第60章:支配された元婚約者、悪女の命令と南条隼人との邂逅
『スーパールッツ』が事実上の倒産に追い込まれたあの日を境に、貝森財閥の栄光は完全に終わりを告げた。
いまや貝森財閥は、如月財閥の完全な支配下へと組み入れられていたのだ。
「くそっ……どうして、こんなことに……」
豪華だった自室のデスクで、貝森拓人は頭を抱えて激しいショックに打ちひしがれていた。
最愛のフィアンセだった納屋かすみとは完全に破談になり、かつて「いつか結婚しようね」とお互いの指輪をはめて未来を誓い合った日々が、遠い幻のように思い出される。
(かすみちゃん……君は今頃、何をしているの? 僕を恨んでいるのかい……?)
拓人の脳裏に、かすみの寂しげな笑顔が浮かぶ。
(まさか、かすみちゃんがあの激安スーパー『マッツウィックス』の御曹司である南条隼人と結婚するなんて……いや、そんなことはないはずだ。……それとも、まさか、あのいつも影のように寄り添っていた執事の長谷部誠と結婚……? はは、いくらなんでも、そればかりはあるわけないよな……)
拓人は自嘲気味に呟いた。自分の犯した過ちの大きさに気づきながらも、今の彼にはもう、自分の運命を抗う力など残されていなかった。
なぜなら、今の貝森拓人は、完全に如月あやめの言いなり(操り人形)と化していたからだ。
バタン!と、ノックもせずに部屋のドアが乱暴に開く。
現れたのは、高級ブランドの毛皮を羽織り、勝利の笑みを浮かべた如月あやめだった。あやめは心の中で「うふふ、これで貝森拓人は完全に私の奴隷よ!」と暗黒の歓喜に浸りながら、冷酷に拓人を見下ろした。
「いつまでそんな冴えない顔をしているの、拓人さん? 今日はこれから、納屋かすみに会いに行って私達の『結婚の報告』をするんだから、早く準備をしなさい。私達の輝かしい門出を、あの負け犬に見せつけてあげるのよ」
「あやめ……かすみちゃんに会いに行くなんて……」
「口答えしないで。ああ、それから、その部屋にある納屋かすみとの思い出の品も、今日中に全部処分しておいてよね? 私の視界にそんなゴミが入るなんて許せないわ。さあ、行くわよ」
あやめは冷たく言い放つと、拓人を従えて部屋を出て行った。かつてのプライドをへし折られ、あやめの後ろ盾がなければ生き残れない拓人は、ただ下を向いてついていくしかなかった。
――拓人がそんな惨めな屈辱に耐え、あやめの言いなりになって準備をさせられていた、ちょうどその頃。
私は、サファリア女子大の喧騒からも、誠さんの鍵をかけたお部屋からも離れた、都内の最高級ホテルのラウンジにいた。
目の前に座っているのは、実の両親である納屋あけみと森野薫が強引に進めた、新たなる縁談の相手。
「初めまして、納屋かすみさん。……いや、お久しぶり、と言うべきかな?」
シャープなフェイスラインに、深い知性を湛えた冷徹な瞳。
かつて我が財閥から見下されていた男であり、今や激安スーパー『マッツウィックス』の若き総帥として世界の頂点へと這い上がってきた男――南条隼人が、極上のラグジュアリーな微笑みを浮かべて、私の目の前に座っていた。
拓人さんへの絶望の裏で、私と南条隼人との、運命を狂わせる新たな契約の幕が静かに上がろうとしていたのだった――。
第61章:南条隼人の冷徹な求婚!駆けつけた誠の嫉妬と銃撃戦!?編へ続く




