第55章:涙のSOS、崩れ落ちるお嬢様と執事の超特急救出
拓人さんと如月あやめから、来月婚約するという最悪のマウントをぶつけられた、サファリア女子大の放課後。
私はなんとか次の講義の席についたものの、教授の言葉は右の耳から左の耳へと虚しく通り抜けていくだけだった。大学での授業の内容なんて、今の私の傷ついた心には、全く頭に入りようがなかったのだ。
机の下で、拓人さんから返された冷たい左手の薬指を見つめる。
(さよなら、拓人さん……二度と、会わないから……)
心の中でそう決別したはずなのに、体中の血が引いていくように寒くて、視界がぐにゃりと歪んでいく。
めまいがして、私は今にもその場に倒れそうになってしまった。
限界だった。一人でこの広大なキャンパスにいる寂しさと絶望に、私の心は完全に悲鳴を上げていた。
震える手でスマホを取り出し、私は一番に思い浮かんだ『彼』の番号を呼び出した。
プルルル、とワンコールで繋がる。
「……もしもし、誠さん……っ。迎えに、来て……。私、もう……」
それだけをかろうじて告げると、私のスマホは手から滑り落ち、私は講義室のデスクに倒れ込むようにして意識を失いかけてしまった。
◇ ◇ ◇
その頃、お屋敷の駐車場で待機していた専属秘書・長谷部誠は、お嬢様からのただならぬ掠れたSOSの声を聞いた瞬間、かけていたメガネをパリンと割らんばかりの勢いで外した。
「お嬢様……ッ! 今すぐお迎えに上がります!!」
誠の瞳に、いつもの過保護な優しさはなかった。お嬢様をここまで追い詰めた貝森拓人への激しい憎悪と、愛する者を何が何でも守り抜くという、獰猛な大人の男の独占欲が狂おしく燃え盛っていた。
誠は最高級の送迎車のエンジンを爆音で轟かせると、サファリア女子大の広大な敷地へ向けて、文字通り音速のスピードで車を爆走させた。
キィィィーーッ!!!
講義室の前に駆けつけた誠は、青ざめて倒れそうになっている私を見つけると、躊躇なくその逞しい腕で私を横抱きにした――完璧な、お姫様抱っこ。
「お嬢様……! よくぞ私を呼んでくださいました。もう安心です。あのような不実な男のいる世界など忘れ、私の籠(お部屋)へ帰りましょう……」
誠の胸の熱い鼓動と、絶対に私を離さないという強い腕の力に包まれながら、私はゆっくりと目を閉じた。
拓人さんとの恋が完全に終わり、私は誠さんの甘く狂おしい監禁生活の奥深くへと、ついに足を踏み入れるのだった――。
第56章:目覚めた監禁室!誠の至高の看病と、南条隼人の冷酷な影編へ続く




