第26章:決死のお返し挨拶、からの即Uターン!?
拓人さんが我が家に堂々と挨拶に来てくれて、おそろいの指輪を私の薬指に嵌めてくれた、あの甘い日から一夜明けた水曜日。
私はお守りの「自由帳」と、昨日もらったばかりの光り輝く指輪を胸元でぎゅっと抱きしめながら、強い決意を固めていた。
「――今度は、私が拓人さんの家にあいさつに行かなきゃね……!」
いつも守られてばかりじゃダメ。男らしく来てくれた拓人さんのために、私も一歩を踏み出すの。
私は高級リムジンの後部座席に乗り込み、運転席の長谷部誠に目的地を告げた。誠はメガネの奥の瞳をすこぶる不機嫌にギラつかせながらも、「御意」とだけ答えて車を発進させたのだった。
◇ ◇ ◇
やがて、リムジンが到着したのは、日本を裏から牛耳る超巨大組織『貝森財閥(スーパールッツの総本山)』の息をのむほど広大で荘厳な大豪邸の前だった。
そのあまりにも高すぎる格式と、重厚な鉄門の前に並ぶ警備員たちの威圧感に、車から降りた私の足は、その場ですくんでしまう。
ごくりと息を呑み、私は震える声で門番の前に歩み出た。
「は、はじめまして……っ、納屋かすみです……っ!」
とりあえず名前は名乗ったものの、目の前にそびえ立つ貝森財閥の圧倒的なスケール感とプレッセルが、一気に私の心にのしかかってくる。こんな凄いところに、私は本当に一人で挨拶に行こうとしていたの……!?
心臓がバクバクと早鐘を打ち、頭の中が真っ白になった瞬間、私の口から本音が完全に飛び出していた。
「――って、やっぱり私には最初から無理よ!!」
無理無理無理! 緊張で倒れちゃう!
私は完全にパニックになり、名乗った直後だというのに、ドレスの裾を翻してダッシュでリムジンへと逆戻りした。バタンッ!と勢いよく後部座席のドアを閉め、運転席の誠に向かって叫ぶ。
「誠さん、車を出して下さい!!」
その言葉を待っていたと言わんばかりに、運転席の誠が「フッ……」と、この世の春を迎えたかのような最高に嬉しそうな笑みを浮かべ、キランとメガネをバキバキに発光させた。
「御意にございます、かすみお嬢様。やはりあの害虫の巣窟など、我が清らかなお嬢様には100年早すぎたのです。さぁ、我が納屋財閥の安全な檻へ帰りましょう」
こうして、かすみお嬢様は大急ぎで納屋財閥の邸宅へと戻ったのだった――。
◇ ◇ ◇
一方その頃、かすみがパニックになって立ち去った貝森財閥のお屋敷の奥の間では――。
超巨大グループ『スーパールッツ』の創業者である貝森孝雄と、その妻・あずみが、報告を受けて眉をひそめていた。
「――あの納屋財閥の納屋かすみさんが門前までいらしたようだけど、一体何の御用かしら? ご挨拶だけしてすぐに帰ってしまうなんて、少し変ね……」
あずみお母様が不思議そうにつぶやくと、お父様である孝雄は、鋭い眼光をギロリと光らせて冷徹に受話器を置いた。
「ただちに、我が優秀な情報網を使って納屋かすみ嬢の『過去』を調べろ」
数分後、手元の端末に送られてきた詳細な調査報告書に目を落とした貝森夫妻は、激しい衝撃と、底知れない怒りに目を見開いた。
そこには、彼女がかつて露村財閥の人間たちから世間知らずと冷たく見下され、親族たちにひそひそと笑われるような酷い扱いを受けていた事実だけではなかった。なんと、あの露村隼人がかすみとの結婚を利用し、**【納屋財閥に婿養子に入り込んで全ての財産を乗っ取る計画】を裏で進めていたという、どこまでも汚い【財産目当ての政略結婚】**の全貌が克明に記されていたのだ。
「……おのれ、露村財閥め!! 我が最愛の息子・拓人が命に代えても守ろうとしている純粋な少女をいたぶるだけに留まらず、納屋財閥の財産を乗っ取るための道具にしようとしていたとは……断じて許せん!!」
孝雄が怒りのあまり机を凄まじい音で叩きつける。あずみもまた、その優しい瞳を冷酷な怒りに燃え上がらせて頷いた。
「ええ……。愛などひとかけらもない、ただの強欲な財産目当てでうちの可愛い息子の婚約者(お嫁さん)を傷つけるなんて、母親として、貝森財閥として絶対に看過できませんわ。露村財閥、まとめて社会から消し去って差し上げましょう」
かすみの哀しい過去と露村の卑劣な罠を知ったスーパールッツの最高権力者夫妻の怒りは、ついに限界を突破した。露村財閥を地の果てまで徹底的に叩き潰すため、最強の親たちが今、本気で動き出すのだった――!
貝森財閥の両親がかすみお嬢様をお迎えに伺う第27章です




