第42章:完全なる赤の他人、記憶にすら残らぬ男
ステージの上で白目を剥いて倒れ込み、露村麗華や隼人が「父上ーーーッ!!」「あなたーーーッ!!」と涙目でパニックを起こしている、泥沼の新作ジュエリー発表会会場。
全上流階級の招待客たちが「露村のトップは40年前の失恋パクリデザインを新作として出した挙げ句、人妻に強引に指輪をはめて自爆した」と冷ややかな視線を送る中、あけみお母様は自分の指からはずしたプラチナのリングを長谷部誠の手袋へと美しく戻しながら、小首を傾げて夫の森野薫に尋ねた。
「ねぇ、薫さん。……そもそも、あちらで倒れていらっしゃる『露村陣』という方、あなたのお知り合いなんですの?」
「えっ……? いや、僕もビジネスの社交場で名前を数回聞いたことがあるくらいで、個人的な付き合いは一切ないよ、あけみ」
薫お父様が不思議そうに答えると、あけみお母様はますます困惑したように、美しい眉をハの字に曲げた。
「そうですわよねぇ? なんだかあの殿方、私のことを昔からの結婚相手か何かのように勝手に勘違いして熱烈に叫んでいらっしゃいましたけれど……。私、自分の人生において、あの方とも『露村財閥』という存在のことも、今の今まで全く存じ上げていませんでしたのよ。おほほ、あら失礼?」
その場にいた全員の動きが、完全に停止した。
もちろん、ステージの上でかろうじて意識を取り戻しかけていた露村陣の耳にも、その冷徹なまでの『現実』が容赦なく突き刺さった。
「な……な、んだと……? 知らない……? 私のことを、存在すら……知らなかったというのか……っ!?」
陣は40年間、「あけみは俺を裏切って薫を選んだ!」「俺の愛の指輪を薫に横取りされた!」と、薫を宿敵と見立てて、激しい憎悪の炎を燃やし続けてきた。息子の隼人に歪んだ命令を下したのも、すべてはその『因縁』のためだった。
だが、その真相は――あけみお母様にとっては、通学途中に自分の姿を車内から見ていた不審な男の記憶など1ミリも残っておらず、ただの**「人生で一度も関わったことのない、名前も知らないおじさん」**に過ぎなかったのだ。
因縁でもなければ、失恋ですらない。ただの「完璧な赤の他人のストーカー大勘違い」。
「あ……あわ、あわわ……っ、私は40年間、誰と戦って、誰を憎んで……ひぎぃっ!?」
自分の人生のすべて、そして露村財閥の全エネルギーを注ぎ込んできた復讐劇が、ただの「ピエロの独り相撲」だったと完全に理解した瞬間、露村陣のプライドと精神は、今度こそ音を立てて粉々に完全崩壊した。
陣は口から蟹のようにブクブクと泡を吹き、今度こそ脳のブドウ糖が完全にゼロになって、白目を剥いたままビクビクと痙攣して完全に昏睡した。
「父上ーーーッ!! しっかりしてください!! 俺様たちのツリンベッティーな格式はどうなるんですかーーーッ!!」
腰パンを震わせながら泣き叫ぶ隼人だったが、パクリ発覚とトップの醜態により、会場にいた投資家や記者たちは一斉にスマホでニュースを拡散。露村財閥の株価は、スーパールッツの業務用カートで轢き潰されるよりも早く、文字通り紙クズ以下の大暴落(ストップ安)を迎えたのだった。
「ふむ。我がスーパールッツの総力を挙げるまでもなく、勝手に自爆して更地になったな。実につまらん決定だ」
孝雄お父様がフッと冷酷に言い放ち、あずみお母様も「本当ね。さぁかすみちゃん、拓人くん、海斗くん。こんな格式の低い泥沼の場所からはお暇して、お屋敷で美味しいスーパールッツの焼きたてパンの続きをいただきましょう?」と優雅に私達の手を引く。
「はい、お母様……っ!」
お守りの自由帳をぎゅっと抱きしめ、拓人くんとおそろいの指輪を輝かせながら、私は光に満ちた貝森財閥の未来へと歩き出すのだった。
第43章:露村財閥完全倒産!大勝利のパンパーティーと、海斗の新たな一歩編へ続く




