第3章:お嬢様、はじめてのふぁみれす?【後編】
あの嵐のようなファミレスの一件から、納屋財閥の広大なお屋敷へと戻ったかすみは、自室のベッドの上で小さく丸くなっていた。
「やっぱり……誠さんの言う通りだったわ……」
ふかふかの枕に顔を埋めながら、かすみはポロポロと涙をこぼす。
自分の世間知らずさのせいで皆に笑われ、碧には冷たい言葉をかけられ、海斗には「二度と行くな」と突き放されてしまった。おめかしまでして、ちょっぴりドキドキしていた初めてのファミレスは、かすみにとって悲しい思い出になってしまったのだ。
「私、もう外の世界には行きません……。青藍高校の皆様にも、もうお会いしないわ……」
かすみはその日以来、すっかりお部屋にこもりきりになり、あれほど楽しみにしていた青藍高校への潜入や交流を一切やめてしまったのだった。
お嬢様が部屋にこもってくれたことで、執事の誠は「お嬢様がドブネズミどもの巣窟へ行かなくなった!」と心の底で狂喜乱舞していたが、元気をなくしてシュンとしている姿を見るのは、誠にとっても身を切られるような辛さであった。
「お嬢様、お労しや……。全てはあのドブネズミどものせいです。この誠、必ずや奴らに報いを受けさせてまいります」
誠の眼鏡の奥の瞳に、静かな、けれど絶対的な殺意の炎が灯っていた。
――もちろん、その「報い」が青藍高校に届くのは一瞬だった。
次の日の朝、青藍高校の教室は、かつてないほどの恐怖と緊張感に包まれていた。
「おい……ッ!!! どいつだ!!! お嬢様を泣かせたのはどこのどいつだコラァァッッ!!!!」
ドン!!! と教室の机が真っ二つに割れんばかりの勢いで蹴り飛ばされ、森野海斗の怒号が響き渡る。背後からは、まるで本物の般若のような凄まじい怒りのオーラが立ち上っていた。
その目の前で、金髪メッシュのひろと(山野大翔)と、おしゃれな凌駕(岩野凌駕)のチャラ男コンビが、完全に縮こまって床に正座させられている。
「いや、ボス! 俺らはただ写真を送っただけで、泣かせるつもりなんて本当に……!」
「っていうかさ、ぶっちゃけ、まさかあそこまで世間知らずとは思わなかったんだよ! よっぽど箱入りお嬢様なんだろうね……」
2人が冷や汗を流していると、ガチャリと教室のドアが開いた。のんびりしている貝森拓人が、メロンソーダの余韻に浸りながら入ってくる。
「あー、すっかりテスト勉強できたし、リラックスできた〜。でもさ、昨日あの子、面白いこと言ってたよね。『ファミちゃんのレッスン』ってなんだろう? なんか楽しそうだし、俺も参加したかったな〜。……なーんて、今の海斗の前じゃ言えないか。あはは」
「「「(お前、今思いっきり言ってるわ!!!!)」」」
ひろとと凌駕が心の中で全力のツッコミを入れた瞬間、海斗の鋭い視線が、拓人と、かすみを泣かせた罪悪感で指先を震わせている早瀬碧へと向けられた。
「早瀬……貝森……てめぇら、あの純真無垢なお嬢様に一体何を――」
海斗がドスの利いた声で一歩踏み出した、その時。
教室のスピーカーから、ピンポンパンポン、と慌てふためいたチャイムの音が鳴り響き、先生の緊迫した声が校舎中に響き渡った。
『――青藍高校の生徒に告ぐ! 先ほど、サファリア女学院から我が校に、極めて重大な抗議の連絡がありました! 昨日、駅前のファミレスで、サファリアの納屋かすみお嬢様を泣かせた生徒は、至急! 校長室に来て下さい!!! 繰り返す、該当の生徒は今すぐ校長室へ!!!』
「「「「げっ……!!!???」」」」
サファリア女学院(と、裏で手を回した誠)からの正式な抗議に、教室の不良たち全員の顔が真っ青に染まる。
「早瀬……お前、校長室行きだな」
「待て海斗、僕だけの責任じゃない、写真を送った山野たちも……」
「俺らは関係ねぇって!!」
お嬢様が部屋にこもってしまったサファリア女学院と、大パニックの呼び出しで大内乱がさらに加速する青藍高校の教室。
海斗の怒りと校長室の危機を前に、かすみお嬢様との恋の行方は一体どうなってしまうのか――!?
第3章【後編】までお読みいただき、ありがとうございました!
お部屋にこもってしまったかすみお嬢様を心配しつつも、誠さんは心の中でガッツポーズをしていそうですね(笑)。
一方の青藍高校の教室では、海斗くんの怒りが大爆発!そんなピリピリした空気の中でも、相変わらずマイペースに「ファミちゃんのレッスンに参加したかったな〜」なんて言ってしまう拓人くんの天然っぷりがお気に入りです。
最後はサファリア女学院(絶対に裏で誠さんが動いていますね……!)からの公式な抗議によって、まさかの校長室呼び出しという大パニックになってしまいました。碧くんたちの運命やいかに……!
次回、第4章からは新展開が始まります!落ち込んでしまったお嬢様を、海斗くんたちがどうやって元気づけるのか、ぜひお楽しみに!




