィックスの若き総帥、南条隼人を前にして、かろうじて声を絞り出した。
「……はじめまして、納屋かすみ、です……」
挨拶をした瞬間、激しいめまいが私を襲った。拓人さんの裏切りの婚約発表、そしてスーパールッツの倒産のショック。心も身体もすでに限界を迎えていた私は、その場に今にも倒れそうになってしまったのだ。
「かすみさん……っ!?」
その時、対面に座っていた隼人が、驚くべき俊敏さで席を立ち、倒れそうになった私の身体をすんでのところで支えてくれた。
冷徹なビジネスマンの顔から一転して、彼の瞳には本気の焦りと、深い優しさが宿っていた。
「かすみさん、顔色がすごく悪いよ……。無理をしないで、少し休んだほうがいい」
隼人は私をそっとソファーへ座らせると、同席していた私の両親に向き直り、深く頭を下げた。
「あ……お父様、お母様。取り乱して、初対面なのに馴れ馴れしく言ってしまい、本当にすみません。……ですが、かすみさんの様子がどうしても心配なのです。どうか、彼女の最近の様子を僕に詳しく聞かせてください」
激安スーパーの冷酷な支配者だと思っていた南条隼人。
かつては露村隼人として衝突したこともあったけれど、実の親(南条虎之介・可憐夫妻)の血を引いた今の彼は、誰よりも礼儀正しく、そして私の体調を心から気遣ってくれる本物の紳士へと変貌を遂げていた。
自分の実家に復讐を仕掛けてきているはずの男から、思いがけず向けられた、あまりにも温かい本物の優しさ。
「……っ、う、うああん……!」
拓人さんから裏切られても、あやめからマウントを取られても、ずっと張り詰めて耐えていた私の心の糸が、隼人の優しさによって、ぷつりと切れてしまった。
私は言葉にならず、隼人の前で、思わず子供のように大粒の涙を流して激しく泣いてしまったのだ。
「かすみさん……。もう大丈夫だよ。僕が君を守るから」
隼人は泣きじゃくる私の肩を、そっと優しく、けれど力強く抱きしめてくれた。
実のご両親が勧めたこの縁談。それは我が家を破滅させる罠ではなく、もしかしたら私を地獄から救い出してくれる、運命の糸なのかもしれない。
泣き続ける私を抱きしめる隼人の胸の中で、私は不思議な温もりを感じていた。
――だが、お嬢様が敵であるはずの南条隼人の胸の中で涙を流しているその瞬間、ホテルの廊下には、メガネを外して嫉妬の狂鬼と化した執事・長谷部誠の影が、そしてあやめに連れられた貝森拓人の足音が、すぐそこまで迫っているのだった――。
第62章:修羅場のラウンジ!拓人の乱入と、誠vs隼人の大人の奪い合い戦争編へ続く




