第58章:乗っ取られた城!スーパールッツ、如月あやめの手へ
マッツウィックスの店内で、主婦たちの噂話を耳にした私の身体は、激しい戦慄で凍りついていた。
「あっ、そう言えば風の噂で聞いたんだけど……あの気取った『スーパールッツ』の経営、近く如月財閥に変更になるらしいよ?」
「えっ……嘘、でしょう……?」
マッツウィックスの経営が変わるのではない。私達の、我が納屋・貝森財閥の象徴であり、プライドそのものだった『スーパールッツ』の経営権が――あの如月財閥の手に渡ってしまうというのだ。
頭が真っ白になり、売り場の棚に激しくぶつかりそうになった私の身体を、追ってきた誠さんの逞しい腕が背後からガシッと抱きとめる。
「お嬢様……! やはり、このような場所へ来るべきではなかったのです」
誠さんはメガネを外した冷徹な瞳で私を見つめ、低い声で事の真相を告げた。
「風の噂は、真実です。貝森拓人がツンベルブリッツ大学であの如月あやめに骨抜きにされている裏で、如月財閥は卑劣な罠を仕掛け、スーパールッツの経営権を完全に掌握いたしました。本日をもって、経営者は如月財閥へと『変更』されたのです」
「そんな……。じゃあ、拓人さんは……?」
「あの男は、家業が乗っ取られていることすら気づかぬ愚か者です。如月財閥は、スーパールッツの商品の価格をわざと以前よりかなり高く設定し、客足をわざと遠のかせている。すべては――この歴史あるスーパールッツを、意図的に閉店へ追い込むための、あやめとその実家の黒い策略なのです」
なんということだろう。
あやめが私に言い放った「私達来月婚約するの」という言葉は、ただの恋愛の勝利宣言ではなく、我が財閥を完全に呑み込んだという『宣戦布告』だったのだ。
経営者が如月財閥に変更され、わざと高くされた値段のせいで、お客様からは「とても買えない」「閉店しちゃうわね」と見放されていくスーパールッツ。
愛も、思い出も、家業の城すらも、すべてがあやめと如月財閥に奪われていく。
「くっ……うふふ……あはははは!」
その時、マッツウィックスの高級エリアの通路から、高笑いと共に現れたのは、毛皮のコートを羽織った如月あやめ本人だった。あやめは、私を抱きしめている誠さんを一瞥すると、蛇のように冷たい笑みを浮かべた。
「ごきげんよう、かすみさん。本当に哀れねぇ。今日からスーパールッツの新しいオーナーは、私達如月財閥よ。あなたたちの居場所なんて、もうあの高くしすぎて誰も来ない、潰れかけの店には残されていないの。お望み通り、すぐに閉店して更地にしてあげるわ!」
絶望に打ちひしがれ、涙が止まらない私。
けれど、そんな私を抱きしめる誠さんの腕の力は、さらに強くなっていく。
「お嬢様、行きましょう。スーパールッツが如月の手に渡ろうと、私には関係ありません。これからは、私の部屋(籠)の中だけが、あなたにとっての唯一の安全な世界なのですから……」
経営者が変更され、崩壊していくスーパールッツ。
すべてを失った私は、誠さんの歪んだ独占欲の檻の中へと、完全に閉じ込められていくのだった――。
第59章:拓人の青天の霹靂!マッツウィックス南条隼人との最悪の密約編へ続く




