第36章:ツリンベッティー学園祭の招待状と、40年越しの情けない執着
「ふふふ……これを見なさい。我が露村財閥の総力をもって、最高の舞台を用意してあげましたわ」
露村陣と隼人から、貝森財閥の邸宅へと届けられた一通の、やたらと金ピカで派手な招待状。
それは、隼人が通い、現トップの陣も卒業生であるという、超格式高い名門校――『ツリンベッティー学園』の学園祭への招待状だった。
露村親子の狙いは、哀れなほどに透けて見えていた。
かすみお嬢様と、本命彼氏の貝森拓人、長男の息子である森野海斗をまとめて学園祭に呼びつけ、さらには納屋あけみお母様と森野薫お父様、そして貝森孝雄パパとあずみママまで全員を招待。彼らの目の前で「我がツリンベッティー学園の圧倒的な格式高さ」を見せつけ、周囲の生徒たちに「納屋かすみの本当の婚約相手は、この露村財閥の御曹司・露村隼人なんだ!」と盛大に見せつけるという、あまりにも身の程知らずな作戦だったのだが――。
実はこのツリンベッティー学園祭には、露村陣の「40年越しの歪んだコンプレックス」が隠されていた。
かつてツリンベッティー学園の生徒だった若き日の露村陣は、通学中の高級車の車窓から、サファリア女学院の制服を着た若き日の納屋あけみを偶然見かけ、そのあまりの可愛さに一目惚れしてしまっていたのだ。
「あ、あけみさん……可愛い、可愛すぎる……っ!」
陣はそれから、ことあるごとにサファリア女学院の前を車で通過しては、彼女の姿を追い求めた。本当は、自分の母校であるツリンベッティー学園の学園祭にあけみを招待して、良いところを見せたかったのだ。
だが、当時のツリンベッティー学園は傲慢なセレブ校であり、「我が校の方が格式高いのだから、サファリア女学院などを相手にするな」という校風があった。陣もまたそのくだらないプライドに縛られ、あけみに直接声をかける勇気も持てず、いつも遠くから見つめることしかできないヘタレだったのだ。
そんな陣が指をくわえて見ている間に、あけみは何を思ったのか、自由な校風の**『青藍高校』の学園祭**に遊びに行き、そこで運命の出会いを果たした森野薫とお付き合いを始めて結婚してしまった。
後からその事実を知った陣は、悔しさと嫉妬で頭がおかしくなり、現代になって「ツリンベッティー学園祭にかすみお嬢様たちを全員招待して、今度こそ露村の格式を見せつけてやる!」と息巻いているのである。
「……ねぇ拓人さん、なんかすごく失礼な文字がいっぱい書いてある招待状が届いたの。ツリンベッティー学園の学園祭ってそんなに凄いのかな……?」
お守りの自由帳をぎゅっと抱きしめながら首をかしげる私に、拓人くんはふっと鼻で笑って、私の指の指輪を優しく包み込んだ。
「ああ、あそこか。俺たちの青藍高校をいつも見下してくる成金学校だよ。面白いじゃんかすみちゃん。そんなに自分たちの格式とやらを見せつけたいなら、みんなで遊びに行ってあげようよ」
「まぁ、ツリンベッティー学園祭ですって? スーパールッツの仕入れ先の足元にも及ばない規模の学校が、我が娘を前にして格式を語るなんて、お笑い草ですわね」
あずみお母様が上品にハーブティーを飲みながらクスクスと笑い、孝雄お父様も「ふむ、では我が貝森財閥と森野財閥の本当の『格』というものを、その学園の全員に教えてあげる決定を下そう」と静かに頷いた。
「俺も行くわ。あのトゲトゲ指輪のクズがかすみに対して調子乗るなら、青藍高校の根性、特大で見せつけてやるよ」
現在の青藍高校に通う海斗くんも、特大の焼きたてパンをモグモグ食べながら、叔父である薫の敵を討つが如く参戦を表明する。
自分たちがどれほど恐ろしい「神々の軍団」を学校に呼び寄せてしまったのか、ツリンベッティー学園祭でドヤ顔で待つ露村陣と隼人は、未だに何も気づいていない。
「おのれ露村親子、過去の失恋のヘタレ根性を隠すために我が至宝たるお嬢様を巻き込み、ツリンベッティー学園祭で婚約相手だと嘘の既成事実を見せつけようとは……ッ!! ギガ万死!! テラ万死ィィーーッ!!! 私が当日、学園祭の校門を過保護にバキバキに粉砕して差し上げますわ!!!」
部屋の隅で長谷部誠のメガネが怒りの真紅オーラで粉砕寸前になる中、私たちは高級リムジンを並べて、露村一族が盛大な自爆処刑を仕掛ける学園祭へと向けて、優雅に出発するのだった。
――のちに、ツリンベッティー学園の歴史上、最も「情けなくて哀れな公開処刑」として語り継がれる大事件が幕を開けようとしていた。
第37章:泥沼のジュエリー発表会と、マダムたちの華麗なる逆襲へ続く




